【16】パーティー結成

 ロザリーと顔を合わせたまま、二人して沈黙する。

 と、よく見てみると、仄かにロザリーの頬が赤くなっている。


「……く、組んでみない? の間違いよ」


 勢いが良すぎたのだろう。

 ロザリーは視線を逸らして言い直した。


「ロザリーと俺が、パーティーを組むのか……」


 イルリに言われてはいたが、冗談のような話だと考えていた。

 それが今、目の前に現実の話として上がっている。


「理由を聞いてもいいか?」


 とりあえず、ロザリーの意見を聞いてみることにしよう。

 と思って理由を訊ねてみたのだが……。


「理由? そんなの必要?」


 目を逸らしたまま、ロザリーは眉を潜めて反応する。


「ロザリー、お前と俺はどちらもアタッカーだ。片方がヒーラーやタンクで、他にも仲間が居るならともかく、アタッカー二人だけのパーティーで不安にならないのかと思ってな」

「もしそうなら、私は貴方を誘ったりはしないわ」


 再び視線を戻したロザリーは、自分が思っていることを言葉にして俺へと伝える。


「これまでずっとアタッカーとして生きてきたんでしょう? だったら、これから先もアタッカーとして思う存分に生きていきなさい。ヒーラーが居ない? タンクが必要? だから何だって言うのよ。タンクが居ないなら、反撃する隙を与えなければいいじゃない。ヒーラーが居ないなら、傷を負わなければいいだけの話よ。私が言っていること、間違っているかしら?」


 ロザリーは息を荒げている。

 それはもう、力説と言うに相応しい語りだった。


「いや、そうだな。確かにロザリーの言う通りだ」


 その台詞には、ロザリーの想いがこれでもかと込められていたに違いない。

 だから俺も、その想いに対して自分の考えを伝えなければならない。


 今までは、パーティーの仲間の役割に拘っていた。

 タンクとヒーラーは必要不可欠な存在だと思い込んでいた。

 戦闘を有利に進めるために、バフやデバフを担当するサポーターを加えるべきだと信じ込んでいた。


 でも、そうじゃない。

 たとえどんなパーティーを組んだとしても、結局行き着く先は同じなのだ。


 敵を倒す。

 ただそれだけだ。


 つまりは、アタッカーだけでも決して不可能ではないということになる。


「……やってみるか」


 気付けば、声にしていた。

 そしてそれを聞いたロザリーは口の端を上げる。


「言ったわね? もう、後悔しても遅いから」

「しないさ」


 後悔と言われて、俺は首を横に振る。


「俺は……いや、俺たちは、既にどん底に居るんだ。これ以上は下がり様がない……違うか?」

「ふん、安心しなさい。私が一緒に居るからには、上がり続けることしかできないわ」

「言うじゃないか」

「当然よ。だって目指す先は金級冒険者でしょう?」


 そう言って、ロザリーが手を差し出してくる。

 俺の夢を口に出し、もう一度挑戦しようと言ってくれているのだろう。


 だとすれば、その手を握らないわけにはいかないな。


「交渉成立だな」


 俺はロザリーの手を取り、しっかりと握手を交わすのだった。

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