第2話 ルタ・パリィ
王様の言いつけだから登校した。
あまり気乗りはしていないというのが本音だ。
目的があれだから気乗りなどできるはずもない。
ここは『学園リトルギア』という名の高等部になる。
王命ゆえに早朝から校門をくぐり抜けてきた。
遅刻など出来るはずもなく早朝に教室に入り、着席していた。
次第に教室に人数が増えてきた。
ぎこちなさは拭えない。
本来は部外者なのだから。
ボクは生徒の席ではなく、自由研究等のフリースペース席があったもので。
そちらに座り、静かに図書などを片手に。
「おい見ろよ。教室の端っこの席で縮こまって眼鏡をかけてる野郎を」
「転校生らしいな。この時期にかよ」
「どうせ、うちは
「グラスギアなら、知識を活かして就職も容易になってきたからな」
クラスメイトの男子生徒たちが着席して自分の噂話をしているのが耳に入る。
あくまで彼らのひそひそ話だ。
聞こえよがしに嫌味をぶつけているのではない。
距離は一部屋分はある。
ボクの持つ「空間伝達」スキルの耳が聞き逃さないだけなのだ。
もっとも、聞こえないふりをして読書などをしているが。
この時期といったのは、魔王が討伐されたご時世という意味だ。
そんな時期に養成学校に転校までして執着する必要性が薄れて来たのだ。
リトルギアとは末は魔王や、魔物の討伐を目的とした人材の養成学校だ。
立派に成長し、卒業した者を「ギアウォード」と呼称し世に送り出すのだ。
王様の命で配属となったのは『
その生徒たちは俗に「グラスギア」と呼ばれている。
ギアとは歯車のことで、ここでは社会の歯車的存在の意味になる。
力を合わせてより良い人間社会を築ける人材輩出が設立の目的だ。
「もうすぐ授業がはじまる。本日の授業は調合だったか。薬学も楽じゃない」
「俺はコケの採取のためいつもの坑道にいくから自由研究だ」
「こっちはキノコとできれば新種のタネにめぐり会いたいから森にいくよ」
「新種の? まあ研究費も削減されたことだし武運を祈ってるぜ!」
ここが『
冒険者になれば魔物討伐で深手を負う者もでる。
その回復薬となる素材収集や調合研究が主な学習の課題となる教室だ。
グラスギアたちが各々の成果のため本日の方向性を話し合う。
教室に残り研究する者。
採取のために坑道へ出かける者。
または、レアなものを見つけて街に売り、研究費の捻出に精を出そうとする者。
一般枠には街の冒険者ギルドなどもあるが。
大抵、学園生からの成り上り冒険者が優遇される。
そのための研究に余念がないのだな。
ボクは養成学校とは無縁なのだが。
魔王はボクが討伐したので今は緊急で学園生らが冒険者としての召集を受ける可能性は低い。
ただ今後も緊急時に備えて訓練の続行はされているようだ。
街の周辺からは魔物の姿は消えたが、すべてが魔王の配下ではなかった。
魔物自体はまだ存在しているということだ。
魔法研究のために捕獲され飼育されていた個体も世の中には計り知れない数がいたはずだ。
この学園でも訓練のため放し飼いにされた魔物の施設や領域があるはずだ。
元々在籍していた生徒達はそのまま研究や試練を続行しているのだ。
「レアものでなくても数で勝負するために
「パーティーを組むのは金持ちと相場が決まっているんだ。諦めろ」
「あーあ、せめて
「そいじゃ中等部にでも行って恵んでもらってこい」
ほかの教室には『
その名の通り荷物持ちや剣士を輩出する教室のことだ。
家柄が良ければどこの教室でも希望入学可能だが、貧困だと『
格好良く生きるために辛い訓練に身を委ねることを志願するのだ。
そんな意味で『
おっと。
キンコーンカーンと始業の合図が校舎に響き渡った。
雑談でガヤついていた教室は先生の入室に合わせるように静まり返った。
皆が各席に着いたようだ。
秩序は守られているようだ。
まもなく先生がやってくる。
ボクの転校の紹介があるから、あの教壇の前に出ることになる。
髪型はボサボサではないが伊達メガネを掛けていた。
元冒険者だと誰にも気づかれてはいけない。
ましてや勇者だなどと知られてはならないのだ。
「命を賭して内密にせよ」と王様に言われたのだ。
身バレするようなことがあれば、間違いなく「勇者権はく奪」に繋がってしまうではないか。
さいわいボクは天涯孤独の身だ。
うんと田舎からやってきたことにするのだ。
だから野草には詳しいとかなんとか誤魔化しながら過ごすことになる。
でも自分の持つ知識を微塵もひけらかしてはいけない。
そして魔王を討伐した勇者の名は広く知られているはずなので。
ちゃんと別の名を用意して置いた。
「皆さん、おはようございます! 転校生の「ルタ・パリィ」です。グラード峠を越えた田舎から来ました。よろしくお願いします!」
峠は存在するがその向こうに広がっていた地域は戦場となり荒廃した。
今も昔も、だれも近づきはしない。
ここからは果てしなく遠い場所になる。
名は昔、近所にいた仔犬と仔猫に付けた名だ。
ボクの素性を知るのは王様だけだ。
学園長でさえも知る所ではない。
下校までに「シャンティ」という女生徒に告白をするのだ。
人気のない場所に呼び出して「好きだ」と伝えれば良いだけのミッションだ。
たいした業務ではない。
なぁに、すぐに終わるはずさ。
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