十二、
日本神話に、
山の神・
その貞節さと聡明さ、眉目秀麗の様は「日本女性の鏡」とされ、古くから民に親しまれ、崇敬を集めている。
古事記には、こう記されている――
しかし、姫はたった一晩で身ごもったそのことに疑問を持った瓊瓊杵尊は、木花咲耶姫命の腹の子を不義の子だと決めつけた。此花咲耶姫命はその疑念を腫らすため、戸のない産屋を作って籠った。
「わたくしの子が不義の子でなくあなたの子ならば、無事に生まれてくるはず」
姫はそう宣言すると、小屋に火を放った。小屋の隙間を全て泥で塗り塞いでからという、徹底した方法であった。燃え盛る産屋の中で、木花咲耶姫は三柱の子を産むことでその疑いを晴らした。
火が勢いよく燃え始めた時に産んだのが、
火が盛んに燃え続けている時に産んだのが、
火が燃え尽きるときに産んだのが、
木花咲耶姫の最期は壮絶で、富士の噴火を押さえるために、自ら火山の中に身を投げたといわれる。姫の体を飲み込んだ富士山は、鎮まったと言われている。
子を産むときに火に焼かれることなく、そして富士の噴火を押さえたその不思議な力。
木花咲耶姫命は、五穀豊穣を司る繁栄の女神であると同時に、火の加護を受けた女神でもあった。
***
(姿は見えないけれど……木花咲耶姫命の加護があるんだ)
明晴は震える腕で矢を構えた。力いっぱい、矢羽根を掴んで引き絞る。
体は既に限界だ。矢も一本しかない。きっと、この一撃で善住坊を止めるしかない。
神の加護は、信じぬ者には力を貸さない。
神の力を正しく清く使う――この矢は必ず当たると、明晴は姫の加護を信じた。
(当たれ――当たれ……!)
明晴は矢を手放した。体がずきり、と痛みを生じる。
以前、信長の稽古を垣間見た時ほどの威力はない。明晴では力が足りないのだということを痛感させられる。
矢は、善住坊に当たることはなかった。――途中で神隠しにあったかのようにかき消えたのだ。
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