第4話 厨二病、グリッチする。
急いでお目当ての称号を確認する。
《称号:必殺仕事人》
・あなたは必殺仕事人だ。
・効果:クエスト報酬のクオリティが向上する。1日に1度、任意のクエストの上限回数を増やすことができる。
任意の、だよな。任意ってことはつまり、任意のってことだよなッ!
「ふ、ふは、ふはははははは!!! どこまでも世界の運命は俺の手の中にあるッ!!! まさかここまでできる人間が居ようとは思ってもいなかったようだなッ!
《クエストアプリ》
・ビギナーズクエスト⬅運営オススメ
・【初日9:00~10:00限定】スタートダッシュクエスト⬅◎運営オススメ(1人1回まで)
・日刊クエスト
・週刊クエスト
・月刊クエスト
・未開放
・【初日9:00~10:00限定】スタートダッシュクエスト⬅◎運営オススメ(1人1回まで)の表示が灰色になっているが……タップしてみると、
《称号:必殺仕事人 によりクエスト上限回数を増やしますか?》
《YES/NO》
YESに決まってるッ!
灰色になったはずの表示が、再び白く染められる。もはやグリッチの領域だが__ひ、ひひ。
《【初日9:00~10:00限定】スタートダッシュクエスト 発生!》
《クエスト:猪突猛進! 生意気な猪を牡丹の鍋にしてやろう!》
《クエスト内容:暴走する猪の命脈を絶つ》
《討伐数:0/1》
《クエスト報酬:特殊スキル選択権、特殊な称号、経験値:小》
あーあ、できた、できてしまった。
ニヤけた面が収まらない。このとき、大河のこれまでの人生の中で、おそらく最も脳汁が出た瞬間だった。
時刻を確認する。現在9:37分。
残り23分__おそらく走り回っているであろう猪を、この僅かな時間で殺さなければならないのか。
それは、今のままでは少し厳しいか?
気配察知と称号:
2つの効果の特徴を生かした、簡易的なスキルコンボ。
「……
意識してスキルを扱えば、また世界が広がる。自然の息吹が凄まじい。
大まかにだが、気配が移動し続けている場所がわかった。今の俺のスキルではまだ遠方の存在はハッキリとはわからないようだが、今はそれで十分。
問題は今の俺ではおそらく猪は殺せないことにある。
「さぁ、俺よ。これからどうする? 俺のメイン火力は
大河は冷静に己を俯瞰した。
5匹のゴブリンは斬られて死んだのではなく、頭を殴られて死んでいる。大河に剣を扱う技量がないからだ。
想像しろ。動き回る猪に冷静に頭を狙って当てられるか?
ぜっっったい、むり。
たるんだお腹。プルプルの腕。痛い足。どう足掻いても猪には勝てない。あいつら時速50kmとか出るんだろ確か。未だ常人に等しい俺では間違いなく死ぬ。
トラップを仕掛けるにも大河にはその知識がないし、そもそもタイムリミットがあと20分あるかないか。
かと言って諦めるというのも今後のことを考えると論外。
ならば新たな力を求めるしか、あるまい。
スマホを操作する。今俺が獲得できるのはこいつらだ。
《スキルポイント:1》
《選択可能スキル:レスバ 言い訳 人間観察 気配察知 空気 毒耐性 黒魔術 KY 便所飯 仮眠 寝たふり》
《獲得する特殊スキルを選択してください!》
《選択可能特殊スキル:勇者の魂 賢者の叡智 剣聖の業 聖女の願い 魔力の泉 亡夢魔術 闘神の系譜 超人 探求 食神のレシピ 劍の導き 雷の化身 氷雷の支配 聖魔の祝福 魂の覚醒 龍の心臓 癒しの波導 壊魔の両腕 咒術 神童 命宿り 第六感 祓法 精霊の愛し子 風詠み 鬼の血 月の眼 呪いの肉体 星魔術 神降ろし…………》
スキルポイントによって取れるスキルに現状をどうにかできるものがあるとは思えない。
というか何だよ便所飯とかKYって。ぼっちのスキルって訳じゃないんだわそれって。いや別に俺はKYじゃないけどね。うん。
大河は手早く目を通していく。ヘルプを呼び出そうとしたが、特殊スキルは見ることができないようだ。
つまり、
「……っふ、なるほど。やはり良い趣味をしているな、
意味のわからないことを自信ありげな表情で断言する大河。中学の頃の社会の点数が37点だった男の最強の知恵が光る。
