七、
紅葉と白雪に半分ほど霊力を移し替えた。残りの霊力で、
炎を司る"
いかなる穢れも燃やし尽くす性質を持つ朱雀の力をもってすれば、
(近付くことができれば、だけどな!)
明晴は指を突き立てながら空を切り裂いた。
「斬ッ!!!」
霊気の刃が弾け、見えない空間に赤黒い飛沫が飛んだ。
腐りかけた肉の臭いが鼻を突き刺す。落ち武者狩りをした際に幾度も嗅いだ。あるいは、飢饉により廃村と化した村で雨宿りをした時に。
(これが、紅葉の言った死の臭い……)
こんな時代だ。生きるために人を殺めることは致し方ないこともある。しかし、弾け飛んだ臭いは、どう見てもいたし方なく奪った命の末路ではない。
「──許サヌ……許……ヌ…………グ、ガガ……!!」
地を這うような低い声。しかし、どこか幼さを感じさせる。
「化生の者か、魔性のものか、正体を現せ!」
明晴が呪文を放つと、血飛沫の源が徐々に輪郭を表す。組んだ指の隙間を覗くと、まるで鶴のような鋭い嘴を持つ鳥が浮かび上がった。
(酷い穢れだ……)
形は鶴のような出で立ちだ。しかし、皮膚は剥がれかけ、目玉は溶け出している。羽毛もところどころ抜け落ちている上、膿んだ傷口は悪臭を放っていた。
(水晶玉で遠見をした時は、まるで積屍気が善住坊を操っているのかと思ったけど、違う)
積屍気から溢れ出しているのは、恨み辛みといった負の感情だ。
善住坊を操っているように見せかけて、積屍気は善住坊を殺す機会を伺っていたようにも見える。その証拠に、溶け出した目は、明晴を映していない。常に、善住坊のいる方角を見ている。
(積屍気は悪い妖だと聞く……でも……)
もとを正せば、罪のない屍人から生まれた存在。
罪があるのは──善住坊だ。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……」
九字を切り、周囲を浄化し護身を図る。
積屍気は、祓わなければならない妖。しかし、祓うべきは積屍気ではない。積屍気を生み出した怨念だ。
神々の力をもってして打ち払う。明晴は穢れのない炎を呼び出すべく声を張り上げた。
「我が名は明晴。我が声に応えよ、その力を天より与えよ! ──十二天将、四神がひとり、火将・"朱雀"!」
空気が燃え上がる。この感覚は、はじめて十二天将を呼び出した時以来だ。
(清夏……応じてくれた!)
視界の端に、赤い髪の青年が現れる。
しかし、その青年に授けた真名を呼ぶよりも先に──明晴は激しく咳き込んだ。
口元を咄嗟に押さえると、ごぷっ、と異様な音が響く。
「明晴!!」
自分の掌に血液が張り付いている。
明晴が血を吐いていることに気づいたのは、膝から崩れ落ちた時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます