第32話 クエスト4〜タタルダンジョン〜
退屈な冬も過ぎ去り、段々草花が芽吹いてきた春。
俺は、タタルと言うところでダンジョンアタックをすることとした。
タタルの町……。
ボロネスカから徒歩で三日程の距離にある、人口千人ほどの小町。
この町は人口は千人だけだが、交通の要所となっている。
具体的には、『王都コンソティ』と『鉱山都市ブルスティー』、『港街アクアコトレ』を繋ぐ中間地点にあるのだ。
なので、人通りが極めて多く、定住する人は少ないが、一時滞在する人が常に千人以上はいる宿場町となっているそうだ。
そんな通行の要所の街道に、毛小鬼(バグベア)が現れたとの報告が入った。
バグベアは、蛮族である緑小鬼(ゴブリン)の近縁種。
もちろん、ゴブリンと同じく、人類種に敵対的な存在だ。
バグベアは、地獄狼(ヘルハウンド)を伴って度々街道に現れ、旅人を一人殺したそうだ。
もちろん、タタルの町も馬鹿じゃない。しっかりと対抗策を立てた。
八級冒険者五人のパーティに、調査と、あわよくば退治をしてこいと依頼したそうだ。
バグベアもヘルハウンドも、危険度等級で言えば八級。充分に勝算のあるクエストだった……。
だが、八級冒険者パーティは返り討ちにあった。
命からがら帰ってきた一人が、町はずれにある洞窟にバグベアの群れがいることを報告してきたそうだ。
なんでも、洞窟の奥には、バグベアの上位種である毛熊鬼(ボダッハ)が複数体いたそうだ。
ボダッハは、危険度等級にして七。それが複数となると、八級冒険者パーティの手に負えるものではない。
更にその奥では、正体不明の何か大きなモンスターがいたとか……。
まあ、そんな訳で、ボロネスカにお鉢が回ってきた訳だな。
ああ、その……、タタルには、あまり強い冒険者は駐在してないんだよ。だって、タタルは通過点だからな。
信頼できる冒険者は、大きな街に駐在して、大きな街で雇われて、また別の大きな街へと移動するものだからな。
さて、この依頼……、題すれば、『タタルダンジョンの攻略』ってところか?
これをやっていく。
だが、ボロネスカには現在、遠出したがる冒険者は少なかった。
俺とアデリーンは確定として……、ヴィクトリアもダンジョン攻略の授業として連れて行こうか。
あと、ノースも呼んだら来た。実は、ノースも冒険者としての資格を持っているそうだ。
うーん、あと二人くらい欲しいな。
アデリーンはともかく、ヴィクトリアとノースに集団戦について教えてやりたい。
今回のダンジョンはオーソドックスな洞窟型で、10feetもの大きさのモンスターがいたとの目撃情報から、結構広い洞窟だと推測できる。
初心者向けの設定だな。
こういう都合がいい機会に、なるべく経験を積ませてやりたいのがGMの本音だ。
今時、「騙して悪いが……」なんて流行らないからな。PCを殺しまくるクエストはあまり良くないと思う。楽過ぎると経験点が渡せないのでそれはそれでアレだが。
うーん……、いや、そうか。
ヴィクトリアとノースへ向けた授業だとすると、同じレベルの冒険者で揃えた方が良いか。
ギルド側に問い合わせて、八級冒険者のコンビを用意してもらう。
戦士と精霊使いのコンビがいたので、それを使う。まあ、NPCはなんでもいいよ。
アデリーン?こいつはロウフルグッドなので、俺がヴィクトリアとノースに経験を積ませたいと説明したら「良いわよ!」と即答してきたよ。天使かな?
そうして、八級冒険者のサミュエルとティナとかいう奴らを加えて、ダンジョン攻略をすることとなった。
「さて、ヴィクトリア」
「はい!」
「今回は、ダンジョンの攻略だ。すべきことはなんだと思う?」
「まあ……、装備の確認からですね」
ふむ?
