第6話 厨二病、簡易拠点を作る。
兎にも角にも、食料を探さねばなるまい。
そう焚き火の前に座り込みながら大河は考えていた。水に関しては500mlが2つで1Lほどある。
ネットの情報によると人間は一日に3リットルの水を飲まなければいけないらしいが……そこは努力目標で良いだろう。2リットルくらいで丁度いいかな。
大河は今までの人生で3リットルもの水を飲まなくとも生きていけることを知っていた。
「食べられるもの、食べられぬもの。高次元の知識しか持たぬ俺には、とんと判断が付かぬが__我が毒耐性を信じるほかあるまい」
何でも食ってみるしかない。見覚えのある植物も見かけたが、ここには知らない植物も多く生えている。
更に無人島の中央部へと向かえば、森の幸も多くなっていくことだろう。
大河は徐に近くの木にへばりついている白い芋虫のような存在を観察する。
「……えぇ……? たべれるの、これ」
一瞬で怖気付いていた。
思い切りもそこそこあり、度胸も雀の涙ほどはある大河だったが、流石に虫をいきなり食べるとなると躊躇ってしまう。
大河は現代っ子だった。
「高タンパク質でエネルギー効率に優れている次世代の食事__昆虫食」
冷や汗がたらりと顔を伝った。
食べるべきか、今、ここで。今後食事が見つからず、切羽詰ってから手を出すより、ここで1度食べた方がいいことはわかっている。
うにょうにょ。うにょーん。
「……ええい! 男は度胸ッ!」
白い芋虫を掴み取り、生えている木の枝に突き刺す。そして流れるように焚き火へと翳した。
焼き上がりを待つ。
じっくりと回し焼き、全身にこんがり焼き目を付けた。ほかほかの芋虫だ。
「……えぇぇ……? __もしもし、ああ、俺だ。なに? このジューシーに焼けた芋虫を食べるかって? ハハッ、何を言うんだいパニー。もちろん食べるとも。なぜ食べるかって?」
スマホを取り出し、電話をするように耳元に付ける大河。とうとう頭がおかしくなったようだ。今のスマホに通話機能はない。
ハードボイルドを意識する。
「これは戒めなんだ。この俺が、食料を奪われたからこそ、この芋虫を食べることになった。教訓であり、戒めだ」
ごくりと息を飲み、大河はパリパリの芋虫を見つめる。
「全ての命に感謝を__頂きます」
一息に、それを口の中に入れた。
「……なんか、う、美味いぞ……? 思ってたより大分美味い……!」
歯ごたえもよく、肉厚な感触が楽しい。大河は案外何でもやってみるものだと、そう深く心に刻み込んだ。
ついでにカロリーファイトも食べてしまおう。
サクサク、ゴクリ。
安定した美味しさだ。大河はこうして全ての食料を消費し尽くした。
案外白い芋虫はそこらへんの木の枝に存在している。お腹が空けば、とりあえずはこいつを食べておけば良いだろう。
応急処置的ではあるが、当面の食料の目星はついた。
「次は拠点か。デ○スカバリーチャンネルは俺もよく好んで見ていた。それっぽいものを何とか作るしかあるまいな」
うろ覚えの知識で、何とかそれっぽい拠点を構想する大河。辺りに木や植物が多く生えており、防風林として機能するはずなので、風に関してはそこまで心配していないが、問題は焚き火の火を消してしまう雨が問題だ。
屋根を作らなければ。
「屋根の材料はそこらにある大きめの葉っぱを沢山集めれば良かろう……骨組みはどうするべきだ? ……ツタのような植物は見掛けたし、愛剣を括り付けるのにも使っていた。結ぶ強度は十分だろう」
思考する。
大河には子供の頃に作った、秘密基地の記憶が蘇っていた。何の知識もなく、ただ試行錯誤を重ねて支柱を作り、子供ながらに雨を凌げる屋根を作った経験。
案外、為せば成るものだ。
「そこまで本格的なものは現時点では必要ないはず。気候は暖かいし、今の季節は__わからぬが」
大河は森に沢山生えている細い木を引っ張ってみる。
びよん。びよん。
びよ〜〜〜んびよんびよん。
「悪くない。こいつらをツタのような植物で繋ぎ合わせれば、しなりをもった屋根の骨組みが作れる、か?」
びよよよよ〜〜〜ん!
