第11話 厨二病、クラスメイトを発見する。
《クエスト報酬:特殊な称号、水入りペットボトル500ml、カロリーファイト4本、経験値:小 を受け取りますか?》
《YES/NO》
「YESっと……」
《称号:無人島初心者 を獲得。おめでとうございます! あなたはビギナーズクエストをクリアしました!》
《レベルが上がりました!》
《レベル:8》
空中に浮かび上がる蒼い光の輪郭。パシュンと光を放つと報酬たちが現れた。
「うわ、レベルアップしちゃったよ……」
大河は何故あれほどまでに苦しんだのか、称号の効果を書き出したことでその理由を察していた。
レベルアップに嫌な顔をしつつ、カロリーメイトをとりあえず全部食べる。
「……悪くない」
大河はパサつく口内に固形を成していくカロリーメイトがそこそこ好きだった。ダイエット生活で慣れたのかもしれない。
カロリー補充完了……カロリーというよりビタミン剤に近い食い物だが、まぁいい。
青天を見上げる。
今日俺がすべきことはなんだ? 1つずつ考えていこう。
「1、水の確保……これはもう終わっている。2、食料の確保……クエスト報酬にも限界はあるが、あの白い虫も食える。野菜や葉物、肉なんかも欲しいが……どうすればいいのか検討も付かん。3、拠点の確保……これも一応は終わっていることにしよう。4、衣類の確保……制服と麻の服の2種類があれば、とりあえず今は良いだろう」
こうして考えると食料の確保が問題だな。食うには食えるが、かと言って栄養面も充実しているかと言われると首を傾げざるを得ない。
白い虫は案外美味いし、たんぱく質は取れているはず。問題は野菜だ。カロリーメイトでビタミンを補給するにも限界はある。
「……ぅーむ。どうしようもなくね? どうにか無人島ポイントを稼いで、コンビニの野菜ジュースを購入する他あるまい」
無人島ポイントの稼ぎ方が未だに不明なのが恐ろしい。日刊クエストとかで貰えると俺は予想しているが、違った場合は怖い。
そこら辺に生えている草を食ってみるのもありっちゃありだが……流石にそれは抵抗感がある。動物由来の毒とかより植物の方がエグい毒持ってそうだしな。
「となるとできることは限られるわけだ。無制限に獲得できるリソースは主にダンジョンだな? 日刊クエストが解放されない限り、毎日獲得できるリソースはない」
そして俺には感覚的にモンスターの方向やダンジョンの発生位置がわかる。
「やることは決まったな、相棒よ」
きらりと日光を反射し、黒き剣が光り輝く。
★■★■★■★■★
傾向として、森林の奥の方にダンジョンの気配がする。海岸沿いには全くと言っていいほどそれらの気配がしないようだ。
海岸は初心者用エリアってとこか? ちょろちょろゴブリンは居るが、そこまで大した強さでもない。
「我が眼前から消え失せろ、
「ギャギャァ!」
しゅわっ。
一体のゴブリンがダサい技で斬り捨てられ、黒い煙となって消える。大河は片手でも無貌の旋律《プロテウス》を使えるようになっていた。
レベルアップによる能力値の向上と、元となる肉体の進化によるものだ。
大河は最寄りのダンジョンへと進むべく、海岸近くの拠点から歩いている。森の中を歩くと虫やら植物で軽く腕に切り傷ができる事もあるので、今は海岸沿いを移動していた。
「ん、あれは……?」
見える人影の群れ。視力0.8から1.5まで進化した大河には割と遠くの人間でさえも見つけることができる。
「
気配を空気と一体化させつつ、謎にスマホを取り出し耳に当てる大河。どうやら謎の人物と電話している設定らしい。
息を殺し、ゆっくりと音を立てないように近づく。すると声が聞こえてきた。
