八、
頭が重い。
枕に頭を預け、
何度もまどろむ。しかし、うつらうつらすればその度、打ち据えられたような激しい痛みが眠りを妨げる。何日もそれが続くものだから、睡眠不足が積み重なる。
昨晩、とうとう耐えられずに倒れてしまい、
昔から、こうした頭痛は度々あった。しかし、ここまでひどく、しつこい頭の痛みは初めてだった。
幼い頃から眠れない夜は少なくなかった。
そしてそういう時は――いつも
「――はつね」
「……え?」
初音は思わず目を開けた。
玲瓏で、少し舌足らずな優しい声音を、忘れるわけがない。
だが、それはあり得ないのだ。妾腹の子である初音と違い、異母姉は正室の子。初音の比ではないほど深窓の姫として大切に父は育てているはず。
信長が命じたのでなければ、城に来ることはないし、もし異母姉を呼び寄せることがあったならば、信長か帰蝶が必ず知らせてくれるだろう。
「初音」
もう一度名前を呼ばれ、初音はとうとう体を起こした。
(
異母姉である菫姫の声を、間違うわけがない。
何年も会っていないが、初音にとっては一番心を許せる相手だ。大好きな姉の声を忘れた日はない。
(……ううん、おかしい)
初音は違和感に気づいた。
初音が実家の
3つ上の菫姫は、当時11歳。そして今は、18歳。
たった1年ならばともかく――あるいは、当時、既に成人していた
「初音。名前を呼んで」
菫姫の声音が、初音の耳朶にじっとりと絡みつく。
「初音。わたくしの可愛い妹。――さあ、私の名を頂戴」
呼んではならない、と初音は思った。
この声に、姉の名を与えてはいけない。そんな直感があった。
もし呼んでしまったら、取り返しのつかないことになる。
頭痛が激しさを増す。吐き気を堪えるように――あるいは口から無意識に菫の名が出ないように、口元を両手で覆い隠す。
「初音、さあ、早く――熱いのはつらいだろう? さあ、早く、そなたの姉の名を我に――」
何かが焦げ付くような臭いがする。まとわりつく熱さに震えながら、初音は口元に掌を押し付け続けた。
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