第35話 この世界は初版であるが故に……

タタルダンジョンの攻略。


現れる敵は、毛小鬼(バグベア)と毛熊鬼(ボダッハ)、そして地獄狼(ヘルハウンド)と、謎の大型モンスター。


それに対して、出血毒と酸によってダメージを与える作戦を取ることとした俺達。


もちろん、毒や酸などで多数の敵を相手できるかと言ったら、微妙だ。


じわじわ死ぬ攻撃で多数を相手取るとかどうなん?って話。


だが、この世界には、『魔化』という現象がある。


魔化とは、魔法的な力が篭る事を指す。


魔化した蛇の出血毒を喰らえば、篭る魔法の力の濃度が低かったとしても、どばどば血を流して死ぬそうだ。


物理現象的、医学的におかしい勢いで身体を侵し、恐ろしい速さで死に導く、らしい。


因みに、魔化物質による攻撃は、魔法の力が強い存在には効きにくいとのこと。


アデリーンほどの高い魔力の持ち主なら、低級の魔化物質の魔法効果はほぼ無効化できるんだとさ。


となると、恐らく俺も効かないだろう。


まあ……、つまりは、バグベア程度の相手なら、毒属性追加ダメージ2d5くらいってことよ。


酸なら、回復魔法などの回復効果を阻害すると同時に2d5ダメージを与えて、当たりどころによっては『火傷』『失明』などの状態異常も見込めるな。


あ、バグベアのHPは20点くらいだな。20点相手に期待値6点の追加ダメージは嬉しいな!


俺?俺はまあ、ダメージボーナスが100点あるから毒とかあってもなくても変わんねーわ。


ファンタジーTRPG的に言えば、グラップラーの類でもないのにパンチでレベル10の魔神を一撃必殺できると言った感じ?


和マンチとかそういうんじゃなくて、そもそもシステムが違うのだ。


例えるなら、周りの人間がチェスの駒なのに、俺一人だけSTGの戦闘ロボットユニットです、みたいな。


周りの人達がダイス振って判定してるのに、俺は固定値で何やっても自動成功……、と言ったような卑怯さがある。


いわば、相手にとっては、強制的に負けイベントが襲いかかってくるようなもの。


この世界に来てそろそろ一年が過ぎようとしているが、その最中、俺はずっと遊んでいた訳ではない。


この世界にある魔術と、俺が使う魔法との比較実験なども当然行なっている。


その結果、魔法は魔術の上位互換で、魔術で魔法に対抗することは不可能であるとも分かっていた。


これもまた、例えるならば。


魔法は、何十年も続くTRPGに飽きてきた人達が、勝手に他所のシステムを魔改造して持ってきたかのような追加サプリ(追加要素)だと例えられる。


TRPGに限らず、オンラインゲームやカードゲームなどを嗜む人にはよく理解できるんじゃなかろうか。


長年続くゲームは、マンネリ化を避けるために、後付けで様々なルールが追加されるだろう。


オンラインゲーム……、特にMMOなどであれば、追加ジョブが来て、それが強いから人権職とか呼ばれ始め、そのジョブでない奴はカス扱いされるとか。


カードゲームであれば、持ってなきゃカス扱いされる必須カードとか、後々に禁止カードにされるような現環境での最強カードとか。


要するに、俺だけが上位互換のルールで遊んでいて、周りの人々は最初期のバニラ状態で戦っていることになる。


そして、バニラの人々からすれば、俺の持つ追加要素は、対応できるルールがないのでモロ直撃する訳だな。


想像してほしい。


サービス開始直後のMMORPGのプレイヤーキャラと、そのMMORPGの十年後のプレイヤーキャラがPvPしたらどうなるか?


発売開始されたばかりの第一弾のカードのみで組まれたデッキと、シリーズ開始から十年後のカードで組まれたデッキがぶつかり合えば?