「……にしてもマジ体いてぇわぁ〜。誰だよ森の中で寝るとか言ったやつさぁ……夜中くっそ痛てぇしよ」
赤茶頭が文句を言う。
「仕方ないだろ? 航。僕たちはこの意味がわからない無人島で生き抜かなくちゃならないんだ。そのうち慣れないと後が辛いぞ。それに女の子も居るし、しっかり守ってあげなくちゃね」
それに茶髪イケメンがにこやかに反応し、
「……あはは。うん、頼りにしてるね。木原くん」
黒髪ロングのそこそこ顔がいい女が応答する。
「勇輝くんって本当に頼りになるね!」
金髪ボブが破顔して茶髪に語りかけ、
「それな? 鳥宮は帰っていーよ」
赤髪の女が赤茶頭にケラケラと冗談を言う。
「ちょ、おいおい。俺も結構頑張ったんだぞ? 昨日もゴブリン相手にボコってやったろうが」
「それは認めるけどさー? お陰であたしらもよくわかんない特殊スキルってゆーの手に入ったし」
「だろ!?」
人数は5。全て見覚えがある顔だ。
茶髪の優男風イケメンが木原勇輝。
赤茶色の粗暴そうな男が鳥宮航。
黒髪ロング女が日繰蒼。
派手な金髪女が……えーと、四十物寧。
赤髪女が西村裕美。こいつはガチきしょ。
俺のクラスの中心人物共だな。虐められてる俺には全くと言っていいほどに関わろうとせず、見て見ぬふりして青春を謳歌してきたカス共だ。
主犯の綱代大毅とか見つけたら殺してやろう。いや、衣服を切り裂いて全裸生活を強制するのも手だな。
中でもあの赤髪女は調子に乗って俺を蹴ったこともある。かなりキモイやつだ。
奴らは移動しているようだ。にしても特殊スキルだと? あのスタートダッシュクエストを、まさか離れ離れになった状態から、5人も集めてクリアしたというのか。
かなり凄いことをしてきてるな、こいつら。今後俺の障害へと成るかもしれない。何のスキルを取ったんだ?
「……なぁ、何か視線感じねーか?」
「何だって? ……確かに、薄らと感じるような……後ろか? おい! 誰か居るのか?」
不味い。考えていたよりもずっと気付かれるのが早かった。ここらが引き時だな。陽キャもどきの薄ら寒い助け合いごっこなどごめんだ。
俺はさっさと海岸沿いから移動し、森の奥のダンジョンへと急いだ。
★■★■★■★■★
《ダンジョンアプリ》
・名称:うさぎの洞穴
・位階:G
・領域:洞窟
・区分:ランダムダンジョン
《メインミッション》
・ボス:??? の討伐
《サブミッション》
・??? 10体の討伐
《イベントインフォメーション》
・レアモンスター出現確率上昇
「へぇ〜……ま、とりあえず冷たき死の贈り物と行こうではないか。うさぎ共」
大部分が土でできた洞窟の中を、ゆっくりと進む。ダンジョンアプリには???と書かれていることから、普通のうさぎが敵という訳ではあるまい。
スタートダッシュクエストでは猪はそのまま猪と表示された。おそらく一般的な野生動物は出会わずともそのまま表示されるが、モンスターとなると1度遭遇していなければ???として表示される。
きっとこういうことだろう。ともすれば、現れるうさぎはモンスターとしてのうさぎだ。
「……来い」
「きゅいきゅいっ!」
気配がする土の中へ声を掛けると、頭に角が生えた人相が悪い凶暴そうなうさぎが飛び出してきた。
トラップラビットというわけか! 面白い!
「__だが、既にバレていれば対処は余裕だな? ミスラビット」
「きゅっ……」
飛び掛かることも予想の範囲内。大河は構えていた黒き剣で、飛びかかった角の生えたうさぎを軽々と両断した。
凄まじい筋力。ソロでの行動に補正が掛かるからこその一撃だった。
しゅわっ。
うさぎが黒い霧となって消える。
一撃必殺、見敵必殺。我が剣の冴えは今日も絶好調のようだな。ふはははは!