大河は遊んでいた手を離し、脳内に出来上がった拠点が作れるか考える。
「……いや、考えるより先にやってみるべきだ。俺のIQ200の頭脳は直感的にイケル! と算盤を弾き出したことだし」
とりあえず大河はやってみることにした。
★■★■★■★■★
できた。
「ふ、ふは、ふははっ、ふぅ……落ち着け、俺よ。あまり大きな声を出せば流石に他の人間に気付かれるかもしれぬ」
ニヤける面を抑えることはできなかった。
人が4人分横になれる程度のスペースだが、ちゃんと屋根がある拠点を作り上げることができたのだ。形のイメージとしては鳥かごが近いだろう。
「俺は数多の才能を持ち合わせているが、まさか建築の才能まであるとはな。なぜ政府が俺を狙うのかがよくわかる。天才も行きすぎれば毒となるわけだ」
建築というより工作と表現すべきだが、今の有頂天自惚れ大魔神の大河にはどんな言葉も通じない。
大河にやけながら焚き火を屋根がある拠点の下に移動させた。
ここまでにかなり時間を掛けた。スマホの時刻を見ると、既に16:21。
午後4時半だ。むしろここまで上手くいった方だろうか。
《神童》スキルが仕事をしていることを大河は知らなかった。
「……床がもろ草なのは後々どうにかするとしよう。幸い辺りにはデカ目の葉っぱが多くあるし、敷けばそれなりにまともな見た目になるはず。……ふぅぅぅ…………」
大河は全ての気力を使い果たしたように焚き火の隣へと転がった。足をゆっくりとバタバタさせ、脂肪を揺らす。現代っ子である大河は徐にスマホを取り出し、今あるスマホアプリを眺める。
ステータスアプリ。
クエストアプリ。
無人島ショップアプリ。
そしてウェポンアプリ。
「あ」
完全にウェポンアプリの存在を忘却していた大河は急いでそれをタップする。
《ウェポンアプリ》
・所持
無貌の旋律をタップ。
《★
・それは唯一無二だ。
・それは進化する。[Lv:0 EXP:4%]
・それは剣術に応じて斬撃の威力を増加させる。
「__なんと、自己進化型流体未明金属とはつまりそういうことか! く、くはは! 悪くない。再び、我が愛剣と共に成長できる日が来るとはな……懐かしいものよ」
寝床から飛び起き、立て掛けた
暫く無貌の旋律と語り合ったあと、大河は再び横になり、無造作に無人島ショップアプリを開いた。
《無人島ショップアプリが解放されました!》
・コンビニ
・未開放
初心者お得パックが消えている。どうやら全て買い切られたようだな。俺の水や食料……暗黒面に堕ちそうになるのでこれ以上考えるのはやめておこう。
《コンビニ》
■25P
・水500ml
・黒パン2つ
・一本満足野菜ジュース
水ひとつ無人島ポイントが25だと? それに余りにも商品が少ない。コンビニじゃねぇだろもはや。
大河は忘れているが、称号:買い物初心者によりこの値段は50%OFFになっている。
元の価格は脅威の50ポイント。
大河のツッコミに答えるように、ヘルプマークが点滅していた。見てみる。
《ヘルプ》
・コンビニは使用した無人島ポイントに応じて発展していきます!
・発展したコンビニにはあなたの要望に応じた新たな商品が並びます!
・他のユーザーとの触れ合いにより、お互いのコンビニの商品を追加することができます!
・他のユーザーにあなたのコンビニの商品が購入されたとき、あなたは使用された無人島ポイントの1割を獲得することができます!
