【48】ギルドマスター

 ギルドマスターになるには、銀級三つ星以上の身分が必要となる。

 つまり俺たちの目の前にいる人物――リンツ街でギルドマスターを務めるヒストルは、元銀級三つ星以上の冒険者ということだ。


 そして今、そのヒストルから夕食の席に招待されたブレイブ・リンツのメンバーは、ギルド食堂にてフルコースを堪能していた。


「んー! これもデリシャスね! でもでもやっぱりこっちの方が美味ね!」


 ヒストルと顔を合わせて食事をしているというのに、レイはいつも通りだ。それもそのはず、レイは生まれも育ちもリンツ街なので、ヒストルとも顔馴染みなのだ。故に、全くと言っていいほど緊張していなかった。


 ロザリーは、多少畏まった様子を見せてはいるが、顔色を変えるようなことはしない。相変わらず何を考えているのか予想し難い。


 で、俺はというと、ヒストルの圧に押されてフルコースの味がこれっぽっちも分からなかった。もう、何を食べているのかさえ定かではない。


 というか、フルコースを奢られるのが怖すぎる。


「当ギルド食堂のフルコースは如何かな?」

「凄く美味しいです」

「うむ、それは良かった」


 但し、味は分からないけどな。

 そう答えるほかに道は無い。


「リンツ街は木の実料理が主流でね、ホビージャ国の王級料理よりも美味いと断言しよう」


 此処は一応ホビージャ国の領土なのだが、そんなことを言って大丈夫なのだろうか。

 いや、リンツ街はエルフの森との境目、つまりは辺境にあるからな。王都まで声が届くことはそうそうあるまい。


「ところで、」


 急に、ヒストルが手を止める。

 と同時に、ロザリーと俺に目を向け、笑みを消して真面目な表情を作り込んだ。


「ブレイブ・リンツの実力を見込んで、私から一つ相談がある」


 いよいよ本題か。

 まさか、ただ飯をご馳走してくれるだけで終わるはずがない。


「いや、これは相談と言うよりは……当ギルドからブレイブ・リンツへの依頼だね」

「リンツギルドからの……つまりそれは、ギルド直々の指名依頼ということですか?」

「如何にも」


 指名依頼。

 それは、ノアが王都から山賊討伐依頼を受けたときと同等のものとなる。


 何処のギルドであろうとも、指名依頼は相応の実力者でなければ依頼することはないし、通常時には発注されることのないものだ。それを俺たちに頼むとは……。


「あの、俺たちで大丈夫なんですか?」

「きみたちの実力は既に知っているよ。山賊討伐に協力しただけでなく、その頭を……元銀級三つ星のヤゴンを倒したのだからね」

「いや、あれは運が良かっただけで……」

「謙遜しないね」


 レイが口を挟む。

 フルコースを堪能しつつも、ニヤリと笑ってヒストルを見た。


「リジンの腕はおっちゃんにも負けないと思うね」

「お、おい!」


 焦る。

 ギルドマスターをおっちゃん呼びするなんて、失礼にも程があるぞ。

 いやしかし、レイとヒストルの仲ならば問題ないのか……?


「……そうね、リジンが銀級冒険者に匹敵する力を持っているのは確かよ」

「ろ、ロザリーまで……!」


 ブレイブ・リンツのメンバーは俺を買い被りすぎだ。

 俺はただのアサシンで、銅級二つ星になったばかりの腕しか持っていない。


「この私が保証するわ。リジンは間違いなく強い」


 更に付け加え、ロザリーは再び食事の手を動かす。

 言いたいことだけ言って、そのあとは知らないとでも言うつもりか。


「良い仲間と出会えたようだね」

「……っ」


 頭を悩ませる俺を見て、ヒストルが表情を緩める。

 それはイルリにも言われた台詞だった。


 どいつもこいつも、言いたいことを言ってくれるじゃないか。


 だが、その言葉を耳にした俺は、諦めにも似た表情を浮かべつつも、しっかりと頷いてみせる。そして返事をした。


「はい。最高の仲間たちです」


 その言葉に、嘘偽りはない。

 ブレイブ・リンツは最高のパーティーであり、ロザリーとレイは最高の仲間だ。


「……それで? 俺たちブレイブ・リンツへの指名依頼と言うのは何でしょうか?」


 だからこそ、俺は訊ねることにした。

 最高の仲間たちと共に、ギルドマスター直々の指名依頼を受注するために……。

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