ヴィクトリアは、微妙な目でサミュエルとティナを見た。
「あ、あの……、久しぶり」「久しぶりだね、ヴィクトリア」
ギルドから紹介された八級冒険者の二人は、申し訳なさそうな感じでヴィクトリアに挨拶してきた。
何だ何だ?知り合いなのか?
「どういう関係だ?」
「あ、あの……、実は俺達、九級だった頃にヴィクトリアと一緒に依頼を受けたことがあるんだ」
そう言って、サミュエルとか言う栗毛のガキは頬をかいた。
「ああ!お前らなのか、ヴィクトリアの足を引っ張った新人ってのは」
そういえば、前に、ヴィクトリアがフリーで組んだパーティに使えないコンビがいたとかなんだとか……。
こいつらのことだったのか。
「で、でも!あれから俺達は、心を入れ替えて勉強して、八級になったんだ!今回は足を引っ張らないぜ!」
「そ、そうだよ!私達、ベテラン冒険者のチェリオとヤンネに色々習ったんだから!」
ふーん?
チェリオとヤンネ……、最近引退して宿屋になったベテラン冒険者コンビだな。
この前、宿屋の目玉メニューを考えて欲しいって依頼に協力して、揚げ物を教えたっけ。
まあ、話を聞いてみないことにはなんとも言えないが……。
「ヴィクトリア、こいつらは少しは反省しているはずだ。話を聞いてみたらどうだ?」
「……はい、そうですね。二人の装備はどうなったの?」
すると、サミュエルは、腰に指を指した。
「俺は、剣術はどうも上手くいかなかったから、ショートソードは売ってバトルアックスにしたよ」
そこには、男が片手持ちでちょうど良いくらいの斧が吊るされていた。
20inchほどの木製の柄に、無骨な刃が取り付けられたもので、力任せに叩きつければ人間の頭蓋程度は容易くかち割るしっかりとした斧だった。
「それと、チェリオに盾の使い方を習ったんだ。このラウンドシールドは、縁を金属で覆っているから、斬撃に強いんだぜ」
円盾(ラウンドシールド)か。
丸くて引っかかりにくいから、素人にも扱いやすいな。
「それと、鎧はチェインメイルにした。音が出て隠れたりはできないけど、そもそも俺は隠れたりするのは得意じゃないから、そこは割り切ってる」
ふむ。
鎖鎧(チェインメイル)か。
金属でできた円をつなぎ合わせて作った服のようなものなのだが、斬撃に対して高い防御力を誇りつつも、動きやすいという良い鎧だな。
「それと、鉄板を仕込んだガントレットとブーツだな。胸当ても鉄板を仕込んである。ちょっと重いけど、俺は力には自信があるから大丈夫だ」
鉄の胸当てと鉄板の入ったレザーガントレット、ブーツ。
総じて前衛向きの装備だな。
戦士(ファイター)レベル3ってところか。
「それと、ちょっとだけだけど、野伏(レンジャー)の訓練も受けたんだ。薬草の見分け方と、獣の足跡の追い方は覚えたぜ」
野伏(レンジャー)はレベル1か。
「私は、メイスの使い方をちゃんと習ったよ」
次はティナの装備か。
メイス……、戦闘用の棍棒のことだ。
木製の柄の先端に、男性の握り拳ほどの鉄の塊がついている。
女の力でも、遠心力のままにこのメイスで殴れば、当たりどころによっては人間くらいなら殺せるだろう。
そして、戦士(ファイター)レベル1くらいの腕前、と。
「それと私、土の精霊使いなんだけど、あれから勉強を頑張って、使える術が増えたんだー」
精霊使い(シャーマン)としてはレベル3くらいか?
「装備は、重いのがダメだから全部ソフトレザーだけど、ブーツは良いやつを買ったんだー!」
ブーツ+1(高品質)か。
まあ、有りじゃないか?
「どう思う、ヴィクトリア?」
「うーん、装備面は大丈夫そうだと思います。あとは、実際に戦ってみないとなんとも……」
よし、じゃあ早速やっていこうか。
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