手に握る剣の感触が、じんわり脳に染み込む。
「__あぁ、我が相棒
きらりと黒き剣に青空の光が反射する。
「……伸るか、反るか。……俺はお前を信じる。俺は、お前を信じる俺を信じるッ!!」
候補は2つ。《劍の導き》か、《剣聖の業》。
本当は全部しっかりと考えて、じっくり取りたい。しかし、それは時間が許さない。
「剣聖の業__か。ああ、この俺があの剣聖の業を……腹が立つな、それは。それは嫌だ。それは将来、俺にとってのノイズになる」
独特な世界を展開していく。このブサ男に選択の自由を与えてしまえば、こうして謎の妄想を膨らませてしまうのだ。あの剣聖とはどの剣聖を指しているのか、どこまでも曖昧模糊な発言だ。
「せっかく我が愛剣をちゃんと使おうとしているときに、他者の技を借りるだと? 言語道断ッ! 我が愛剣との始まりの一歩は、俺の剣技と共にあるべきだ」
答えは決まった。
《劍の導き を獲得しますか?》
《YES/NO》
「YESだ」
途端、大河から溢れ出す剣の才気。全てを切斬り刻まんとする、恐ろしいまでの圧倒的な剣の担い手としての才覚。
ここに、新たな剣の天才が誕生した。
「__ああ、本当に済まないな。始めからこうして振ってやれば良かったのか……行こう」
相変わらず顔面はキモイし、たるんだボディはそのまま。しかし、その足取りは先程とは一線を画すほどにしっかりとしていた。
《称号:
★■★■★■★■★
暴れる猪の居場所は案外結構近くだった。様々な植生がごっちゃになったような濃厚な緑の匂いがする森林。海岸に近いところで、その猪は何かの果物を食べていた。
俺も食べられるのかな、あれ。
食料の調達は急務だ。いくら無人島アプリによって食料を購入できたとしても、いずれ限界が来る。というか未だに無人島ポイント1回も貯まってないし。
「
空気スキルを発動させ、大河は自身の気配を空気と一体化させていく。
色々考えるべきことはあるが、現在9:49分。
考えることなど後でいくらでもできようぞ!
そろりそろりと背後から近付こうとする大河。しかし__
「ぶぎっ、ふごっ……ぶぎぃぃぃいっ!!」
すぐさま発見されてしまった。およそ体高1.4m、体長2mほどの大きさ。(大河調べ)
実物を見たことがないから詳しいことは言えないけど、なんか、
「お前でかくないかッ!!??」
「ブギィィィィッ!!!!」
猛り、その猪は大河へと突進する。
十分な体重がある猪の爆発的突進は、車でさえひしゃげさせる程の威力を誇る。真正面から直撃すればまず即死は基本だ。万が一生き残ったとしても、腕の1本や2本は持っていかれるだろう。
避けるにしたって絶対に無理。創作物とかでよく猪は猪突猛進で木にぶつかるとか、そういう設定があるけど案外奴らは小回りが効くらしい。
しかし、思考はどこまでもビビりつつ、震えそうになる身体を抑えて大河は両手に黒き剣を構えた。
迫り来る猪。
力強く地面を蹴り上げ、進むその速度は時速57kmに到達していた。この無人島の猪は、既存の種の一段階上の身体能力と凶暴性を兼ね備えている。
「ブギィッッ!」
「____来い。俺と愛剣の力が合わされば、それ即ち太極に通ず__秘剣、月昇り__ッ!」
ついに猪が目の前に至ったその瞬間、巨体の暴威に身が竦みそうになる大河。それを厨二病発言で乗り越え、ここに新たな剣技が生み出された。
それは黒き剣に三日月の軌道を描かせる。
ぶつかる寸前に剣を振り上げ、横にステップ移動しながら迫る猪の首ごと頭を切り落とした。
「っひ……ふ、ふぅ……また、詰まらぬものを斬ってしまった……ふは、ふぅぅぅぅぁっはっはっはっは!!!」
大河の隣を、首を失った豬の肉体がドチャァツと突き進み、大きな風を生み出した。
突風に前髪がめくれ上がる。汗まみれのにきびブスのドヤ顔が、世界に示された。ズボンがほんのちょびっと湿っぽいのはきっと気のせいだろう。
劍の導き。その効果は、単純な剣術補正と、所有者の絶大な剣術成長補正。実にシンプル。
「俺と愛剣はこの世にて最強ッ! っけほ、ああ、叫びすぎて喉が……」
ピコン!
