第20話 剣技を教えても良いし、しなくてもいい
「ガキ、名前は」
ガキが粥を食い終わったのを見計らい、俺はそう訊ねた。
「ヴィクトリア……、ヴィクトリア・ローゼス、です」
ふむ、姓を名乗るってことは、やはり貴族か。
この世界では基本的に、平民に姓はないからな。
あと、これは完全に勘というか、状況証拠のようなものだが、このような孤児になっておきながらも姓を名乗るということは、お家にかなり誇りを持っていると思われる。
恐らくは、潰れたお家の復興とかが望みだろうか?その為に力を求めてるとか?
年齢はノースと同じくらい。つまりは成人前。あ、この世界の成人は十五歳だぞ。
何にせよ、元貴族で強く力を求めていることは確定している。
そして、面白そうだから力を貸すことも……。
「で?何故強くなりたい?」
「それは……」
「ああ、勘違いするなよ。『復讐するな』とか『偉くなることなんて無意味だ』とか、道徳を説く訳じゃない。つまらん理由なら追い出すが」
「復讐……、は、もうできません」
あら、そうなの?
「私の両親は、あなたが潰した『黒い牙団』によって滅ぼされた村の領主でした……」
あー、はいはい。
なるほどね。
「何故、この街にいるんだ?」
「両親に逃してもらって……」
逃げに逃げてここに、ってことか。
この辺境で大きい街なんて限られてるもんな。貴族とは言え、所詮は田舎のガキであるヴィクトリア。その頭に一番初めに思い浮かんだ大きな街ってのが、このボロネスカだった訳か。
「ははあ、なるほどな。つまりお前はこう言いたい訳だ。『強ければ奪われない』と」
自分が強ければ、親も、村の平穏も、村人も、財産も……、奪われなかったと。
「……はい」
なーるほーどねえ。
「良いね、面白い」
俺はニヤリと笑ってから、ヴィクトリアの顎を持ち上げて無理やり目を合わさせた。所謂顎クイである。
「鍛えてやるよ。ただ、泣き言は言うなよ?」
「……はいっ!」
「とりあえず、今日はもう寝ろ」
「分かりました……、では、外にいるので」
「いや、待ってろ。おい、店主!追加の宿代だ!」
宿の店主に宿代を払う。
ヴィクトリアの分だ。
「え……」
「身体を労われ。それが修行の第一歩だ」
「あ……、ありがとうございます!」
師匠ムーブメント楽しい!
さて朝。
ヴィクトリアに飯を食わせて、早速訓練することにした。
教えられるのは天然理心流だけだ。
魔法はやめておいた方が良いだろう。
まあ、早々に厳しい訓練やらせて、身体壊してもなあ。
辛い=効果的!って訳でもないし。
そうやって、初めの一ヶ月は基礎に費やした。
だが……。
「こんな訓練じゃ、駄目です」
などと言い始めた。
「何がだ?」
「じっくり基礎だなんて、やってられません!早く強くなりたくて……!」
ふーん。
あっそう。
「じゃあ、これからは殺す気でやるから。死んだらごめんな」
俺は、ヴィクトリアに真剣を持たせた。
俺も真剣を持った。
「ほら、かかって来い」
「え……?し、師匠?」
「殺す気でやれ。こんな風に」
俺は、ヴィクトリアの手首を斬り飛ばした。
「ぅ、あ、ああああああああっ!!!!!」
「《生命促進》」
しかし、斬り飛ばした腕を即座に再生させる。
「腕が飛んだくらいで叫ぶなよ。ほら、まだまだ行くぞ」
足を斬り飛ばし、再生。
本人が生っちょろい訓練じゃ満足できないってんだから仕方ないよね!
大丈夫、大丈夫。
俺、ダイス運は良い方だし。
今回も成功するよ、多分。
「立て。剣を持て。殺す気で振るえ」
「あ……、あああああああっ!!!!」
良いね、向かってくるか。
「だが甘いんだわ。基礎が大事って言ってるのは、こう言う時に……」
「うわあああああっ!!!!」
「ほら、こう言う時に型が甘いから、防がれる」
唐竹割りに振るわれたヴィクトリアの刀を、擦り上げるようにして鍔で弾く。
「で、返される」
そして、返す刀で胴体を斬り裂く。
龍尾剣という技である。
「……っあ、あああああああ!!!!」
痛みのあまり絶叫を上げるヴィクトリア。
俺もこんなことしたくないんだけどなー。
良心が痛むなー。
いやマジで。
好き好んで女子供を斬りたくはないよそりゃ。
でも、できるかできないかで言えば、できる。
別に俺は非情ではないが、非情になれるのだ。
良心回路はオンオフできなきゃ、この世界ではやっていけない。
いやだってほら、噂によると人間の女子供に擬態するモンスターとかいる訳だからね?
ってかそれ以前に、すでにあっさり人も斬ってるし。盗賊だけど。
俺も、あっちの世界で死んだ時、殺されたから殺し返したでしょ?
死にたくないからお前が死ね!とかで良いんだって。
下手な仏心出すと死ぬからな。
殺さずに無力化とか偉そうなことを言うには、敵の倍は強くなきゃならないし、結局は、非情になって容赦なく殺した方が良いよ。
まあ、今回は殺さなくてもいいし手加減すべきケースかもしれないが……、基礎がやってらんねーっつーんならこれしかねぇんだわ。
さて……、ヴィクトリアは限界を迎えて、ゲロ吐きながら失禁して倒れたようだ。なんかビクンビクンしてるけど、本人が望んだことだからしゃーない。
まあぶっちゃけ、こんなんやっても無意味なんですけどね!
いや、無意味ではねーか。
勝負勘と度胸、あと殺意は抱けたか。
多分、ヴィクトリアは、今後の人生で今よりも怖い思いや痛い思いをすることはないだろう。
少なくとも、今、十回分は殺したからな。
ならば、窮地においても恐れを抱かないはずだ。どんなピンチに陥っても、「この時よりはマシだ」と思えるはず。
剣術なんてもんは、手元の武具でどうやって相手をぶち殺すか?ってことに尽きる。
そこに、活人剣だのなんだのとラベルをペタリと貼り付ければ、それが流派と呼ばれるだけ。
いかに効率的に殺すか?ってのは、言ってしまえば、力強く、速く剣を振り、そして相手の剣に当たらなければ良い。
その為に、身体を鍛えたり、小技を練習したりする訳ですね。
ヴィクトリアも痛感したんじゃない?
腕力のなさ、技巧のなさ、根性のなさ。
それを知れただけでもマシ、じゃねーかなあ。
一応、シバは免許皆伝の腕で、俺本人も十年以上続けてるから人に教える立場だったのは確か。
こんなに厳しくしたことはないけどね。
まあ、死にかけたんだし何かしらは掴んだでしょ。
ここまでやって「なんにも分かんなかったです」ってんなら、そりゃ才能がねえわ。剣の道なんかに足を踏み入れず、剣じゃなくって田舎でクワを握ってろってことだな。
俺の見込みだと、かなりの才能があるとは思うんだけどなあ。
もちろん運もあるだろうが、親を失って、住む村を滅ぼされた、貴族の女のガキなんていう死亡フラグの塊を押し除けて、身売りをせずに今の今まで生きてきたんだから、能力は高いはず。
駄目なら切ればいいし、試してみよう。
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