……ほう? 俺に下等な人間どもの思考はとんとわからぬが、何やら危険な香りがするな。
過程をすべて吹っ飛ばした大河の思考だったが、その嗅覚は正しかった。
「3人寄れば政治が始まるとは聞くが……これはその比で収まるまい。50Pのコーラが追加されたコンビニを持つものが居たとして、そいつに100人が買わせてもらうとなれば__」
50Pの1割なので
50×0.1=5
それを100人が買うから
5×100=500
500P!?
冗談抜きで政治が始まりそうだな。恐るべき無人島、今はまだ既得権益だの何だのは生まれていないだろうが、いずれ学生同士で集落を作ることもあるだろう。
そして支配者側、行政側の人間は、庇護下にある人間に自身のコンビニを通した買い物を押し付け__メリットを得る。今気付いたが、これって自分のコンビニにポイントを使わないと発展しないんじゃないか……? 支配から脱しない限り、自身のコンビニは一生発展することがないという悪循環に嵌る訳だ。
生まれる無人島ポイント争奪戦。下らぬ人の欲求が、お互いに牙を剥く。
「くくっ、実に下らぬ。俗世を離れて正解であったな」
まだ何も始まっていないのに大河は得をした気分になっていた。案外バカの方が無人島ではポジティブに居られるのかもしれない。生き残れるかどうかは別として。
《無人島ポイント:50》
残りのポイントは50。チラリと残高を確認し、大河はこのポイントの入手方法が未だにわかっていない事への焦りを感じていた。
「……ぬぅ、もしこれでY○uTubeアプリが追加されて、無人島ポイントによる課金が必要ですぅ☆ なんて言われたら流石にキレるぞ」
シャーっと気持ちだけは威嚇する。現実は太っちょが臭そうな吐息を吐いているだけだ。
妄想の世界でも勝手に虐められて勝手に怒るデブ。被害妄想も甚だしい。
大河には推しのVTuberが沢山居た。
無人島ポイント関連は今は判断がつかないので、大河はクエストを見ることにした。
《クエストアプリ》
・ビギナーズクエスト⬅運営オススメ
・日刊クエスト
・週刊クエスト
・月刊クエスト
・未開放
ふむ。日刊クエストを押しても、DAY3より配信開始と出てくる。週刊や月刊クエストも同じか。
どうでもいいが、クエストの配信と聞くとド○クエIXを思い出すな。なんであれあんなに世間で人気ないの? 宝の地図面白いだろ。
逸れた思考を戻し、ビギナーズクエストをタップする。
《ビギナーズクエスト を受注しますか?》
《YES/NO》
……どうしよう。
パチパチと爆ぜる焚き火の隣。かなり厳しい顔付きをする大河。
今の俺に果たしてビギナーズクエストとやらをこなすだけの体力があるだろうか。
「つ、疲れたしなぁ。一見無限に見える俺の体力も、実は有限。ここは明日に備えて休息を取ることが先見の明があるというものよ」
そう考え寝転がったまま、今までの学生生活と同じように、大河は面倒くさいことを後回しにしようとして__
「あ」
片手で操作していたスマホを落とし掛け、YESを押してしまう。
《ビギナーズクエスト 発生!》
《クエスト:森のお散歩ツアー!》
《クエスト内容:森林を歩き、探索する》
《探索範囲:0/2km》
《クエスト報酬:特殊な称号、水入りペットボトル500ml、カロリーファイト4本、経験値:小》
「……ふぅぅぅぅう…………行くしかあるまい。あ、いやでも制限時間書いてないし?」
この期に及んでも怠けようとする大河は、言い訳をするように周りを見回し、
「……そのような目で俺を見るな、相棒よ。わかった、わかったとも。限られたリソースは早めに獲得し、更なる優位性を確保し続けなければならない。そうだな?」
キラリと焚き火の光に反射する黒き剣と会話する。人は寂しくなると頭がおかしくなるのかもしれない。
何はどうあれ、大河は重たい身体に鞭を打ちながら動き出した。
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