第5話 厨二病、サバイバル開始。
もはやキレすぎて無表情になった大河は、無言でスマホを取りだし連続でステータス画面をタップする。
《聖大河》
《ジョブ:ぼっち》
《レベル:4》
《スキル:毒耐性[+1] 気配遮断[+1] 空気[+1]》
《
《称号:スマホ中毒 先駆者 始まりのぼっち 始まりのスキルホルダー
《スキルポイント:1》
《無人島ポイント:50》
「んふっ、……ん、んん。まぁ、物資を失えど、悪くない結果ではあるのだ。奴らはいっときの
ステータス画面をニヨニヨと眺めながら、大河は手に入れた能力の詳細を確認していく。
すぐに機嫌が良くなる大河。ここまで俗物的だともはや逆にメンタルが強いのかもしれない。
《
・あなたは
・効果:レベルアップの際、生物としてより上位の存在に昇格する。獲得経験値が200%増加する。自然治癒力が向上する。未知の可能性を秘める。
破格の称号だ。
本来、数ヶ月後に何十人と人を集めて、ようやく1人2人が生き残れるかどうか、そういったレベルの強敵を何回も打ち倒すことで手に入れられるレアドロップによりこの称号は手に入るはずだった。
インチキブサイクはたまらない表情をしている。
「おほっ、グリッチはこれだからやめられねぇ」
普通にクズの発言だった。
《称号:
・あなたは
・
特殊スキルとやらは特に効果が強いスキルが分類されるのかな? 勇者の魂だの、氷雷の支配だの凄そうなのはあったが……キィ! くそぉ、全部欲しかったなぁ。
スキル欄をタップすると、ヘルプを見ることができることに気付いた。
どうやら獲得したのであれば特殊スキルの効果も見ることができるようだ。
《毒耐性》
・あなたは毒耐性がある。毒を以て毒を制す。
・毒物耐性:小
《劍の導き》
・劍の導き。
・剣術成長補正:極大。剣術補正:小。
・剣を扱うことに関連するあらゆる技術の習得補正:特大
ちなみに大河が知る由もないが、剣聖の業を選んでいれば、
《剣聖の業》
・剣聖の業。
・剣術成長補正:大。
・剣術補正:特大。
・スキルレベルに応じて、剣聖に刻まれた数々の剣技を再現できる。
・剣を扱うことに関連するあらゆる技術の習得補正:大
こうなっていた。
《神童》
・神童。
・スキルレベルに応じて獲得経験値が増加する。現在獲得経験値200%増加。スキルレベルに応じて才能が増加する。現在才能+20。スキルポイントを使わずにスキルを獲得できることがある。
んふ、んふふ。心が洗われるなぁ。神童とか余り物には福があるもんだなあ。
「ふぅぅぅ……(快感)。さて、我がメンタルも回復したことだ。生活に向けて準備をせねばいかんな」
現在、10時半ばを過ぎた頃。拠点の確保は急務だ。
大河は洞窟の壁にもたれ掛かり、ちょっと乾いて臭くなった制服に嫌な顔をする。あれだけ動き回ったのだから、汗も出る。しかし、大河のそれは異常だった。
「……くさっ。俺くさいか……うん。臭い人に
口に出して頭の中を整理する大河。この整理する方法は大河が親から伝授してもらったものだった。大河は昔、よく分かんなくなると泣き出していた。今では改善されたが、その癖は良くも悪くもまだ残っている。
「最優先は水の確保。次点で優先すべきは食料か。今はまだカロリーファイトが2本あるが……確か成人男性に必要な1日のカロリーが2000キロカロリー程だったはず。カロリーファイトは1本100kcal。合わせて200か、まるで足りんな」
脳内に着々とすべき事が出来上がっていく。大河はやればできる子だった。
「その次に拠点の確保。この場所はもう何者かに知られてしまった。開封された痕跡のある俺の食料を、無断で持ち去るような性格の人間に」
