第52話 王都コンソティ

貪食呑竜(グリーディ・マローダー)の死骸は、その場でマイス商会に売り渡した。


「いや〜!素晴らしいっ!あんな化け物を一太刀で仕留めるだなんて、ほんまにたまげましたわ!」


いつもより三倍の揉み手をしながら擦り寄ってくる、マイス商会の若番頭であるマーニーを軽くスルーしながら、俺は休憩していた。


護衛隊は、グリーディ・マローダーの解体に駆り出されているらしく、働き蟻が如く、竜の死骸に群がっている……。


この調子だと丸一日くらいはかかりそうだな。


仕留めた獲物に興味はない。


俺からすれば無価値なものだし……。


金も貰えたし、執着はないな。


そんなものより、俺が欲しいのは「名誉点」だ。


経験点はもう要らないし、金もいらない。


名声のみが欲しいのだ。


ゆくゆくは、授爵とか、開拓団とか、やりたいことはまだまだたくさんある。


世界を旅してこの世界の「設定資料集」を作り、どこぞかの国で「授爵」して、「開拓団」を結成して土地を切り拓き「街を作り」……、その過程で、沢山の美女を侍らせて遊び抜く。


それが俺の目標だ。


まあ、しばらくは、冒険者等級を上げることが第一目標だな。




「ほな、ありがとうございました!また依頼しますさかい、そん時はよろしゅうたのんます!」


「ああ」


王都に到着。


流石にあの後は、グリーディ・マローダー以上のモンスターは出てこなかった。


その後は、特に語ることもなく、無事に旅程を消化し、予定の期日に少し遅れて到着という訳だ。


ティレル王国の王都、その名をコンソティ。


その豊かさは、ナーロッパ(笑)と笑い飛ばせる程度のものでは到底なかった。


王都の大きな国道は、古代ローマよろしく石畳の道路が整備されており、その道幅は馬車三台がすれ違えるほどに広い。


王都近辺は、冒険者もそうだが、衛兵が警邏をしているお陰で、賊なんてこれっぽっちもいない。


更には、駅馬車や、荷馬車の定期便までもあり、宿場町はしつこいくらいに多かった。


ボロネスカはいいところ中世盛期ほどの街だったが、このコンソティは近世に入っているくらいだ。


とは言え、流石に産業革命とまでは行っていないようだが……、それも時間の問題のように思える。


付け加えて、今の王はまあ普通だが、次期の王たる第一王子は最高に有能だと名高い。


普通、民衆というものは、必ずと言っていいほどに支配者の悪口を言いたがるものだ。


日本もそうだったし、他の国もそう。


SNSで「総理大臣を逮捕しろ!」なんて言論すらあった。


それについて、総理大臣が無能だったとも、民衆が無能だったとも言わないがな。めんどくせぇ話だからスルーだ。


だがまあ、民衆は、自らの至らなさを他人のせいに、支配者のせいにするもんだ。


しかし、だ。


この国は違う。


そこらの貧農すら、第一王子は仁君だ、賢人だと褒め称えるのだ。


これは、相当なことだぞ。


事実、道を整備すると人の行き来が活発となり、結果として税収が伸びることを提言し実行させたのは、その第一王子らしい。


しかも、そのプロジェクトは、王子が十二歳の頃に自らが指揮をとってやった、とも。


尋常な存在ではないな。


これで、現王の正妻の長子で、心身共に健康に育ち、子を作る能力も確認済みで、剣技も用兵も一流の美男子だという話だ。


嫌味なくらいに優れた男だな。


その他にも、公衆衛生の整備、孤児の保護、安易な年金制度などの福祉の充実、文化の保護、法整備、無料の学校の設立もやって、戦争でも勝って領地を増やした、化け物じみた施政者だ。


ついでに言えば、これでまだ十九だというのだから恐れ入る。


恐らくは、俺よりも有能だろうな。


光武帝とフードリヒ二世と聖徳太子を足して割らないようなチートキャラ……。


流石に勝てないだろうよ。


コンソティ自体も、まだ門に入っただけだが、素晴らしい街であることが窺える。


門は堅牢、兵士は精強。


街は美しく衛生的で、ともすれば、現代のフランスなどよりも綺麗なくらいだ。


民衆も、明らかな貧民はほぼおらず、ヨナのような流浪民でも大通りを歩ける。


これは、凄まじいことだ。治安の良さが途轍もない。


見た感じでは、バロック様式の華美な建物が多いようだが、不思議と下品さは感じられない。それどころか、これほど豪勢な街なのに、上品に思えるくらいだ。


素晴らしいな……。


「やっぱり、ニコラウス様が政務に携わるようになってからは、この街は綺麗になったわね」


アデリーンがそう呟く。


アデリーンは長命種たるエルフだ。


昔の王都の姿も知っているのだろう。


「人間(ヒューマン)って、本当に凄いわよね。ほんの数百年で、こんな素晴らしい街を作ってしまうんだもの」


長命種らしく、愚かで短命な他種を見下してもいいものを。この言葉の端々に謙虚さが滲んでいるように、彼女は素晴らしい人格者だった。


流石はアデリーンだな。


「王都に来るのは初めてですね……」


「ん?貴族だったんだろう?」


「私の家は地方代官に過ぎない騎士爵でしたから。王都に参じるようなことはありませんでしたよ」


「なるほどな」


ヴィクトリアも、初めての王都に目を輝かせていた。


ノースとヨナもだ。


王都コンソティ、か。


良い街だな。

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