第65話 ダンジョンの外でもデート その3

「ねえ、あの子達。どこまで一緒についてくるつもりか分かる?」

「うーん、放っておいたらずっと追いかけてくる気なんじゃないですかね」


 シロウとセレスは互いの顔を突き合わせてヒソヒソと囁き合った。

 ばれないようにちらりと背後を窺うと、看板の陰からぴょこんと二つの頭が覗いている。


「それにしてもシロウ君、きみってホントにあの子達から好かれてるんだね。あの子達、私が君を攫って行っちゃうんじゃないかって心配してるみたい」


 苦笑しながらセレスが言った。


「いやあ、あはは……。まあ、俺にとっても大事な人たちですから」


 シロウが照れくさそうに言うと、セレスはにんまりと微笑む。


「へえ~。じゃあ、今日はそんな大切な女の子達を放っておいて、お姉さんとデートしてるわけだ。……悪い子だね、シロウ君?」


「い、いや! 俺は別に、そういうつもりじゃ……」


 まごつくシロウの様子を見て、セレスはくすくすと笑った。


「くすくす、ごめんね。ちょっと揶揄ってみただけだよ」

「うう……」

「それじゃあ、そろそろ次の場所に行こっか?」

「次って……一体どこに行くんですか?」


 喫茶店、映画館と回っている内にシロウは彼女の趣旨を理解していた。要は、あのダンジョン内の小部屋での体験を外でも再現しようというのだ。だとしたら、次とは一体。


 シロウが不思議そうに首を傾げると、セレスはシロウの腕を引いた。


「ほらほら、とにかくお姉さんについてきて。今日はいっぱい楽しむんだから!」

「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」



 ――それから。二人は定番のデートコースを色々と巡って歩いた。

 街頭でのショッピングに始まり、流行りのスイーツを食べ、時には本屋に立ち寄ったり公園を散歩したりしながら様々な会話を楽しんだ。


 そして、気が付けば日が暮れる。

 いつの間にかついてこなくなった二人を心配してシロウが後ろを振り返っていると、セレスはふと立ち止まった。


「ねえ、最後はここに入りましょう!」


 セレスはシロウの手を引き、近くにあった遊園地の入り口を指差す。


「遊園地……ですか?」

「そう!遊園地って、夜の方が綺麗でロマンチックなんだよ。知ってた?」


 セレスは楽しそうに語りながら、窓口で二人分のチケットを購入する。

 入場してすぐ、二人は色とりどりのイルミネーションで彩られた観覧車を見つけた。


「ほら、あれ! あれに乗りましょう!」

 セレスは手を振りながら、シロウを誘った。


「い、いきなり観覧車ですか?」

「もうそろそろ暗くなるからね。ほらほら、いいから行こっ?」

「わ、分かりました」


 シロウは少し照れくさそうにしながらも、セレスについて行った。


 順番を待っている間に、空はすっかりと暗くなってしまった。

 二人は観覧車のゴンドラに乗り込むと、ゆっくりと上昇し始める。街の明かりが次第に遠くなり、静かな時間が二人を包んだ。観覧車が頂上に差し掛かると、シロウは美しい夜景に目を奪われた。


「おお、綺麗だな……」

 シロウが思わずつぶやくと、セレスもその景色をじっと見つめていた。


「ねえ、シロウ君」

「……? はい、何ですか」


 セレスが突然、真剣な顔でシロウの方を向いた。


「今日、こうやってシロウ君と一緒に過ごせて、本当に嬉しいわ。これからも、もっと色んな場所に行きたいし、もっとシロウ君のことを知りたい」


 セレスは優しく微笑んだ。その笑顔には、彼女の本当の気持ちが込められているように思えて、シロウはその言葉に少し戸惑いながらも、真剣な表情で頷いた。


「僕も……セレスさんと一緒にいると、なんだか楽しいです。これからも、いろんなところに行けたらいいなって思います」


 観覧車がゆっくりと地上に戻り、ゴンドラの扉が開いた。二人は再び地上に降り立つと、互いに軽く微笑み合った。


「……ふふ、ねえ。私たち、ちょっとは仲が深まったかな?」

「ええ、多分。それじゃあ、今日の目的は達成ですか」


 シロウが尋ねると、セレスはゆっくりと首を振る。


「……ううん。本当は、もう一か所、一緒についてきてほしい場所があるの」

「え?」


 セレスは黙ってシロウの手を引く。不思議に思いつつも、何となく逆らえない雰囲気を感じて、シロウも黙って付いて行った。



 そして、セレスに導かれるままにシロウがやってきたのは。


「こ、此処って……」

「うん、冒険者御用達の宿。私が泊まってる場所なんだ。――今夜は君を、私の部屋に招待したいと思って」

「しょ、招待……?」


 シロウが恐る恐る聞き返すと、セレスは彼の手をぎゅっと強く握った。

 緊張が伝わってくる。シロウはゴクリと息を呑んだ。


「……今日は、帰したくないの。……駄目、かな」

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