第6話 告白タイム
いよいよだ。
食事の後片づけに入る。
シャンティもフォークやスプーンをナプキンで綺麗に拭き取る。
重箱を積み上げて蓋をし、もとの布生地で包み込んでいく。
ボクのはすべて使い捨てだから回収袋にまとめて放り込むだけだ。
彼女は爽やかな顔で、「楽しくて美味しかった」とボクにいう。
「今日は付き合ってくれてありがとう!」
「こちらこそ思いのほか楽しかった、誘ってくれてどうもありがとう」
シャンティは何も悪くない。
まずはそれだけ言わせてくれ。
初対面でしかも良い雰囲気なのに。
このまま友人としての第一歩なら上々の踏み出しだったのだろうな。
しかし、なぜ出会いがしらの今日なのだろう。
王様は町民の恋愛を何と心得ておられるのか。
王族と民は別物でございますよ。
このまま時間を掛けて親密な関係を築いてからのほうが断られるにしても、お互い納得がいくというものだ。
唐突な告白で拒否された場合、ボクよりも彼女のほうが学園に居づらくなる。
教室で変に意識しあってギクシャクしながら、周囲にからかわれていかないか。
それが心配なのだが。
ボクはつぎの瞬間、その心配をよそに告白を実行するのだ。
うっ。
やはり恐れているのはボクの心なのか。
信じられない!
命を賭して魔王に挑んだあの日の勇敢なボクはどこへ行ったんだ。
いや任務だ、これは任務なのだ。
目をつむって顔をぶるぶると震わせる。
そう自分に言い聞かせる。
王様が勇者のボクに与えた、民を救うための崇高なる任務なのだ!
なにも恐れなくていい。
なにも惑うことはないのだ。
王様がこれまで間違った判断を下したことがあったか。
見当違いをして人心を損ねた試しがあったか。
そのようなことは一切なかった。
──なかったのだ。
目の前に笑顔の君がいる。
シャンティ、この子なら軽く「ごめんなさい」といい「忘れましょう」という。
いうのに違いないさ。
食事のたびに、された告白を受けていたら恋煩いで熱を出す人はいないだろう。
もうすぐ昼休みが終わりを告げる。
いくぞ!
ボクはいま、ルタ・パリィだ。
学園生の一介の民なのだ。
「あの、シャンティ!」
「なぁに。突然声を張って」
「その、ごめん。じつはキミに聞いてもらいたいことがあって」
「そうなの? でも、もう昼休み終わるよ。放課後少しなら時間空けられるよ」
かあぁ!
なんて優しい子なんだよ。
だけど放課後に回しても伝えることは変わらないから。
「すぐ終わるから、一言だけなんだ……」
「そう。それなら聞かせてもらうわ」
言え、言うんだ!
言っちまえ!
「シャンティ……」
「うん」
「ボクはキミのことが……」
「うん?」
「す、好きなんだ!」
い、言った。
言ってしまった。
「うん、ありがとう。ルタは感じのいい人だったからわたしも嫌いじゃないよ」
「え……」
シャンティはさらりと受け流す様に言った。
それは……えっと。
学友とかの意味でなのだな。
ちがう、そっちじゃない。
「ちがう、そういう意味じゃないんだ。れ、れ、恋愛の好き……です!」
きちんと意味を伝えていなければ叱られるから。
ボクは勇者でいたい。
この世の厄災であった魔王を仕留めたのはボクなんだ。
勇者として名声を残し、いつか子孫を残す。
その母となる女人はもう心に決めてある。
だから勇者でなくなることがないために王様の命に従うんだ。
シャンティは悪くない。
これはキミを救うためにボクに科せられた勇者の試練なのだ。
「恋愛の……好きってことは、ルタ? 告白ってことですか」
「は、はい」
ボクは赤面しながらきっぱりと答えた。
「そんな、わたしたち今日、出会ったばかりよ」
「ひ、一目惚れ……です」
シャンティは戸惑いながらも否定しつつある。
そのまま断ってくれれば良いのだ。
初対面の青二才の告白を受け容れる女子高生がどこにいるというのか。
「考えさせて」
なぜ考える必要があるのだ。
「ボクなんか田舎者……ダメに決まってますよね? 無謀なことをしました」
「そうじゃないの、気持ちはうれしいのよルタ。はじめてのことで、現実を受け止める時間が欲しいといったのよ」
えっ?
う、嬉しいの?
見ず知らずの得体の知れないメガネ男子だよ。
ダサダサで将来性ゼロを醸しだした貧乏ファッションだよ。
告白を受けるのが初めてだったのか。
でも勉強熱心で授業態度も良かったよ。
キミは将来有望だよ。
だが急かしてわざと失敗したのではボクのほうも面目がない。
待つのは放課後までとしよう。
「そ、それなら放課後に校庭の中庭で答えを聞かせてよ」
「放課後に? それまでに出した答えでいいの?」
「うん。ぜひそうして欲しいんだシャンティ!」
シャンティはその条件でいいならと。
2人はまた放課後に会う約束をした。
結果は放課後に出る。
彼女は明らかに戸惑っていた。
きっと破談になる。
そしてボクの任務はそこで終わるのだ。
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