少しばかり考える。クラスメイトと合流し、一致団結してお互いに助け合う道を__
乾いた笑いが零れた。
「……俺よ、期待を抱くな。協力できるなどと考えるなよ。思い出せ、間違いなく搾取される。迎合してはならない。今までそうだった。そして、これからはもっとそうだろう」
中身を奪われた箱を睨む。
弱肉強食。
きっとこれから無人島はそうなっていく。初日の段階ではまだ人間性を保っていられる者も多いかもしれない。誰かに優しくし、協力しあって生きていく思いやりが残っているかもしれない。
だが、必ず綻びは現れるはずだ。大河はそう考える。
人の欲には際限がない。普段とは違う苦労の毎日にストレスをため続け、どんどん要求はエスカレートしていくはずだ。
人間は自分よりも弱いものに対してどこまでも残酷になれる。そのことを大河はこれまでの学校生活で学んでいた。
間違いなく、今の俺は見た目で弱者と判別されるだろう。ニキビに厚い脂肪にブサイクな顔、そして身長が低く足も短くて尚且つ太っている。
実際俺なら、こんなやつは見捨てるか、若しくは利用するだけ利用してストレスの捌け口にする。能力を持っていようが関係ない。高校1年生にそこまで理性的に物事を判断する能力はないのだ。虐めなんて馬鹿なことをしてくる時点で合理性の欠如など明白の事実。
そして俺の愛剣は奪われるだろう。そんなこと許してたまるものか。軽く黒き刀身を撫でる。
「……この仮拠点は捨てるべきだ。なら次はどこにする? 最優先は水の確保だ。……ゴブリンの周辺にあった小川。あそこが良いな。幸い海岸にも近く今ならまだ小さく焚き火も残っているはず。素人が一から火を起すのは骨が折れるだろうしな」
懸念は焚き火の煙や水に引き寄せられ、他のクラスメイトに見つかってしまうことだが……そのときはそのときだ。どうにか《
我が心の友は奪わせない、誰にも。
漆黒の闘志が、大河に宿る。
「よし、移動しよう」
壁にもたれる謎多きイケメンがやりがちなスタイリッシュな立ち方をやめ、大河は箱を持って移動する。
洞窟から出ると、どこまでも蒼い海が広がっている。いつか漁をすることになる日が来るかもしれないな。
砂浜には海藻以外、乾いた流木や貝殻しか落ちていない。思えばこれも異常だ。
海に流されたプラスチックは膨大な数になる。ペットボトルやゴミの一つもないとは、どんな海域だ。やはり根本的に外界から遮断されている。
ゴブリンたちが居た焚き火の方向へと向かう。多種多様な植物。砂浜にはココナッツのような木もあったが、ここにもあるようだ。
大河は顔を持ち上げる。睨むのは遥か遠方。
「……ふん。いつか、そこから引きずり下ろしてやる。この島の主よ」
森林の遥か彼方に、馬鹿デカイ山脈が広がっている。頂上は雲を突きぬけているようにも見える。
今までは余裕がなくてあまりちゃんと見れていなかったが__エベレストや富士山すら越えているんじゃないのか、あれ。
頂上付近にはずっと雲海が広がっており、晴れる様子はない。
あそこに辿り着くまで、一体何年かかることやら。物理的に数百kmはありそうな光景を目にして、微かに笑う大河。
文字通り命を賭して何かをする経験。我が敬愛する親に、良い土産が持って帰れそうだ。
大河は案外前向きだった。
「むっ……あれは、?」
海岸沿いから、ポツポツと煙が上がっている様子が点在している。遭難した学生たちが遂に本格的に状況を理解し、動き始めたようだ。
今更か。ふっ、当事者意識が低い馬鹿どもめ。
と言っても、俺のように即座に適応し、
にしてもどうやって火を付けたんだ? 摩擦で火を起こすのは素人にはかなり難しいはずだが__そうか。クエストによるゴブリンたちの焚き火だな? それを移動させ海岸でアピールしている。
