第9話 厨二病、初めての死闘、そして報酬。
剣戟。
振られた錆び付いた剣が、黒き剣とぶつかり、つんざく金属音を響かせる。打ち合いは終わらず、有り余る膂力にてゴブリンウォリアーの猛攻は続く。
振り切った状態からの戻し薙ぎ払い。
錆剣のリーチとこれまでに見せた奴の筋力から直ぐに切り返しが来ることを予想し、大河は間合いを取りつつ勢いが乗る前に錆剣を弾こうとする。
失敗。逆に弾かれるが、大河は弾かれた勢いで距離を取り、風圧を感じるほどの薙ぎ払いを間一髪で避ける。
そのまま間髪入れず、薙ぎ払いからの縦振りが重い前進とともに振り下ろされる。大河はもはや感覚がなくなってきた両腕を必死に手繰り、叩き落とすように受け流す。
木の床に振り下ろされた錆剣を踏み付け、ゴブリンウォリアーの手元から剣を落とそうするが、またしても失敗。
しかし大河の錆剣への踏み込みと共に、振り上げられた
「グォァァァ!?」
身体を逸らし、何とか致命傷は避けるが右目を斬られたゴブリンウォリアー。
大河は酸欠と汗だくで、もはや顔面が新種のキモ生物と化している。それでも痛手を負わせた興奮から、テカテカに光る顔でにんまり笑みを浮かべる。
まともに打ち合えばまず勝てない。大河は戦いが始まった一合目で痺れた腕から、それを直感した。おそらくゴブリンウォリアーには大河の倍以上の筋力が存在している。
目を斬られつつも激昂したゴブリンウォリアーは溢れる怒りに身を任せ、大河が踏み込み抑え続けている錆剣を両手と力づくで大河ごと振り上げた。
「グォァァァッ!!!」
「__え、ちょ、ちょぉぉっ!!??」
全力で振り上げられた錆剣に載せられた153.7cm、77kgの小型ブサイクが宙を舞う。下手に上手く重心を載せたせいで丸ごと飛ばされてしまった。
振り上げた力強さのまま、無理やりゴブリンウォリアーは空中の大河に錆剣を横に振るう。
空中でありながら、何とか
しかし横振りは少し遅かったようで、落下する大河の頭の少し上を通り過ぎた。
チリリ__。
ドクドクと心臓を鳴らしながら落下する大河。上にたなびく長い前髪が錆剣と接触し嫌な音が聞こえた。
大河を構成するアイデンティティとも言える昆布のようなキモ重陰キャ前髪がパッツンへとスタイルチェンジされた。
陰険な形相からは太い眉毛と、肉がついているせいでめちゃくちゃ目つきが悪い様子が顕になった。
そんなことを気にする余裕はなく、大河は必死に着地しようとするも床にケツから衝突。横に振り切られた錆剣が、再びこちらを狙う前に大河はころりと転がり体勢を立て直す。
錆剣による攻撃が来るという予想に反し、大河の立て直しが完了するよりも先に、ゴブリンウォリアーは錆剣から手を離した。助走付きの全力の蹴りを大河にお見舞いしようとする。
ま、ず__!?
無我夢中で大河は崩れた体勢から無理やりさらに回転し、ギリギリのところで蹴りの直撃を避ける。思っていた感触が得られず、ゴブリンウォリアーの転びかけた隙を突いて大河は立ち上がり、落とされた錆剣の方を陣取る。
やつに武器はもうない。片目を切り裂き、正確な距離感を失っている。俺にぶち込もうとした蹴りを外したことが何よりの証拠だ。
「……はぁ、はぁ……っふぅぅ……っひぃ、わかるな、ふぅ、ゴブリンの戦士よ。貴様が勝てる道筋など、もうどこにもないということを」
死にかけの豚さんは自信満々な様子だ。アドレナリンがドバドバと流れ、大河は死にかけの戦闘という脳内麻薬をキメている。
「故に__」
「グォォァァァアッ!!!」
片目を失い、剣を失い、しかしそれでもゴブリンウォリアーにはその屈強な肉体がある。豪腕から放つ本気のストレートパンチが直撃すれば、ダメージが蓄積している大河はノックアウトになるだろう。
生と死。
流転する攻防の瞬間に、絶えず迫り来る冷たい死の直感。生命のやり取りという格別の経験に、大河の本能が目覚め始めている。
叫びながら腕を振りかぶり、ゴブリンウォリアーは大河に突進する。
剣を構える大河は極度の集中の最中、身体が何かに操られるかのような感覚を覚えていた。身体は痛み、悲鳴をあげているはず。
しかし__滑らかに、何の重さもなく、思うように動ける全能感が溢れる。全てが上手くいく予感。
かくして大河は刹那の一瞬、
「貴様は死ぬ」
「ゴァァァァッ!!!」
自由自在の剣士と成った。
腰を低くし、重心を動かし、空間を完全に掌握した大河。
劔の導きに従い、振られた剣に抵抗はなく、するりとゴブリンウォリアーの身体をすり抜けるように切断した。
両断したゴブリンウォリアーの上半身と下半身がバラバラに落下する。
これにて決着。
大河とゴブリンウォリアーの戦いは、剣士としてさらに深く一歩を踏み出した大河の勝利となった。
シュワッ。
死体が黒い靄となり消えた。
その様子を大河は呆然と眺める。ドクドクと鳴り響く心臓の鼓動、鈍く走る頭痛、痛む肺、震える両腕、その全てが遠く感じられる。
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
ピコン!
