第5話 だんらんのひととき
昼休みになればお目当てのシャンティと二人きりだ。
彼女がお気に入りの場所なのできっと約束を守って来てくれるだろう。
昼食を一緒にと言っただけだったが。
ボクは王様の言いつけ通り、この子に告白をする。
愛の告白だ。
恥ずかしながらそんな経験がまだなかった。
だけどボクに恋心があるわけではない。
思い描いた通りのセリフを伝えるだけでよいだろう。
もう間もなく昼休みが来る。
学園には学食というサービスがあるようだ。
事前に調べておいた。
だけど一人前の学食ではボクの腹を満たせないんだ。
学生さんというのは随分と少食なのだな。
じゃ、ないのか……ボクが戦闘を
べつにお金の心配をしているのではない。
学食だと5人前は注文しなければならなくて。
どうにも目立ちそうなんだ。
学食屋のおばさんが食材に限りがあるから、大盛りで3人前にとどめてくれと。
そりゃそうだな。
他の生徒さんの分まで独占してはいけないから。
全員が学食で済ませるわけではなく弁当持参の生徒もいるので3人前なら認めてもらえるようなのだ。
ただ昼食時間の終わりごろに来ると客が少ない日はいくらでもお代わりができる。
そう教わったけど。
後半では意味がないのだ。
自分が誘っておいて約束に遅れるわけにはいかないからな。
食事の注文も予約しておいた。
だが皆が予約を入れると食事ができない生徒が出るため予約制度はないのだ。
そこは当然袖の下を渡して交渉する。
冒険の様々な場面で培ってきた交渉術を使ったのだ。
昼になった。
準備は整った。
約束の講堂へ急ごう。
講堂には出し入れ自由の机と椅子がたくさんあった。
自由に並べ替えても良い様だ。
そこにシャンティの姿はまだなかった。
席を並べておくとしよう。
先に席について、彼女の席も確保しておこう。
向かい同士がいいかな。
他の生徒がまばらに姿を現してきた。
ここを気に入っている者がほかにもいるようだ。
知らない生徒が近くに来た。
机の数を見たようだ。
そして別の場所へ行った。
ボクが3人前の食事を広げるため、机を2つずつ向い合せ4席にしておいたからだ。
後から3人来るのだと思い、気を遣ったようだ。
悪いな。ここに来るのはシャンティ1人だけだよ。
経験上、女性というのは何をするにも時間をかける生き物なのだ。
それにしても遅いな。
構内で食事をするだけだから、おめかしの必要はない。
彼女は弁当だろうか、それとも学食を注文しに行き迷っているのかな。
昼休みに入り10分も経過すると他の生徒が結構周囲に着席していた。
やっとシャンティが現れた。
ボクは「こっち、こっち」と手を振って合図をした。
「ごめんね! 待たせちゃったかな?」
「ううん」
ボクは軽く首を横に振り、さあそこに掛けてと言った。
彼女はボクの向かいの席に座った。
彼女は机の上に上質の布生地に包まれた弁当箱を置いた。
「お、お弁当か」
「ええ。ママの手作りなの」
「とてもいい匂いがするね」
シャンティは嬉しそうに微笑み、布生地を解く。
弁当箱は二段重ねの重箱だった。
「ねえ、ほかにも誰か来るの?」
二人きりで会う約束だ、来る分けがない。
彼女の目は余分に広げられていたボクの食事を見ていたのだ。
「いや来ないけど……」
「だってこの食事の量は……」
「ボク、意外と大食漢なんだよ。全部ボクのだよ」
シャンティは驚き、目を白黒させていた。
「いただきます!」
2人で合掌して食事に入った。
だんらんの時を刻んだ。
ボクは彼女の3倍の量をペロリと平らげる。
だって足りないぐらいなのだから。
彼女も負けじと母親の手料理を頬張った。
「そんなに慌てて食べなくてもいいんだよ、よく噛んでゆっくり味わってね」
「やだ。つい、ルタの食べっぷりにつられてしまって」
2人は終始笑い合った。
楽しいお喋りと美味しい料理の味で、あっという間に時間を溶かした。
「ごちそうさま!」
そのセリフはボクのほうが先かと、シャンティが焦り、まるで早食いのよう。
だからなにも言わずに待った。
彼女が食事を終えるまで。
そして2人で同時に言うのだ。
息を合わせるように。
例の任務を実行に移すためにボクが作りだした、だんらんのひと時。
とても良い雰囲気になってきた。
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