焚き火の秘密を思い当たり、大河は満足気な表情をした。
「おっと、そうだ。
世界の気配が色付いた。これにより、半径……えーと、20m? の生物の存在が分かるはずだ。正確に測る手段が欲しいな。
これでよし。先を急ごう。
★■★■★■★■★
「良かった、まだ火は消えていないみたいだな」
ゴブリンたちの焚き火に戻ってきた。周りの森林からは少しだけ開けており、その中心に焚き火が存在している。
雨が降れば、即火が消えてしまうだろう。大河は晴れた空に甘えず、樹木の葉の下に焚き火を移動させた。とりあえず近くに手に持った箱を置く。
「……ふぃ、ふぅ……はぁぁぁ…………」
端的に言って、大河は疲れていた。慣れぬ環境、慣れぬ戦闘、慣れぬ怒り。無駄に力み、体力を浪費してしまったことを大河は自覚している。
ひどい顔で休憩する様子は、まるで薬をキメたチャウチャウとデブのハーフだ。
その肥満はここ無人島において
どっと疲労が出た顔で、飲みかけの500mlの水を飲もうとする大河。ペットボトルから4分の1ほど水が流れ、そして尽きた。
「……ぐ、ぐぃ、お、のれぇぇ……!」
太りすぎた悪魔。そう形容するのが正しいとさえ感じられる、殺意の眼光を煌めかせるデブ。デブの飲み物と食い物の恨みは恐ろしい。
数秒ほど悪鬼の形相だったが、長いため息をつき諦める大河。何か思い当たったようにまた活動を開始する。
「……すまんな、相棒よ。もう休憩は十分だ。お前の担い手として、相応しい清潔感を得なければならんな」
もはやペットを通り越して恋人を見るかのように
確か小川の方向はこっちだったはずだ。大河は数十分前の記憶を必死に掘り起こし、小川へと辿り着いた。
「……? 思えば、妙だな。あのゴブリンたちが日常的に小川を利用していたはずなのに獣道のような痕跡が見当たらない……」
不思議だ。植物の生命力が強くて痕跡が残らないということか? 大河は怪訝に思いながらも、小川で準備をする。小川と言っても、ある程度深さがある。
制服を脱ぎ、ワイシャツを脱ぎ、ネクタイを外し__そうしてパンツ一丁になった。
そして汗で匂いがする服を重点的に洗い、同時に自分の身体も洗う大河。
だらしない肉体が世界に晒され、足の筋肉がたまにピクつく様子が見える。筋肉痛だろう。
「ちっ、ちゅめたいっ! あっ! う”ん”ん”ぅ”……慣れてきたぞぉ、? ふ、ふふ」
大河はプルプルと震えながら、痩せ我慢でしたり顔をする。
衛生的には問題ないかもしれないが、この川の下流に人が居ればご愁傷さまだろう。デブの出汁が出て旨みがあるかもしれない。
見るものに何の得もないヌードが続く。
「我が裸体は国宝にも指定されるべき特級世界チン百景であるからな……そう易々と見せる訳にはいかぬ」
大河とて裸体を誰かに見られたくないので、ふざけたセリフを吐きつつも全力で
身体や制服を洗い終え、小川の水もペットボトルに補給した。大河は絞ったワイシャツで身体についた水滴を拭き取り、初心者パックにあった一式の服に着替えた。
「……むぅ。ま、まぁ。いたし方あるまいて。陳腐だが、しかし服としての役割は果たせる」
麻の服だ。
胸ポケットだけの緑色の服。それは大河の体型に合わせてミッチリと膨らんでいる。ズボンにも2つポケットが着いているので、そこまで不便はしないはずだ。
小川に反射する自分を見つめる大河。
「異世界ファンタジーの服装ってどうしてこんなに現代人に合わないんだろうね……そう思わぬか? 相棒よ」
悲壮な顔をして、相棒に問い掛ける。
黒き剣は鈍く光るのみだった。
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