「……っふ、くふふ、クァァッハッハッハッハッハァッ!!!!」
喜びが爆発した。
っしゃァァァッ! 勝ったッ! 殺ったッ! 故に俺が生き残ったというわけだァァァ!
きもい顔で鼻を広げ、そのまま木の床にべちょりと倒れ伏す。涎をこぼし、大河はひんやりとした床に心地良さを覚えた。
指の一本すら動かしたくない。
聖大河という生命は己の力を、本能を自覚した。
即ち、生きるために戦うという生存の本質。
現代日本というわかりやすい
何だかんだ死なない、なんて予感はもうない。もはや今の大河にいじめなど通用しないだろう。
生命としての恐怖を知った大河に、命に迫らぬ危機など些事となってしまったのだから。
「頂点はこの俺、ただ一人のみッ!!」
仰向けに寝転がり、未だに落ち着かぬ呼吸のまま笑みを浮かべる。
「フゥゥァッハッハッハッハッハッ!!!!」
調子に乗っているが、実際大河は凄いことを成し遂げていた。
本来ダンジョンはパーティーを組んで攻略するものであり、ソロで特攻することは自殺行為にも等しい。
ブォン。
音がなった方を見れば、勝者を讃えるように揺らめく白き空間の裂け目が現れていた。
「……っふ、我が拠点へと帰還を果たさねばならぬが……その前に」
よいしょとスマホを取り出す大河。先程馬鹿みたいに通知がなっていたのを密かに楽しみにしていたのだ。
《レベルが上がりました!》
《レベルが上がりました!》
《称号:
《称号:
《称号:
《称号:
《称号:
《ダンジョン攻略報酬:水入りペットボトル250ml、スキル:声真似 を受け取りますか?》
《YES/NO》
「……イエスッ!」
なんか、報酬しょぼくね? クエストの報酬とはかけ離れたしょぼさなんですけど。流石に差が大きくないですか?
大河の中に不満が少しだけ生まれるも、すぐさま称号群を眺めてニヨニヨする。現金な男大河は限りなく扱いやすい。
500mlなら大河も持って帰るのを見越して拠点にて受け取ることを選んだだろうが、あいにく報酬は250mlの小さめペットボトルだった。
青白く発光し、ペットボトルが空中から落下するのを寝そべりながら受け取り、水分補給を開始する。
3秒で飲み干した大河はようやく一息ついたような顔つきになり、そのまま称号の確認を始めた。
《称号:
・あなたは
・効果:感覚的に発生したランダムダンジョンの位置がわかる。発生したダンジョンのランクを1段階操作できる。
《称号:
・あなたは誰よりも早く蛮勇を抱いた。蛮勇と勇気の境はどこにあるのか。
・効果:ダンジョン内での疲労回復が早まり、自然治癒力が向上する。未知の可能性を秘める。
《称号:
・あなたは誰よりも早く迷宮攻略の第一歩を踏み出した。
・効果:ダンジョンの攻略報酬のクオリティが向上する。1日に1度、任意のダンジョンの攻略回数を増やすことができる。
《称号:
・あなたは
・効果:ボスモンスターとの戦闘時、全能力値を向上させる。レベルアップの際、能力の上昇値が増大する。
《称号:
・あなたは孤高の攻略者だ。この先、茨の路がある。
・効果:ダンジョン内での単独戦闘時、全能力値を向上させる。単独行動時、疲労を軽減する。
《称号:
・あなたは
・効果;ボスとの単独戦闘時、全能力値を大きく向上させる。単独戦闘時、疲労を軽減する。レベルアップの際、能力の上昇値が増大する。
《称号:
・あなたは逆転の兆しを見つけた。
・効果:格上との戦闘時、全能力値を僅かに向上させる。劣勢であるとき、閃きやすくなる。
「__スゥー……この無人島ゲーム。間違いなく、勝ったッ!!!!!」
命の危機と引き換えに得た称号の恩恵は、大河から見て見合うものだったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます