第3話 シャンティはどこだ
転校生としての挨拶も無事に済ませた。
自分の席は空いている席から選んで良いと先生が言った。
わりと空席があった。
魔王が去った世界だからな。
学園生を辞めた者も少なくはなかった。
ボクは窓際の陽の差す明るい席が希望だった。
目立ちたくはないので教室の最後方に見つけた空席に着席した。
教室の出入り口からは一番遠いが条件に合うのはここだけだから仕方ない。
「ボクは、ここにします」
それは担任の先生に向けて発したセリフでもあるが生徒も含んでの発言だ。
着席後、となりを見ると眼鏡を掛けた男子生徒が座っていた。
窓は左手にあり、横目に見たのは右側だった。
前方の席も空席がひとつあり穏やかに過ごせそうだった。
一人一人の間隔は1メートル弱だ。
机の広さ、つまり面積がわりと大きいのだ。
『
だけどボクは勉強をしにきたわけではない。
目的の女生徒を早々に見つけておきたいのだ。
王様は名前しか明かさなかった。
似顔絵とかせめて風貌とか背格好だけでも情報が欲しかったけど。
なにもないので手探りだ。
だがこれまでボクは数々の謎解きをこなして来たじゃないか。
シャンティは女子でこの教室の生徒なのだ。
隣席のメガネ君に聞いて見るか。
「ねえ、キミ!」
「……っん?」
「キミだよ、そう。名前をおしえてくれないか?」
「あ、名前ね……ピノという。ルタだったね、よろしく」
隣人のメガネ男子はピノ。
一瞬ボクのほうを見たがすぐ視線を教科書に戻しながら返事をした。
声を掛けたら割と素直に答えてくれた。
ボクは田舎者だと自己紹介をしたのに気に掛けてくれるんだな。
よし、ピノにシャンティのことを聞こう。
「ねえ、ピノ。シャンティというのはどの子なの?」
「え、ルタ! シャ……ンティに興味があるの?」
ボクにはさほど興味がなさそうだったのに。
急にボクのことをガン見してくるではないか。
そして目を見開いたピノが言葉を喉に詰まらせたのだ。
なにをそんなに驚くのだ。
「なんで? べつにいいじゃない」
彼は「べつにいいけど……」といい、言葉を続けた。
「名前を知っているのに顔は知らないのか?」
「なんで? べつにいいじゃない」
「ああそういうケースね。よくあるから分かるよ」
「うん?」
どういうケースなのだ。
なにを理解したというのだ。
ボクは視線を天井に向けたが何も思い当たることが浮かばない。
彼は答えた。
「要するに恨みの筋でしょ?」
なにを言い出すのかと思い、彼を見た。
「は? 恨みの筋とはなんのことだ?」
「なにかを騙し取られたんじゃないの? それともいきなり痴漢扱いされ、ひっぱたかれたとか」
おいおい、穏やかじゃないな。
というか……それだと面識があって名を知らない状況の話だぞ。
王様?
恋愛とか告白とかを勧めてくるから、もっと純な子なのかと思っておりました。
ボクはピノに首を横に振り、否定する。
「べつに恨みはないんだけど……」
「恨みの線じゃないんだ? 珍しいな。なら、余計かもしれないけど近づかない方がいいと思うよ」
なにその言い草は。
もしかして不良系のおてんば娘なのか?
やだなぁ。
やだやだ、告白なんてしたくないよ。
「ねぇピノ。シャンティは彼氏とか居そうなかんじかな?」
「おい、マジですか! ルタはアタックするつもりじゃないよね?」
「そんなに評判の悪い子なの?」
「あ……なんで興味があるのか知らないけど。はっきり言って告白なんてしようものなら、正気を失うぞ」
「それは……彼女が怪力だとでも言っているのか?」
ピノはなんだか険しい表情をする。
いったいシャンティをどこで知ったんだ、という疑念の顔だ。
「ルタがどうしてもというのなら教えるけど」
「どうしてもだ。頼むよ」
ほらあそこの席だよ、ピノは指を差して見せた。
「廊下側2列目の前から3番目の席だ。前後が男子で右隣は空席だから間違えることはないと思うよ」
ボクはピノに礼を言った。
休憩時間に声を掛けることにした。
いきなり名を呼んで毛嫌いされてはいけないので。
さりげなく挨拶から始めようではないか。
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