第53話 ではここで知識ロールしてください
王都の冒険者ギルドに顔を出す。
冒険者の規則として、現在いる地域の最寄りの冒険者ギルドに顔を出す必要があるのだ。
活動拠点変更に関する書類を提出しないといけない、とのこと。
意外と事務的だが、文盲の多い冒険者なので、事務手続きは最小限。
前にいたギルドの活動レポートをギルドから受け取り、新ギルドに提出してサインひとつで移籍完了だ。
常々言うが、この世界のキャラクターは、強さを定量的に測ることができない。
「鑑定」なんて便利な魔法はこの世界にはないし、それらしきものがあったとしても、得られる情報はかなり抽象的。
俺はまあ、それっぽいものを魔法などで看破できるし、仮にとは言え、キャラクターの技能を「スキル」などと定義することは可能だが、これが合っているかどうかは全く分からないのだ。
俺がいつも言っている「冒険者レベル」や「スキル」「能力値」などと言うのは、俺の勝手な解釈によるもの。何となくで分かる相手の実力を、俺自身もまた何となくで数値化している感じ。この世界の公式(神)の定義とは違うはず。
やる気のないファンタジー小説のように、この水晶に触れればステータスもスキルも犯罪歴も討伐歴も全部分かります!みたいな、頭の悪いおふざけアイテムは当然存在しない。
故に、引き継ぎ用の事務書類が必要な訳だな。
まあそもそもとして、俺が王都に呼ばれた理由も、悪魔王関連のキャンペーンクエストが原因だし、ちょうど良いだろう。
とりあえず、ギルド側に顔を出して、報告とやらをちゃっちゃと済ませるか。
「ここが、王都の冒険者ギルドか」
王都の冒険者ギルドの建物は、ボロネスカのそれのゆうに十倍はある、巨大な建物だった。
石造りの四階建てで、貴族の官邸よりも広いんじゃないか?という大きな建物……。
出入りする人もかなり多い。
建物の職員だけで百人は確実にいるだろうな。
そこに、千人以上の冒険者がいる……。
しかし、冒険者の様子はボロネスカと変わらないな。冒険者はどこでも冒険者ってことだろう。
俺達は、受付に書類を提出した。
しばらく待てと言われたので、ギルド内にある酒場で食事をして待つことに……。
もちろん、ギルド酒場の料理など食うつもりはないので、キッチンを借りて自分で調理する。
確かに、王都の冒険者ギルドなだけはあり、飯もそこそこに美味そうだが……。
わざわざここで食うほど惹かれるようなものはないな。
欧米の田舎料理みたいなのが殆どで、あえて食う必要があるものとか特にないしなあ……。
いや、もちろん、不味くはない。
不味くはないが、俺が作った方が確実に美味いのだ。
ファンタジー特有のモンスター肉料理とかもあるっちゃあるが……、季節外れのジビエみたいなもので、好き好んで食うようなもんじゃないしなあ。
材料も地球産の方が美味いし……。
金目鯛の煮付け、筍ご飯、太刀魚のアスパラ巻き揚げ、鳥ささみと山菜の土瓶蒸し、牛しぐれ煮、あさりの吸い物。
本日は和食でーす。
本当はね、先付けから水物まで幅広く作れるし、彩りも気にしたいんだけどね?
こいつら、外国人だからね……。
侘び寂びとか分かんないだろうし、適当に喜びそうなものをお出ししてるよ。
ルール無用の、味濃いめ。
繊細さもクソもないな!
だが……。
「これは……!」
「なるほど」
「流石は師匠!」
この料理は、周りの冒険者に知識判定のダイスロールを振らせる為のものでもある。
特徴的な匂い、食材、調理法……。
これらは全て日本の、この世界で言う東方国家群の料理である。
土瓶蒸しなんかは特に、「ヒントを出し過ぎたかな?」ってくらいの有様だ。
下手すれば、知識判定を平目で振っても引っかかるくらいには。
これらの料理を見た間抜けな冒険者は、「なんだか変なものを食っているな」で終わるが、INTやEDUが高い奴はすぐに気付くのだ。
俺達の中では、ぶっちぎりの高INTであるアデリーンと、経歴表が元貴族であるジョンとヴィクトリアは気付いたようだ。
十三世紀のヨーロッパで現代の和食が出てくると言う異常事態に気付けたのは、他にもいる。
「ふむ……」
あそこの禿頭にフルプレートアーマーのドワーフ。
「あら」
長身にフードのエルフ。
「おお……」
緑鱗の老いたリザードマン。
幾人かの冒険者は、俺の出した食事の異常性に気付いたようだった。
『看破』の魔法で見てみると……、なるほど。
ざっくりとだが、かなり強いことが分かる。
愉快じゃないか?
相手の食う物一つからでも情報を拾える優秀な冒険者が、何人もいるんだ。
こう言う奴らと冒険ができたら、きっと最高に楽しいんだろうな。
俺のような反則者(チーター)ではなく、正攻法で英雄になる奴らが、今この瞬間にも産声を上げている訳で。
それはとても、とても面白いことだ。
まあ、もちろん、俺には勝てないだろう。
だがそれでも、英雄が生まれていくのは見ていて最高に楽しい。
綺羅星の如く輝く英雄達、それを謳う伝説、新たな文化……。
そして……、それらの頂点に俺が立つのだと思うと、勃起してしまうくらいに興奮する。
たまらないな。
「おいしー!」
「おいしいです!」
なお、ヨナとノースは知識判定に失敗していた。
可愛いので許す。
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