第60話 子リスは隠し部屋を見つける
シロウたちは一週間ほどの間を置いて、再びダンジョンにやってきていた。
セレスを先頭に、シロウ、ナツキとコペ、フィーナとスツーカが続く。
「今日はなんだか、前よりも人数が少ないね?」
「キサラ……俺の妹みたいな子ですけど、師匠と合宿があるとかで出かけてまして」
夏休みを利用して狩人としての本格的な修行を行うとのことで、キサラは師匠のマヤに連れられて三日ほど前にウキウキと出かけていった。
少々信じがたいことだが、どうやら彼女は師匠のことを随分と尊敬しているらしい。
(マヤさん、かなりアレな人だったけど……。大丈夫かな、キサラ)
初対面の衝撃を思い出して少々不安になったシロウだが、まあ、人間としてはともかく、狩人としては一流なのだろうと思っておくことにした。
「それより、今日は前回の続きで第三層を攻略する感じですか?」
「うん、そうだね。焦っても仕方がないし、ここからは一層ずつゆっくり回ろうか」
前回の小部屋で聞いたアナウンスの通り、透明な壁に遮られて通れなかった道が進めるようになっている。
シロウたちが進むと、下に降りる階段が存在した。
「さあ、この先が第三層だよ」
「下に降りても魔物の強さって変わったりしないんですか?」
「まあ、ちょっとは変わるね。でも、私にとっては誤差みたいなものかな。ちゃんと君の安全は守るから、安心していいよ」
セレスは任せておけとばかりにウインクを飛ばした。
第三層に降り立ったシロウたちだが、周囲の風景には特に違いはない。
相変わらず、苔がかった石畳の先に薄暗い洞穴が奥の方まで伸びている。
壁にはこれまでと同じように照明が設置され、以前にこの場所を管理していたという人物の配慮が感じられる。
「ダンジョンって思ったより地味ですわね。わたくし、もっと色んな想像をしておりましたのに」
「フィーナちゃん、想像って?」
ナツキが尋ねると、フィーナは目を輝かせて答えた。
「もっとこう、壁はクリスタルや宝石で飾られていて、地面も光る石でできていたりするのを想像していましたの。湖には霧が漂っていて、その奥に浮かぶ島があって、遺跡の中には狂暴なドラゴンがいる、みたいな感じですわ!」
「うーん。それはちょっと、漫画の読みすぎじゃない?」
「そんなぁ……。わたくし、ちょっぴり残念ですわ」
フィーナの想像力豊かな空想にナツキが苦笑していると、セレスが口を開いた。
「ふふ。さあ、行きましょうか。こっちよ、ついてきて――ッ!」
先導するセレスが通路を曲がろうとした矢先、突如として前方から巨大な二足歩行の蜥蜴が襲いかかってきた。
その手には鈍器のような刃物が握られている。リザードマンだ。
「しっ!」
「ギャウッ!?」
シロウたちが驚く間も無く、セレスが手にしたナイフを鋭く一閃してリザードマンの首を狩ると、そのまま胴体を壁際に蹴り飛ばした。
出てきた魔物をあっさりと処理した彼女は振り返ってにこりと笑う。
「——さあ、行きましょう?」
「ぷぷ。残念だけど、ドラゴンじゃなかったね」
「……爬虫類だし似たようなものですわ!」
「いや、違うだろ」
シロウが突っ込んだところで一行は先へと進み始めた。
「あ、クサカ君。ちょっとこれ、見て」
「ん、どうしたの?」
途中でコペが立ち止まる。
彼女が示した壁の一部には、よく見ると不自然な出っ張りがあった。
「何だかこの壁、変じゃない?」
「うーん……確かに」
シロウとコペが立ち止まった事に気付いて、先行していたセレスが戻ってくる。
「こら、二人とも。勝手に立ち止まらないの。あんまり離れたら危ないでしょ?」
「あ、すいません。ちょっと気になる場所を見つけて……」
「気になる場所?」
セレスは二人が指差した場所を覗き込む。
「……ああ。これは多分、隠し扉……かな」
「隠し扉ですか?」
「そう。こういう場所には大体、未発見のお宝が眠ってたりするの。まして、このダンジョンは最近発見されたばかりだしね。もし前の管理者が見逃していたのなら、まだ何か残ってるかも。試してみようか」
セレスはそう言いながら何気ない調子で出っ張りを押し込んだ。
すると、地響きと同時に壁がせり上がり、その奥は小さな部屋になっている。
部屋は一人が入れる程度の大きさで、正面には小箱が置いてあった。
「ね?」
「おお! これぞダンジョンって感じですね」
「ロマンですわ! わたくし、ダンジョンに潜っている実感が湧いてまいりましたわ~!!」
「今更だなぁ……」
セレスはコペの背に回ると、その耳に囁きかけた。
「ほら。開けてみなよ、あの木箱。何か入ってるかも」
「わ、私ですか」
「そう。君が最初に見つけたんでしょ?」
「わ、分かりました……」
コペが緊張しながらそうっと木箱を開くと、中には小さな指輪が一つ入っていた。
それは女性用と思われるサイズで、特に飾り気のないシンプルなデザインだ。
「ゆ、指輪が入ってました」
「へえ、指輪かぁ。ちょっと貸してみて。もしかすると何かのマジックアイテムかも」
コペから指輪を借り受けたセレスが様々な角度から指輪を眺める。
「……ど、どうですか?」
「うーん……。この指輪に魔力はあまり感じられないかな。一応何か微弱な力が宿っていそうだけど……詳しくは分からない。ダンジョンそのものが低級だから、これも隠された割に大した品じゃないのかもね。はい、返すね」
コペは返却された指輪を眺めながら尋ねた。
「これ、持っていても危険はないんですか?」
「うん。呪いがかかってる様子もないし、多分大丈夫じゃないかな」
セレスが頷くと、コペは指輪を左手の小指に通した。
「それ、付けるんだ」
「うん。せっかくの記念だし。……それに、ちょっとしたおまじないに、と思って」
「ふぅん?」
コペの言っている意味がよく分からずに、シロウは首を傾げる。
しかしコペは満足そうに左手の小指に嵌まった指輪を眺めると、シロウの腕を引いた。
「ほら、行こ? クサカ君」
「あ、ああ」
そうして彼らは再びダンジョンの探索に戻っていった。
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