第25話 小さな剣士ヴィクトリアの冒険 その4
行き先は街から半日ほど歩いた先にあるイニーア村。
街の外を長距離歩く事が予想される。
村に到着したら一晩泊めてもらう予定だけど、食事が出せるほど余裕のある村なのかは不明。
だから、二日分の食料を持っていく。
それと、『家畜がいなくなった』ってことは、敵は恐らくウルフなどの肉食動物。
少数のウルフの群れなら追い払えとも言われているし、ウルフと戦うことは確定かな。
なら、ショートソードで充分。
罠とか爆弾はいらないね、そんな大物は出ないはずだし。荷物が重い方が大変だもん。
朝。
「悪い悪い!ちょっと遅れたぜ!」「ごめんね、サムが起きなくて……」
案の定遅れてきた二人を連れて、イニーア村に向かう。
うーん、この調子なら、いないものとして扱った方が良いかな。
しばらく無言で歩く……。
「あ、あのさ、さっきから喋らないけど、もしかして怒ってんのか?」
サミュエルが言った。
「ううん、怒ってないよ」
「そ、そっか!良かった!」
「ただ、信頼できないなって思っただけ」
「な、何でだよ!」
「え?装備は適当で、話を聞いてくれなくて、時間も守れないから……」
「う……、で、でも、冒険者なら強けりゃ良いだろ?!」
「うーん……、私の師匠みたいに、一人で傭兵団一つを皆殺しにできるくらい強いなら、それで良いかもね。でも、私もあなたも、そうじゃないでしょ?」
「傭兵団を、皆殺しに……?ま、まさか!」
気付いたんだ。
まあ、師匠の名声って、ボロネスカでは物凄いからなあ。
傭兵団の殲滅に加えて、エルフを相棒にして、森の主を倒した。
まあ、英雄だよね。
森の主は危険度等級にして五。
それを、私の目の前で、『剣技の勉強』と称して嬲り殺し……。
あんなくらいに強いなら、他に何もいらないだろうけど。
「ま、まさか、『銀の流星』……?!お前、『銀の流星』の弟子なのかよ?!」
「そうだけど」
「何でお前だけ……」
あー、もしかして、師匠に弟子入りを頼み込みに行った口かな?
断られたってことは、多分……。
「あなたが『つまらない人間』だからだと思うよ」
「つ、つまら、ない?」
「師匠は、弟子入りのために三日間ずっと土下座し続けた私を、『面白い』と評価して弟子にしてくれたの。そもそも、あなたは本気で弟子入りするつもりがなかったでしょう?違うかな?」
「そ、そんなこと!」
どうだか……。
一度断られた程度で諦めるなら、本気じゃなかったってことだと思うけど。
「それに、あなた程度じゃ、修行について来れないと思う。覚悟が足りてないし」
「……クソッ!」
村についた。
村は、人口二百人くらいの小さな村で、木製の柵に囲まれている。
が、その柵は、老朽化と何者かによる破壊でいくらか壊されていた。
黙り込んでいる二人を無視して、村人に話しかける。
「こんにちは村人さん。私達は、家畜の居なくなった件の調査に来た冒険者です」
「おお!冒険者さんか!話は村長がする、こっちに来てくれ」
案内された村長の家で、話を聞いた。
内容は、冒険者ギルドに送られてきたものと相違ない。
時間帯的にはそろそろ夕方だから、空き家に泊めてもらうことに。
そして、次の日……。
「起きてくれるかな?仕事の時間だよ」
「お、おう」「うん」
早速、仕事を始める。
まず、付近の森へ。
何故かというと、家畜の血痕が付近の森へと続いていたから。
それと、獣の足跡も。
ただ、大きな二足歩行の足跡もあるから、ウルフを使役している蛮族である説が濃厚。
一応、姿を確認しに行こう。
数が多かったり、強そうなのがいれば撤退ってことで。
と、私が説明すると……。
「そ、その、さあ」
サミュエルが何かを言い始めた。
「できれば、村の人を助けてやってくれないか?」
「そうだね、できれば私もそうしたいよ。でも、私達の手に負えない場合は撤退するよ」
「この村みたいな小さな村じゃ、家畜が一匹いなくなるだけでも大変なことなんだ……。俺も貧農の出だからよく分かる。もし、俺達が逃げて、ギルドに報告して、新しい冒険者が来るまで待っていたら、その間にこの村は……ッ!」
「でも、家畜より、命の方が大事でしょ?」
何を言ってるんだろう?
家畜を失ったら大変だろうけど、死ぬよりはマシなはず。
「私だって、全てを失ったけど、諦めなかったから再起できて……」
「世の中は!」
わっ。
「世の中は、お前みたいにすげーやつばっかりじゃねえんだよ!」
えぇ……、何の話?
「俺達みたいな、学も力もない貧農は、その日暮らしていくだけでも精一杯なんだ!家畜を失えば、家族を人買いに売って金にするしかねぇ!」
あー……。
「お前はすげぇよ!浮浪者から、『銀の流星』の弟子になって!俺より物知りで!力もあるし、剣の技とかも使えるんだろ?!でも、俺達みたいな貧農には何もないんだ!」
なるほど。
「俺だって……、俺だって!『銀の流星』に弟子入りしようとしたさ!でも、駄目だった!見込みがないって!無能だって!つまらないって!そして、怖い顔で睨まれたから、怖くなって逃げちまった!」
ああ、そっか、そうなんだ。
この人が特別駄目なんじゃなくって、これが普通なんだ。
冒険者は、普通、無知無学で、力も技もなく、無計画なんだ。
私の周りには、騎士だった父と、無敵の魔剣士である師匠、その相棒の魔法剣士のエルフと、とても凄い人達がいたから気づかないだけで、これが冒険者の普通なんだね。
学んでこなかったんだ。学ぶという発想すらなかったんだね。
毎日、その日の糧を得る事だけで精一杯だった人に、「学がない」だの、「技がない」だのと言えるか?
そうか、そういうことなんだ。
「ごめんね、あなた達に配慮しなかった。無意識で、師匠のような存在が基準になってた。謝るよ」
「……いや、分かってくれたんなら、いい」
でも……。
「でもね、これだけはちゃんと、今ここで考えて。私達が戦って勝てないくらいのモンスターがいれば、逃げた方がいい。村人さんを見捨てることになっても」
「それは!」
「死んじゃうかもしれないんだよ?ここの村人さんの為に、命をかけられる?」
「……かけられ、ない。自分の命の方が、大事だ」
「そうでしょ?駄目そうな時は逃げよう。私は自分で何とかするから、サミュエルはティナを守ってあげて?男の子なんだから、ね?」
「お、おう。分かった!」
やる気がないことは軽蔑すべきことだけど、できないことを侮蔑しちゃいけないんだな。
それが学べただけでも、今回の依頼に意味はあったよ。
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