【17】センス無し

「よし、善は急げだ」


 ロザリーとの握手を終えると、俺は急いでご飯を掻き込み、受付に足を向ける。

 そしてイルリから一枚用紙を受け取ると、再びロザリーの許へと戻った。


「……それ、何?」

「パーティー結成の申告書だ」


 冒険者同士がパーティーを組む場合、ギルドに申請しなければならない。どこのギルドを拠点にし、どのパーティーに所属しているのか、全てを明確にするためだ。


 今回、ロザリーと俺の二人パーティーとして申請することになる。


「ところで相談だが、パーティー名はどうする?」

「……考えていなかったわ」


 申請用紙の空欄を埋めていき、最後に残されたのが、パーティー名だ。

 あとから変更することもできるが、一度定着すると変え難いのも事実なので、一度で決めておきたいところだ。


「俺に名案がある」

「名案ね……言ってみなさい」


 せっかく俺たち二人でパーティーを組むのだから、それに因んだ名前がいい。

 俺は自信満々に候補名を口にする。


「ロザリーも俺もアタッカーだろ? だから、ダブルアタッカーでどうだ?」

「却下」

「なんでだよ!」

「安直ね、センスがないわ。というかダサすぎる。そんな名前のパーティーなら今すぐ脱退するわ。というか入らないから」


 死体蹴りだ。

 これでもかと暴言を並べ、まさに言いたい放題じゃないか。


「……だったら、ロザリーが案を言ってみろよ」

「そうね。……ロザリーと愉快な仲間たちでどうかしら?」

「却下だ! っていうか愉快な仲間たちって何だよ!? 仲間は俺しかいないだろ!」

「確かにそうね、貴方は別に愉快でも何でもなかったわ」

「問題はそこじゃないからな!?」


 その後も、二人顔を見合わせながら、ああでもないこうでもないと言い合った。

 暫く時間が掛かり、互いに疲れ切ったあと、俺はふと思いついた名前を口から漏らす。


「……ブレイブ・リンツは、どうだ」

「ブレイブ・リンツ?」

「ああ。リンツ街で結成して、金級冒険者……つまり、勇者を目指すんだろ。だったら、そんな名前も有りかと思ってな」

「……疲れたから、それでいわ」

「妥協か」

「もう眠いの。解散してもいい?」

「分かったよ。じゃあこれで決まりでいいな?」

「仮ってことなら……」


 ふわぁ、と大きな欠伸を一つ。ロザリーは席を立つ。

 申請用紙のパーティー名の欄に【ブレイブ・リンツ】と記入し、俺も立ち上がる。


「これを頼む」

「はい、パーティーの申請ですね? 書類の確認をしますので、少々お待ちください」


 受付でイルリに申請用紙を渡すと、記入欄を一つ一つチェックされる。

 どうやらどこも問題ないらしく、すぐに承認された。


 これにて、ロザリーと俺は晴れてパーティーを組むことになったわけだ。


「ロザリー、ありがとうな」

「……はぁ。感謝の言葉は要らないわ」


 ため息を吐きつつも、ロザリーは頷く。


「もう寝るから、おやすみ」

「ああ、おやすみ、ロザリー」


 ロザリーの背を見送り、ロビーの時計に目を向ける。時刻は既に二十二時を回っていた。

 パーティーを結成したわけだが、とりあえず明日はゆっくり起きることにしよう。


 そう考えながら、俺は宿屋の部屋へと戻っていった。

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