そんなもの、最早ゲームとして成立しない。


単なる蹂躙、虐め、殺戮だ。


レベル上限が倍以上で、完全に自分の上位互換の種族で、何十倍何百倍ものステータス差と武具アイテムの質の差で、挙げ句の果てに全く知らない新システムを山ほど使って殴ってくる敵とか、コントローラーを投げるに決まってる。


これから俺の前に立つ敵は、そうやって虐殺される訳だな。


しかし、そうやって簡単に倒すと絵的に面白くないじゃん?


TRPGの醍醐味は、ロールプレイを楽しむこともそうだけど、ここぞという場所でダイスを振ることだ。


最終場面!クエストで助けた美少女を傍に置き、神格との対峙!女を取るか自分の命を取るかの究極の選択!


そんな時に神格を説得するダイスロールで1クリを出して、GMを大爆笑させ、完全無欠のハッピーエンドにするから面白いんだろ。


「俺が一太刀で終わらせた」の一文で終わりでは、単純過ぎてつまらない。


だからなるべく、魅せプレイに凝っていきたいのだ。


とは言え、今回は魅せる相手もいないので、ヴィクトリアに経験点をあげる回としよう。




ヴィクトリア。


彼女は、鋼のショートソードを片手に持ち、果敢にダンジョンに挑んだ!


「前衛は私とサミュエルがやります。師匠とアデリーンさんは、前衛も後衛もどちらもできると思いますから、中列にいてください。ノースさんとティナは後列へ」


まあそんな訳ないよね。


ヴィクトリアには、己の無力さを徹底的に叩き込んでやったので、彼女は基本的に周りと協力しようとする。無策で突っ込むことはない。


俺の見立てでは、ヴィクトリアの実力は侍(サムライ)レベル5、深淵術師(アビスメイジ)レベル4、野伏(レンジャー)レベル4ってところだ。


深淵術師はこの世界にない職業で、その分強力だな。


冒険者等級でも、六級の腕前はあるだろう。


生まれ持った才能はトップクラス、死ぬ気の努力もして、更には経験も積んでいる訳だから、これくらいの性能はある。


因みに、参考までに言っておくが、アデリーンは魔術師(メイジ)レベル8、軽戦士(フェンサー)レベル6、野伏(レンジャー)レベル7、学者(スクーラー)レベル8、錬金術師(アルケミスト)レベル5ってところだ。


うん、あの子、ガチ英雄なんだよ。


年齢を聞いたところ、五百歳だとさ。五百年の積み重ねってことだな。


あ、因みに、エルフは数千年の時を生きるから、アデリーンは人間で言う二十代くらいなんだそうだ。


それと、冒険者の職業区分についてはこんな感じだな。


戦士(ファイター)は、防御力と攻撃力が高く、敵と肉弾戦をする。逆に言えばガチンコバトルしかできない。


野伏(レンジャー)は、敵を探したり、罠を仕掛けたり、飛び道具を使ったりできる。だが、正面からの戦闘能力は低い。


魔術師(メイジ)は、魔術による強力な攻撃ができる。攻撃以外にも、多種多様な魔術は、冒険の助けになる。だが、肉体的には弱い。


精霊使い(シャーマン)は、精霊術を使う魔術師のようなもの。肉弾戦は気持ち程度で、精霊などの霊的存在とのコミュニケーションができる。


神官(プリースト)は、神の奇跡たる神術が使え、更に正面戦闘もそこそこできる。但し、戒律に違反し続けると神の加護を失う。


この中から更に、スタイルによって分岐することもある。


例えば、防御力を捨てて回避重視で戦う戦士を軽戦士(フェンサー)と呼んだりな。


まあつまり、ヴィクトリアもアデリーンも、単体で大抵のことができる独立戦力である訳だ。


とは言え、正確に区切れば、ヴィクトリアは戦士でアデリーンは魔術師だな。


だからそのように運用すべきだ。


さあ、洞窟に入るぞ……。

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