十一、
地面に叩きつけられる衝撃で、
「~ッ~~~~」
「明晴!」
「無様だな」
そんな明晴を冷徹に見下ろすのは、
「
「お黙り」
春霞は素っ気なく顔を背ける。
清夏もさすがに何か言おうとしたが、その前に春霞の鋭い眼光が黙らせた。
「半人前を甘やかす筋合いはない。悔しければ、さっさと強くなることだな」
春霞は、
「
「「うるさい!」」
紅葉と白雪は、神気を集中させた。風雨が徐々に弱まろうとしている。今のままでは、善住坊を閉じ込めて置けるのも時間の問題だ。
(どうする? どうすれば、善住坊を止められる……)
明晴は春霞を振り返った。
「春霞、頼みが」
「断る」
春霞は皆まで言わずにぶった切った。
「妾に頼ろうとするな。そなたが自分で蒔いた種であろう」
「そ、それはそうだけど……」
少しくらい悩んでくれてもいいじゃないか、と明晴は不貞腐れた。
「……力を貸さぬ、とは言っておらぬだろう」
春霞は肩を落とす明晴の手――玉依姫から渡された数珠がついていない右手――に、数珠を置いた。首に掛けられるほどの長さがある。
「それを腕に巻け、明晴」
「腕に?」
「貸してごらん」
春霞は、明晴の右腕に数珠をぐるぐると巻きつけた。
うっすらと桃色に染まる数珠の表面には、桜の花びらが浮かび上がっている。
「その数珠は――初音の髪をもらい受けている」
「髪!? 切ったの? 女の人の命を?」
「出家させるほどではない。――明晴、目には目をという言葉を知っているだろう」
「目には目を、歯には歯を……って奴? 異国の裁き方だよね。でも、俺鉄砲なんか持ってないし、使い方も分からないよ」
鉄砲には鉄砲を――と言われても、明晴は鉄砲の使い方が分からない。そして、四神を全員呼んだことにより、明晴は今、立っているのもやっとなのだ。
砲撃による反動に耐えられないだろう。
「たわけ者」
春霞はまたもや明晴を殴った。
「仮にも怪我人!」
「我らが異界に引っ込めばすぐに落ち着く。この程度で騒ぐな。――忘れたか。お前は、陰陽師だぞ。願えばよかろう」
「願う……?」
「その数珠には、火を司る女神の加護をかけてある。朱雀の火を思い出せ」
朱雀の火は、浄化の火。
そして明晴は――陰陽術を使う者。
明晴は数珠を巻きつけた右手の指を2本立てた。
「我が名は明晴――天におわします火の女神よ、我に力を与えたまえ……」
脳裏に、春の風景が思い浮かぶ。
数珠に浮かんだ桜の絵。
火の女神。
玉依姫。
そしてその女神の加護を運んで来た春霞は、春を司る神・青龍。
舞い散る桜吹雪を瞼の裏に焼きつけながら、明晴は女神の名を呼んだ。
「――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます