第14話 厨二病、飛ぶ斬撃を会得する。




「っふぅ、ふぅ……引越し、完了ッ!!! と言っても物資を持ってきただけだが……まぁこれからあとは適当に家の枠組みを組むだけだ」


 大河は十数kmの道筋を辿り、約2kgのお水と火、そして制服を新たな拠点候補の地に持ち帰った。


 歩いた距離は合計で40kmに到達している。初日の大河ではこの5分の1の距離ですらひいひい言って絶命していただろう。


 火を絶やさないように持っていくのがかなり大変だった……いや、ほんとに。


 大河は荷物を置き、前の拠点と同じように家を組み始めた。


 1時間ほどでその作業は終わり、以前の拠点と同じようなものができあがった。ここまで手際よく作れるとは、俺の腕も大したものになってきたようだな。


 スマホの時間を確認すると、現在7時57分。太陽が沈み、月が顔を出している時間だ。ちょっと寒いので、大河は新生鳥籠ハウスの中でぬくぬくと焚き火に当たる。


「聖火の如く、俺はお前を継いでいくことにするよ」


 優しい口調で、焚き火を見つめてよくわからないことを言う大河。何でもいいが、その聖火とやらは汚いゴブリンの火が原点である。


 大河はそのまま地面に寝転がり、スマホを取り出した。


 ずっと我慢してきたんだ、へへへ。



《聖大河》

《ジョブ:ぼっち》

《レベル:15》

《スキル:毒耐性[+1] 気配遮断[+1] 空気[+1] 声真似[+1] うさぎ飛び[+1] 土隠れ[+1] 剣術[+2]》

特殊スペリオルスキル:劍の導き[+2] 神童[+2]》

《称号:スマホ中毒 先駆者 始まりのぼっち 始まりのスキルホルダー 始まりの狩人ファースト・ハント 必殺仕事人 買い物初心者 限定商品ポチリスト 闘争の夜明け 進化の胎動セフィロト・ウォーカー 特別な人スペリオル・ワン 迷宮発掘人ダンジョン・マイナー 始まりの蛮勇ファースト・ブレイブ 迷宮攻略の第一歩ダンジョン・イン・ウォーク 始まりの討伐者スレイヤーズ・ワン 孤高の攻略者ぼっち・イン・ダンジョン 孤独の戦士ぼっちスレイヤー 逆転の兆しリバース・ラウンド 無人島初心者 希少種狩りレアモノ・ハンター 動じぬ者 噂のあの人 オオモノを狩る者 奇跡の不運アンビリーバブル 奇想天外の征伐者》

《スキルポイント:9》

《無人島ポイント:50》


「……ふぅー…………」


 恍惚とした表情でステータス画面をキメる大河。恐ろしく気持ち悪い顔面だ。間違いなくキモすぎ珍百景に選ばれる逸材である。


《称号:無人島初心者》

・あなたは無人島初心者だ。

・効果:僅かに腹持ちが良くなる。


《称号:希少種狩りレアモノ・ハンター

・あなたは希少種狩りレアモノ・ハンターだ。

・効果:レア化モンスターに与えるダメージが50%増加する。感覚的にレア化モンスターの居場所がわかる。


《称号:動じぬ者》

・あなたは動じぬ者だ。

・効果:レア化ボスモンスターとの戦闘時、全能力値を大きく向上させる。レベルアップの際、能力の上昇値が増大する。


《称号:噂のあの人》

・あなたは噂のあの人だ。

・効果:接頭辞付きモンスターに与えるダメージが50%増加する。感覚的に接頭辞付きモンスターの居場所がわかる。


《称号:オオモノを狩る者》

・あなたはオオモノを狩る者だ。

・効果:接頭辞付きモンスターとの戦闘時、全能力値を大きく向上させる。レベルアップの際、能力の上昇値が増大する。


《称号:奇跡の不運アンビリーバブル

・あなたは奇跡の不運に巡り会った。

・効果:接頭辞付きレアボスモンスターから逃走する際、全能力値を大きく補整する。


《称号:奇想天外の征伐者》

・あなたは奇想天外の征伐者だ。迫る運命すら、あなたは殺しきって見せた。

・効果:獲得スキルポイントが1増える。全ての敵対する存在に与えるダメージが25%増加する。未知の可能性を秘める。


「最っ高だぁ……! 死闘と、それへの報酬。古代の戦士たちは戦いから帰ったとき、伴侶との抱擁があったと聞くが……これはそれよりも素晴らしい」


 人の温もりを知らぬ陰キャ小デブがわかったような口を効いている。


 ふと、ジョブの文字が点滅していることに気が付いた。


 そういえば、ジョブのクラスアップが可能になったとか書いてたような気がする。


 ジョブをタップすると、


《クラスアップが可能です!》

《初期ジョブ:ぼっち》

《選択可能一次ジョブ:孤独のぼっち 孤独の剣士 孤独の戦士 孤独の賭博師 孤独のサバイバー 孤独の芸術家 孤独の建築家 孤独の料理人 孤独の冒険者 孤独の攻略者 孤独の下忍 孤独の土忍 孤独のうさぎ 孤独の異常者》


 と表示された。


「孤独の……土忍? うさぎ??? よくわからぬゲテモノもあるようだが……ふん。所有しているスキルによっても選択可能なクラスアップ先が変化するようだな」


 となれば、やることは決まっている。俺の手持ちのスキルポイントは9。余裕が生まれれば、使ってしまうのが人間という生き物の性よ。


《スキルポイント:9》

《選択可能スキル:レスバ 言い訳 人間観察 気配察知 空気 毒耐性 黒魔術 KY 便所飯 仮眠 寝たふり 剣術 斬り上げ 不意打ち 奇襲 砂かけ 拠点作り 体術 声真似 うさぎ飛び 土隠れ》


 ……うぅーむ。悩むな。とりあえず今のスキルセットは全て強化しておきたいが……黒魔術とは一体何ができるのか。一般的に黒魔術と言えば、F〇の攻撃魔法とかが出てくるだろうが……。


 というか不意打ちと奇襲って同じ意味じゃね? 俺の日本語力の問題なのか……?


 本来の黒魔術は悪魔や悪霊の力を操り、他者を害するものだったはず。よく呪いや妖術なんかと一緒にされたりもする。


 透明化する巨大うさぎに、水の槍を飛ばしてくる魚が居る無人島だ。悪魔や悪霊の力なんて呼び起こしたら、とんだ化け物を呼び起こしてしまう可能性もある。


《気配察知 を強化しますか?》

《空気 を強化しますか?》

《仮眠 を獲得しますか?》

《体術 を獲得しますか?》

《剣術 を強化しますか?》

《消費スキルポイント:6》

《YES/NO》


 YESだ。


《スキル:毒耐性[+1] 気配遮断[+2] 空気[+2] 声真似[+1] うさぎ飛び[+1] 土隠れ[+1] 剣術[+3] 体術[+1] 仮眠[+1]》


 全身に数々の感覚が通り過ぎる。世界の色が広がり、己が溶け込み、頭が冴え、肉体の動きがより滑らかになり、剣術の理の一端に触れる。


 数秒、インストールされた力に呆然としてしまう。


 いつやっても慣れぬものだな。ふっ。


 不意打ちや奇襲も、土隠れが追加された無敵インビジブルなら有用に使えそうだが……正直神童スキルで上手いことスキルポイント使わずに取りたい。


 仮眠は絶対に独りで生きるには必要なスキルだと考えた。今すぐにでもできた方が、今後の生存率も上がるだろう。きっと。体術は言わずもがな。


 スキルポイント消費が6か……前に剣術を強化したとき、1ポイント使ったはず。となると……素のレベルが+1のスキルを強化するとスキルポイントが2必要になるのか。


 となると俺の予想が正しければ……


 獲得に1ポイント。

 レベル0のスキルの強化に1ポイント。

 レベル1のスキルの強化に2ポイント。

 レベル2のスキルの強化に3ポイント。

 〜〜〜

 レベル10のスキルの強化に11ポイント。


 みたいな感じになっていくはずだ。


 えーっと……獲得するときは考えないとして、


 1+11、2+10、3+9、4+8、5+7、6……


 5×12+6=……66、か?


 嘘だろ? 1つのスキルをレベル10にするのに66もスキルポイント使うのか?


 絶対に普通の人間じゃ足りない。というか俺も足りない。


 俺の獲得スキルポイントが+2された状態で、5レベルごとに3のスキルポイントが貰えている。


 ということは俺以外の普通のユーザーはレベル100までに19スキルポイントしか貰えないってことになる。


 スキルのレベル上限が5の可能性も全然有り得そうだな。


 思わぬ上限に面を食らったが、とりあえずそのことは置いておこう。今重要なのは、黒魔術を取るか否かにある。


 注意したいのは、あくまでぼっちというジョブが取れるスキルであるということ。正直しょうもない効果の可能性も十分ある。


 俺的には剣術強化に極振りしてもいいくらいだが……いや、剣術極振りしちゃうかぁ!


「……ふっ、案ずるな。俺はとうにお前を信じると決めている」


 大河はキモく微笑みながら無貌の旋律プロテウスを見つめた。


 実際はそれもあるが、黒魔術を取ってしまえばスキルポイントを綺麗に使い切れないことも剣術を選んだ要因の1つである。


《剣術 を強化しますか?》

《YES/NO》


 い、YESだ。


《スキル:剣術[+4]》


 宿る剣理。基礎的な剣を振るう姿勢、握り、間合い、全てがひとつ上の次元に到達した。剣を握れば、無敵になったような気持ちになれる。


 そして新たに使えるようになったこの力……え、マジで?


 通常のプレイヤーがレベル30になるまで、剣術1つに極振りしないと手に入らない領域の剣技。それは身体に宿る闘気を手繰り、アーツを繰り出すことが可能になる。


「__《スラッシュ》」


 蒼白く剣が輝き、身体が勝手に横薙ぎを繰り出す。


 ブォンッ!


 凄まじい速度で剣が振られ、大気を切り裂く。振られた軌跡に、蒼白い光の残滓が残る。


 か、かか、かっこいいぃッ!!!!


「ふ、ふふ」


 大河は目を輝かせた。まだまだ出来るぞ?


「《ダブルスラッシュ》」


 瞬く蒼い燐光。黒き剣は刹那に2度振られ、大気を切り裂き元の位置に戻る。


「《パリィ》、《サークルスラッシュ》」


 剣術[+3]で基本的な《スラッシュ》が解放される。大河は鈍感なので気付いていなかった。


「……凄い、が……これ手動でできないのか? 一定の動作を強制されるのは戦闘中だとかなり危険なんだが……」


 試しに制御できないかやってみるか。


「《スラッシュ》、《スラッシュ》、《スラッシュ》……なんか名前も気に食わぬ」


 3度瞬く蒼い光。その軌道は変わることがない。やっぱ無理か……? てかスラッシュて。名前が安直過ぎる。この俺を満足させるには至らんネーミングセンスよ。


「……《切断》__え?」


 《スラッシュ》が起動する。剣に蒼い闘気が纏われ、特に動作が強制されることはない。


「っふ、ふふ、ふははははッ! 《天撃》ッ! 《逢魔》ッ! 《斬神の神楽》ァッ!!! 名前を変えても動くではないかッ! ふははははははッ!!!!」


 大河は剣術[+4]、劔の導き[+2]、神童[+2]の力により、スキルをカスタマイズできる。


 気分が良くなった大河はそのままジョブまで決めてしまうつもりだ。


《初期ジョブ:ぼっち》

《選択可能一次ジョブ:孤独のぼっち 孤独の剣士 孤独の戦士 孤独の賭博師 孤独のサバイバー 孤独の芸術家 孤独の建築家 孤独の料理人 孤独の冒険者 孤独の攻略者 孤独の下忍 孤独の土忍 孤独のうさぎ 孤独の異常者》

《孤独の剣士 に昇格しますか?》

《YES/NO》


「YESだ」


 選択した瞬間、溢れ出す剣気。剣の天才は誰も追いつけない剣の道をひた走る。剣を握れば力が湧いてくる。


 これは……剣士ジョブの補正ってやつか?


 大河は鑑定や目利き、観察や考察スキルを持っていないのでわからないが、


《ジョブ:孤独の剣士》

・孤独の剣士。

・剣術スキルの効果が+1される。剣を所持しているとき、全能力値が向上する。単独で行動しているとき、全能力値が僅かに向上する。


 と表示される。


「これは、まさか……ッ!? いや、試してみるしかあるまい」


 深呼吸し、大河は剣を構える。


「秘剣__《斬翔》ッ!」


 蒼白い光の斬撃が放たれた。


 ミキミキ__ゴォォォオンッ!


 横薙ぎに放たれたそれに、射線上にある木が切り倒され、夜の森林に大きな音を立てまくる。


 大河が呆然とすることしかできなかった。


 剣術[+5]。本来この無人島で、数ヶ月以上戦い続けなければ手に入れることすら難しい領域のスキル。その領域に、グリッチ上等のゴミユーザーの大河は2日目にして辿り着いてしまった。


「__っふ、ふは、ふははは、ふははははははははッ!!!!!! もはや剣聖など恐るるに足らんッ! 稽古でも付けてやりたい気分だ! くく、くくくくく!」


 ちなみに今の大河では、特殊スペリオルスキル:剣聖の業を持ったユーザーに五分五分で負ける。剣術補正:特大は伊達じゃない。


 大河は夜中0時になるまで、ずっと剣を振り続け遊んでいた。サバイバルは体力を温存しなければならないが、こいつは食事すら忘れて剣術を楽しんでいるようだ。



 数時間後。



「すぅ……すぅ……ふがっ、すぅ………っふぁッ!? うぅぁぁぁぁ……ッ! いっっっっ、てぇなマジでよォ! ふぐっ、ヴヴぅん……ッ! うッ! いぎゃぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 無事気絶。


 仮眠スキルが機能してくれることを祈りつつ、大河は鼻水を垂らし、白目を向きしめやかに撃沈した。

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