「さて、進むとしようかのぅ! ふはははは!!!」
調子に乗った大河はモンスターの気配に突撃する。
「__さぁ、鏖殺だ」
★■★■★■★■★
《レベルが上がりました!》
《レベル:9》
「ぐ、ぐふぅ……はぁ、はぁ、まさかこのリハクの目を持ってしても捌ききれぬとは……ふぅ、イテッ」
数十分後。大河は調子に乗り、何も考えず角うさぎの群れに無双できると突っ込んだ。
結果はこの通りだ。
全身に軽い切り傷に咬合の傷跡、打撲など割とボコボコにされていた。
大河の戦闘技術ではまだ、5体を越える角うさぎを捌き切ることはできないらしい。四方八方から迫る角うさぎは恐ろしいものだったようだ。
「だがッ、俺は生き残ったッ! それだけが真実ッ! それこそが俺の勝ち残ったことを表す全てよッ!!! ふはははははは!!!」
モンスターへと与ダメ50%アップに能力値補正も受けてこのざまでは先が思いやられるが、それでも大河は確かに生き残った。
「……だが、喜ぶにはまだ早い。そうだな? 我が愛剣よ。まだ最後に一匹、凄まじき獣の気配が残っておる……」
洞窟の奥の奥。岩山に囲まれた最奥に、大河はモンスターの存在を感じ取っていた。
大河は最後の戦闘に備え、数分ほど休憩をすることにした。ダンジョン内での疲労回復促進や、疲労軽減効果であまり疲れてはいないが、それでも休息は大事なものである。
そのことを大河は知っていた。
__数分後。
「死ねぇぇぇいッ!!!!」
「きゅきゅぴぃぃぃっ!! ぷすぷすっ!」
放たれる螺旋の突きを、間一髪で弾き返す。
「怪我してるけど戦闘やめられないんだけどw」
「きゅぁっ!!!」
大河は戦闘時に溢れ出るアドレナリンに脳を侵されていた。思わず、大河の脳はFPS猛者の言葉をオマージュする。
相対するは巨大な角うさぎだ。頭に生えた巨大な角は曲がりくねり、1度突き刺されば簡単には取れない凶悪な形をしている。
鳴き声と共に弾丸のように跳躍する巨大兎。その巨体だけでも当たればかなりのダメージだと言うのに、更に尖った角までトッピングされたスペシャルコースだ。
喰らえばまず生きては帰れんが、
「やはりリトルホーンラビット共と動き自体は変わらんかッ! ミスタービッグラビットォ!!!」
大河は何度も角うさぎたちに攻撃され、ボコボコにされた結果ある程度の攻撃パターンを学習していた。
迫る巨大な角の一撃を身を下げて回避し、
「__秘剣、因幡飛びッ!」
「きゅきゅぁっ!?」
頭上を飛び越える巨大うさぎのお腹を斬り裂いた。血が吹き出し、大河の頭にどっぷりと掛かるが、それも数秒で黒い霧となり消え失せた。
「ふははははははは!!!!!! やはり戦闘とはこうでなくてはなァッ!! ちと物足りんが、まぁ良いわ!」
《レベルが上がりました!》
《レベル:9》
《ダンジョン攻略報酬:水入りペットボトル500ml、スキル:うさぎ飛び を受け取りますか?》
《YES/NO》
とりあえず保留にして……よし。
現れた白い空間の亀裂に飛び込み、本来のほんのり暖かい森の中へと帰還する。
今度は転ばずに着地。
そして流れるように振り返り、ダンジョンの入口に触れる。
《ダンジョンアプリ》
《うさぎの洞穴は攻略済みダンジョンです》
《称号:
《YES/NO》
「YESだ」
もう一度触ってみると、ずぷりと入り込む手。もう一度入り込めるようになった。
となれば、周回の時間だ。
大河はしっかりとオンラインゲームを嗜んでいた。
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