それは不思議な出会い? ③
「どこに行っちゃったのかな? …………あ!」
私はしゃべる白猫を追った。
そして、すぐに発見する。
「嘘でしょ……?」
白猫は空いていた窓から校舎の中へ入ってしまった。
私も白猫を追って、窓から校舎の中へ入る。
オカルト的なことは信じないけど、夜の校舎は不気味だった。
「早く出て来てよ……」
白猫を再び見失い、校内を彷徨う。
すると職員室の電気がまだついていることに気が付いた。
まだ誰か先生がいるの?
そうだ、残っている先生に白猫が来ていないか聞いてみよう。
もしも知らない、って言われても問題無い。
このペンダントを落とし物として届ければ、私は開放される。
「失礼します」
私が職員室へ入ると明かりがついているのは一角だけだった。
一人の先生が俯いている。
女子野球部の顧問、見田先生だった。
「あの先生?」
声を掛けてみたが、反応が無い。
寝ているのかと思って、先生の肩に触れようとした時だった。
「松谷さん……あんな天才、私の手に余るわよ……」
見田先生はゆるりと動きながら、しゃべる。
「せ、先生?」
私の存在を気にしていないようだった。
「私は昔、少しだけソフトボールをやっていただけで野球部の顧問になったのに、あんな天才が入って来るなんて聞いてない。マスコミは私の経歴まで調べるし、好き勝手言って……」
見田先生の身体が小刻みに震える。
まともな状態じゃない気がした。
そういえば、今年の全国大会で負けた時、高校宛てに『顧問の采配が悪い』などの心無い内容の手紙が何通届いたと森山先生が言っていた。
見田先生はそのことで気を病んでいるのかもしれない。
「先生、落ち着いてください」
そう言いながら、見田先生の肩に触れた時だった。
「天才なんていらない!」
「せ、先生?」
先生が精神的に追い詰められているのは分かった。
――でも、次に起きた出来事は意味が分からない。
私の常識を遥かに超える事態が発生してしまう。
「え………………!?」
先生の身体から黒煙のようなものが溢れ出した。
人間は本当に予想していない事態が起きると叫べないし、身体が動かなくなる、と痛感する。
私は先生から溢れ出た黒煙が人の形になるまで、眺めてしまった。
「なんなの……?」
少しだけ頭が回転し始めたみたいで喋れるし、動けるようになる。
でも、もっと早く行動して、逃げるべきだった。
見上げるほど大きな黒い人型の何かは動き出し、太い腕を振り被る。
「本当に何なの!?」
私は辛うじて躱した。
黒い人型の腕は職員用の簡単に吹き飛ばす。
実体があるの!?
あんなのに当たったら、絶対に死んじゃう!
逃げないと、と思ったのに足が動かず、黒い人型に捕まってしまった。
「放して!」
掴まれた腕を必死に振り解こうとしたけど全然駄目で、黒い人型は私の首に手をかける。
「…………!」
息が出来ない。
少しだけ夢かも、とか思っていたけど、これは絶対に現実だ。
「その子を放せ」
声がした。
同時に白い球体状のものが黒い人型へ直撃する。
黒い人型は怯み、私を放した。
「一体何が……?」
球体の飛んできた方向を見るとあの白猫がいた。
「こっちだ!」と白猫は叫んで、職員室の外へ走り出す。
「ちょっと待ってよ!」
白猫の正体は分からないけど、あの黒い人型から助けてくれたの事実。
私も職員室を出て、白猫を追った。
白猫は昇降口の辺りで止まる。
「あなたは一体何者? それにあの黒い人型は何?」
「私の名前はクラシー。あの黒いのは人の負の感情を具現化した存在。我々はコミュクスと呼んでいる」
「コミュクス……」
聞き馴染みのない単語だった。
そもそも、あんな化け物、私の常識の範疇を越えている。
「私はこことは別の世界からやって来た。コミュクスとそれを操る者たちを止める為にね」
別の世界、なんて言葉、さっきまでの私なら馬鹿馬鹿しいと思ったに違いない。
けど、あの黒い人型に襲われた今なら信じるしかない。
「じゃあ、何とかしてよ」
クラシーは首を横に振る。
「私に出来るのはサポートだけだ。戦うのは君さ」
「ど、どういうこと?」
戦え、といきなり言われて困惑する。
「君には魔法の才能がある。そのペンダントは君の魔力に反応し、君に力を与える。その力でコミュクスを倒すんだ」
「うん、分かった……とはならないかな!?」
こんな事件に巻き込まれた挙句、私があの化け物と戦うの?
無理無理無理!
というか、さっき…………
「魔法って言った?」
「言った。君には魔法の才能があるんだ」
化け物、しゃべる猫、今更、魔法って言われてもそこまで驚かないけど…………
「いやいや、才能があるとかの話じゃなくて……!?」
戦いを拒否しようとしたらさっきの黒い人型……コミュクスだっけ? が壁を破って乱入する。
「迷っている時間は無い! 死にたいのかい!?」
クラシーは脅しに近い口調で言う。
あーもう!
なんでこんなことに巻き込まれるかな!?
「どうすればいいの!?」
何も出来ずに殺されるなんて嫌だ。
やれるだけはやってやる。
「ペンダントを手に取って、念じれば良い。そうすれば、ペンダントが君の魔力に反応するはずだ」
なんてアバウトな説明なの……って、考えている暇はなさそう!
コミュクスが突進してくる。
クラシーに言われた通り、ペンダントを手に取り、念じる……って、何を念じれば良いのかな!?
と、とにかく、この状況を抜け出せるならなんだって良い!
そう思った瞬間、ペンダントが光り出し、頭の中に言葉が浮かんだ。
「レイズ・ザ・フラッグ! …………って、私、何を言っているのかな!?」
私の言葉に呼応するようにペンダントは一層光を増した。
光は私の身体を包み込む。
一体何が起きているの!?
困惑している内に光が徐々に弱くなる。
すると服が変わっているのが分かった。
純白のドレス?
違う。
もっと動きやすい。
何だか、子供の頃に見た魔法少女のアニメでこんな服が出てきた気がする。
高校生の私には恥ずかし過ぎる格好だ。
「掲げるは〝不屈〟の戦旗! …………って、なにこれぇぇぇぇ!?」
私は誰かに操られたように、頭の中に浮かんだ台詞をまた口にしていた。
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