第33話 アライメントによっては、交渉が不利になる場合もあります

ダンジョン発見の知らせを受けて、宿場町タタルへ向かうこととなった俺達。


片道三日の徒歩移動の始まりだ。


さて、道中だが。


これが電車移動とかなら暇潰しの手段が増えるのだが、徒歩移動なので、できることと言えば会話くらい。


退屈だ……。


まあ、景色を見るというか、森林浴ならぬ草原浴だとでも思えばいいだろうかね。




「ノース、最近はどうだ?」


「最近ですか?えーっと、最近は、修行が終わったので、王都に行く予定を立てていますよ」


ほーん。


「王都か。良いな、俺も行こう」


「えっ、来てくれるんですか?」


「まあ、ボロネスカにいてもやることがなさそうだしなあ」


「嬉しいです!一人だと心細いなって思ってて……」


何が心細い、だよ。


俺の見立てでは、ノースは既に、この若さで神官(プリースト)レベル4にまで達している。


このペースでいけば、二十代になる頃には英雄になってるぞ。


「どうせアレだろ?ボロネスカ程度じゃお前の才能が腐るからって、王都みたいな大きな街に派遣されることになったんだろ?ぶっちゃけ、ボロネスカみたいな辺境で燻ってるようなクズ神官と比べたら、お前は格別だもんな」


「そ、それは……。その、そういう言い方は良くないですよ……」


ああ、ノースもロウフルグッドだから、そうはっきりとは言わないか。


「でも、強ち間違ってないだろ?才能があるからもっと上に行けって言われたのは確かなはずだ」


「は、はい……。ボロネスカの地母神神殿の司祭様は、私には才能があると仰られていました……」


ほらな。


「やっぱりな。良いことじゃないか」


「良いのでしょうか……?私のような新米が、先輩方を押し除けてこのような……」


チッ、ロウフルグッドはこれだから。


カオティックニュートラルの俺とは相容れないな。


とは言え、気持ちが分からない訳ではない。


だが……。


「純粋な実力と才能の話だろうが。先輩方よりお前の方が上だったってだけだ。むしろ、誇りを持つべきだろう」


「いえ……、人は平等であるはずです」


「そりゃあ、お前はそう思っているのかもしれないが……。実際の話、お前が優れていたから、王都に栄転ってことになったんじゃないのか?どの道、これからお前がすべきことは、王都で更なる修行に励み、より多くの人を助けることだろう」


「そう、ですかね?」


「そうだろ。お前のようなロウフルグッドは、より多くの人を助ける道を選ぶはずだ」


「ろ、ろうふる……?」


「ん……、ああ、俺流の性格診断のようなものだ。お前はロウフル(秩序を重視)で、グッド(善人)ってことだ」


「な、なるほど……?でも、私は善人と言われるほどのことはしていませんけど……?」


うわー、いかにも善人のセリフ。


「いや、善人さ。お前は、社会秩序、法律と正義を重視して、そしてそれを悪用しない。素晴らしい人間だ」


「え、えっと、その、ありがとうございます」


と、軽く頬を染めるノース。


「因みに、アデリーンもロウフルグッドで、ヴィクトリアはニュートラルグッド(中立の善人)だな」


「シバさんはどうなるんですか?」


「カオティックニュートラル(混沌にして中立)」


「そ、それは、その……」


「混沌というのは少し大袈裟かもな。混沌とは、個人主義と言い換えられる。つまり俺は、俺の気分で、法や秩序を破壊し、やりたいことをやる自由主義者と言うことだ」


「……あの、悪いことはしちゃいけませんからね。私は、シバさんが悪いことをすると悲しいです」


あらまあ、良い子だわー。


だが、そういうことじゃないんだよね。


「カオティックニュートラルは、積極的に秩序を破壊する訳じゃない。本人の『夢』や『理想』の為になら何でもやるって連中だ」


「夢、ですか。シバさんには、何かを犠牲にしても叶えたい夢があるってことですか?」


「俺の場合、『理想』かもしれない。俺はな、『面白いこと』がしたいんだよ」


「面白いこと?」


「ああ。古臭い英雄譚のように、悪しきモンスターに攫われた美姫を助けにダンジョンに潜ったり、圧政に喘ぐ国家を転覆し革命を起こしたり、誰も見たことのない世界の果てを目指す冒険に出かけたり……。そう言うことがしたい」


「その為なら、犠牲があっても構わない、と?」


「ああ、そう言うことだ。俺がやりたいことをやって、割りを食う奴もたくさんいるだろう。だが、俺は関知しない」


俺がそう言うと、ノースは、酷く難しい顔をして言った。


「……正直、賛成できない考え方です。でも、そう言う考えの人もいます、よね」


ほう、良いじゃないか。


最近の三文小説やソーシャルゲームのように、主人公のやることなす事全てを賛美するイエスマンばかりなんて、つまらないもんな。


「そうだ、良くわかってるじゃないか。……だが、俺ももちろん、お前のような善人が悲しむのは心苦しいとは思っている」


まあ、善人は、いや好きな奴はできれば助けるが、気に入らない奴はどうなっても構わないってことだな。


「神官として、相談はいつでも受け付けます。ですから、なるべく、人を傷つけることのないようにしてくださいね」


保証はしない。


 

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