《クエスト達成!》
《クエスト報酬:特殊スキル選択権、特殊な称号、経験値:小 を受け取りますか?》
《YES/NO》
YESだ。
《レベルが上がりました!》
《獲得する特殊スキルを選択してください!》
《選択可能特殊スキル:超人 探求 食神のレシピ 魂の覚醒 龍の心臓 癒しの波導 壊魔の両腕 咒術 神童 月の眼 呪いの肉体 星魔術 樹魔術 晩王の血筋 嵐の王 血魔因子 英雄のカリスマ 天岩戸 豊穣の祈り …………》
《称号:進化する者__称号の重複を確認》
《称号:進化する者 を一段階強化します》
《称号:
ニタニタ顔が収まらない。あと称号の不正入手感がエグい。
……なんか減ってね?
あ、癒しの波導と超人が消えた。
不味い、これはおそらく他のユーザーが次々に取得しているに違いない! 迷っている暇など始めからなかったのだ!
ちらりと確認する、時刻9:56分。
「ええい、無知蒙昧な人間どもめ! 仕方あるまい、龍の心臓で……取られたァ! クソぁぁぁ! じゃちょっとかっこいい血魔因子__取られすぎだろ! もぅっ! 何でもいいから取らなきゃいかぬぅ! 神童で!」
《神童 を獲得しますか?》
《YES/NO》
「いえしゅぅぅ!!!」
特に何も変化は感じないが、これで獲得はできたはずだ。
「ぐ、ぐぎぎ……おのれぇ! この俺からリソースを奪うとは、何たる不敬であることか……ぬぅ、まぁ俺の行動が遅かったということもあろう、今回だけは見逃してやる」
概ねやるべきことは終わった。とりあえずあの洞窟へ戻ろう。それから現状の整理を行うべきだ。
★■★■★■★■★
「なっ__ない、ない! ないないないないないッ!!!」
あの洞窟に戻ると、箱に入れてあった物資がほぼ全て無くなっていた。
残っていたのは飲みかけの水500mlひとつと空のペットボトル、そしてカロリーファイト2本だけ。あと衣服。
「嘘だろ……? おそらく人間が奪い去ったに違いあるまい。全て奪われていないのは持ち運べなかったからか?」
ギリッと大河の口元から歯を食いしばる音がする。その目は瞳孔が開き、今にも人を殺しそうなギョロリとした眼光を放っていた。
「おのれッ! おのれおのれおのれぇぃッ! 舐めよって……どこまでも舐め腐りよってェッ! 無人島ですらこの俺から搾取せねば気が済まぬというのかッ!? 卑劣なクラスメイト共めぇッ!」
ふぅ、……一旦落ち着け、俺よ。我が物資的リソースは掠め取られたが、それでもまだ水は多少残っていて、食料もある。まだ慌てる時間じゃない。
怒りの小オークはブヒる呼吸を落ち着かせた。
「だが__これで確定した。俺がいくら物資を集めようが、それを掠め取る奴らが存在する。拠点が必要だ。もう誰にも奪われない、無敵の我が領域を作らねばならぬ」
大河の物資が奪われたのは本当に偶然だった。生徒たちのスポーン地点は危険度の低い領域からランダムに選出されているが、この無人島は広大だ。幾ら数百人近い生徒が居ようと、基本ほぼ被ることは有り得ない。
大河は不運だった。
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