【47】銅級二つ星
「お待たせいたしました。こちらが新しい冒険者証になります」
受付にて、イルリがカウンター上にブレイブ・リンツのメンバーの冒険者証を並べ置いた。
そのうちの一つを手に取る。それは俺の冒険者証だ。
「銅級二つ星……」
本日付けで昇級し、新たな冒険者証を受け取る。
これで俺も銅級二つ星だ。
この世界には数え切れないほどの冒険者が存在するが、そのうちの約八割が鉄級一つ星で止まる。そこまでは時間さえあれば自動的に昇級するからだ。
しかしながら、そこから上の階級へと上がるには、運と実力に加え、仲間が居なければ難しくなる。故に、ソロの冒険者は前に進めず、パーティーに所属するか足踏みすることになってしまう。
仮に、どうにかこうにか昇級をしたとしても、第二の壁が立ちはだかる。
それが銅級一つ星から二つ星への壁だ。
残る二割の冒険者のうち、約半数が銅級一つ星に辿り着けずに下の階級をウロウロしているか、銅級一つ星で立ち止まることになる。
理由は単純で、昇級に必要な条件が厳しすぎるのが原因だ。
ダンジョンの攻略や、ギルド指定依頼をこなすこと。
それも一年以上達成されずに残っている困難極まりない依頼や、緊急時に出された依頼などが該当する。
ソロの冒険者には実質不可能な条件であり、仮にパーティーに所属して仲間が居たとしても、余程の運と実力を味方に付けなければ昇級することは難しい。
現に俺も、アタッカー不要論が出る前に所属していたパーティーの一人として、何度も何度も条件の達成を試みたが、結局は諦めた。そしてクビになり続けた。
だからこそ、嬉しくてたまらない。
モルサル街を追放されてしまい、リンツ街に行くと決めたときは、全く予想もしていなかった。
まさか俺が、アタッカーしかいないパーティーを結成して五年振りの昇級を果たすときが訪れるだなんて……。
「ちょっと、顔が気持ち悪いんだけど……」
ニヤニヤが止まらない。
それを見て、横に立つロザリーが嫌そうな顔で指摘してきた。
「気にするな」
「気にするわよ」
そんなことを言われても止まらないのだから仕方あるまい。
それよりも、この喜びをこのままにしておく手はない。
「よし、今日は俺の奢りだ!」
「? リジン、貴方そんなこと言って大丈夫なの?」
「心配無用だ。今日はめでたい日だからな、俺に奢らせてくれ」
「ホントね!? だったら今日もフルコースいただくね!」
「ああ、何でも好きなものを食わせてやる! これでまた夢に一歩近づいたんだからな!」
それはとっくに過去の夢であり、決して叶うことのないものだと思っていた。
だが、この二人と一緒なら、もっと上を目指せるかもしれない。だが、
「……あ、しまった」
「どうしたね?」
「よく考えたら金欠だった」
「オーノー!! 期待させといて落とすのは卑怯ね!! あたしのお腹は既にフルコースを求めてるよ! その責任を取るね!!」
「ろ、ロザリー」
「私は出さないわよ? 貴方が奢ると言ったのだから、自分で出しなさい」
それ見たことかと言いたげな顔で断られる。
可能であれば、心配御無用と言っていた数秒前の自分を全力で止めたい。
三人分のフルコースを頼むだけの手持ちはある。
しかしこれを使ってしまえば、正真正銘の無一文の出来上がりだ。
「……うぅ」
だが、仕方あるまい。
奢ると言ったのは俺だ。自分が言ったことには責任を持つべきだ。
お金が無くなったのであれば、また稼げばいい。俺は冒険者なのだからな。
それに今の俺はソロじゃない。ロザリーとレイが一緒だ。三人分のフルコース代ぐらい、あっという間に稼いでみせる。
「お話し中のところ失礼するよ」
とここで、口を挟む人物が一人。
「今日は私に奢らせてもらえないかな?」
その人物――随分とガタイのいい、というか筋骨隆々の大男が受付の奥から姿を現し、俺たちに声をかけてきた。
「……失礼ですが、貴方は?」
受付の奥から出てきたということは、ギルド職員だろうか。
しかし見た目からして冒険者と言われてもはいそうですかと信じてしまいそうな威圧感だ。
すると、その大男はニコリと微笑み、首を垂れる。
そして畏まった態度を見せたまま、自己紹介を始めた。
「申し遅れたが、私の名はヒストル・レイモーン。当ギルドのマスターを務めている」
大男――ヒストル・レイモーンは、そう言って再びニコリと笑ってみせた。
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