第21話 弟子は錯乱している

とりあえず、その辺で伸びてるヴィクトリアに、魔法で生成した水をぶっかける。


「ぶはっ?!!」


「起きろ」


「は、あ……、あああああっ!!!」


お、起き上がって殴りかかってきた。


へえー、闘争心はあるみたいだな。


偉い偉い。


無意識でも戦う気概があるとは良いことだ。


まあ、押さえつけるけど。


「離せ!離せえ!うわあああああっ!!!」


あ、これ、錯乱してるわ。


えーと、あれだ。


「《鎮静》」


軽く魔法をかけて元に戻す。


「は、あ……」


よし、大人しくなった。


「じゃあ早速、反省してみろ」


「わ、私が、早く強くなりたいとか、生意気なことを言ったから……。ごめんなさぃい……、うええええん!」


んー?


「いや、それは別に良いんだよ。怒ってる訳じゃないし、怒ったから痛めつけた訳じゃない」


「えぇ……?」


「本気で殺し合ってみて、どうだった?」


「……何にも、できませんでした」


「具体的にどうだ?何ができなかった?」


「え、あ、その、習った通りの型が使えなかった、です」


「そうだな、それだけじゃない。腕力もなかったし、錯乱して隙ができ、何度も斬られた」


「は、はい」


「だから基礎をやった方が良いよ。ちゃんと飯食って、筋肉つけて。毎日剣振って、技を身につけて。場数踏んで、根性身につけて。努力をしろ」


「……はい」


まあでも。


「楽しかったし、またやるか!」


雑魚を甚振るのは楽しいな!


「う、うえええん!!!」


泣くなよ、なんか悪いことしてるみたいな感じになるだろ。




うん、やっぱり、殺人コースはやって正解だったわ。


修行への入り込み方が違う。


めちゃくちゃ気合入ってるもん。


普通、ガキに剣術とかを教えると、基礎の反復練習の時につまんねーとか言ってブー垂れるんだよな。


実際、ヴィクトリアも、基礎練習がつまらんから早く強くなりたいとか言ったんだろう。


実際に実戦で分らせてやると、自分に足りないものが見えた訳だ。


基礎は反復して身体に叩き込む必要があるが、意識にも叩き込まなきゃならない。


ってか大体、技巧は精神とか意識と思考の問題。


回数だけこなせば良いって訳じゃない。素振り一回でどれだけ学べるかが才能の高低ってことだな。


逆に、中身のない奴ほど数を誇るんだよ。中々知られてないことだがな。


いや本当に……、才能ってあるぞ。


人間に与えられた時間は、一日たったの二十四時間。


凡人は天才の倍の時間努力する必要があるとしよう。


天才が一日三時間のところを、六時間剣を振るわなきゃ追いつけない、と。


だが、天才が六時間剣を振るったら?


凡人は十二時間剣を振るわなきゃ追いつけないよな?


じゃあ……、天才が、血の滲むような努力を、一日十二時間続けたら……?


そうなったらもう、凡人は追いつけない。


あとなんか、天才は才能にかまけて努力していないみたいな風潮あるけど、実際、天才はめちゃくちゃ努力してるからな。


むしろ、努力を努力と思わないというか、努力することを楽しいと思える奴こそを天才というんだよ。


天才を凡人が倒す展開なんて、よく創作物に出てくるが、世の中にいる天才と呼ばれる連中は皆、才能がある上で更に血が滲むような努力をしているんだ。凡人じゃ、逆立ちしたって敵わんよそりゃ。


「さて、即死コースの修行をやって、どうだ?」


「はい、目的意識を持って普段の訓練に取り組めるようになりました!」


ふむ、素晴らしい。


「そうだな、最初とはえらい違いだ。頑張っているし、結果も出ている」


「ほ、ほんとですか?!」


「自分じゃ気付かないだけで、上手くなってるよ。自信を持て」


「はいっ!」


実際、基礎の重要性を知ったヴィクトリアは、ぐんぐんと実力を伸ばしていた。


素振り一回であろうと、どれだけ集中して、どれだけ学べるかの効率が才能であるとさっきも言ったが、ヴィクトリアの脳裏に深く刻まれた殺し合いの記憶が、集中力を極限まで高めている。


恐らく、復讐相手が居なくなって気を抜いていた部分があったんだろう。


それがなくなったのだ。


根元が恐怖であれ、集中できることはいいことだ。


メンタル……、目的意識って大事だな。

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