四、

「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 我こそはかの大陰陽師の子孫なり! 今ならあの安倍晴明あべのせいめいの子孫が、みなさまの悩みを吹き飛ばして進ぜよう!!」



 今日も岐阜城下では、自称ルビ安倍晴明の子孫が声高々に叫んでいる。

初音はつねどの、どう思う?」

万見仙千代まんみせんちよの問いに、初音は柳眉を潜めた。

「どうもこうもございません。あれは、詐欺です」

 安倍晴明の子孫などと言っているが、そんなものは詭弁だ。記録などいくらでも捏造できるものだし、確認するのは容易ではない。仮に提出を求めたとしたら、きっと「燃えてしまった」「なくしてしまった」とのらりくらりと躱すに違いない。子孫かどうかなんて、所詮は言ってしまったもの勝ちなのだ。

 占いの方だってそうだ。ただ、誰にでも当てはまることを言っているだけ。それを大袈裟に慰めれば慈悲深い術師に見えるのだろう。

 あの少年、見た目は13か4くらい。もしかしたらもっと幼いかもしれない。だが、やっていること自体は白々しい詐欺師と同じだ。

「だが、奥方さまも初音どのも、見たんだろう? あの童の術を。その術は偽物であったか?」

「それは……」

 初音は言い淀んだ。

 あの少年、占いは当てずっぽうだし、血筋も怪しい。しかし、あの日見た「十二天将召喚」そのものは、半分は本物だった。

「十二天将と、本当に契りを結んでいるかは分かりません。ただ……少なくとも、十二天将が傍にいると観せるだけの術は持っているかと」

「ふむ……では、霊力自体は本物のようだな」

 仙千代は袂から手紙を取り出した。

「万見さま、それは?」

 初音が問うと、仙千代は「御屋形さまから預かった」と言った。

「御屋形さまは、あの少年を城に招きたいそうだ」

「もうっ!」

 初音は苦々しく感じた。

「御屋形さまったら、また変な者を城に招いたりするなんて! 万見さま、やめましょう。あの少年、確かに詐欺師ですけど、妙な力を持っているのは事実なんですから。御屋形さまや奥方さまにどのような災いがあるか分かりません」

「だが、我らが勝手に断ることはできまい」

「そ、それはそうですけど……」

 仙千代は主命で、あの少年を城に招くよう命じられている。そして初音は、奥方とともにあの少年の奇術を目の当たりにした者として、同行を命ぜられていた。

「安心しろ、初音どの」

 仙千代は初音に頷いて見せた。

「もし、御屋形さまや奥方さまに危険だと判断したら、私があの少年を斬り捨てる。御屋形さまと奥方さまのことは、我らが必ず守ろう」

「……はい!」

 仙千代の言葉に、初音は深く頷いた。

 あの少年が安倍晴明の子孫であろうとなかろうと、そのようなことは2人には関係ない。


 主命には従う。だが、主より大切なものはない。


 もしあの少年が主夫妻に仇なす存在になるのなら、あの少年を問答無用で排除するだけだった。

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