第17話 盗賊退治クエストのエピローグ
盗賊団を撃滅した後、俺は、斬り落としたライカンスロープの首を拾って、ギルドマスターに投げて寄越した。
どうでも良いことだが、人狼状態で死ぬと、そのままの姿で死体になるみたいだ。
「報酬金と昇格を頼む」
「分かった、分かった!充分な活躍だった!だが、そう焦るな!とりあえず、後処理からだ。死体を燃やして、生きてる奴は尋問するぞ!手が空いてる奴は手伝え!」
俺は、《灼熱》の魔法で死体を全て破壊して灰にした。
「これで良いか?」
「……うむ、分かった。昇格でも何でもしてやる」
ギルドマスターは、大きな溜息を一つ吐いて、観念するかのようにそう言った。
「やったぞ!信用度が八級になった!」
昇格試験はギルドマスターが今回の盗賊団の撃滅で、合格扱いにしてくれた。
これで、晴れて八級冒険者だ!
八級冒険者は一般と呼ばれる領域だ。
食っていくのに困らない程度には稼げる。
一生を八級冒険者で過ごす奴も珍しくはないそうだ。
十級で資格のみあるペーパードライバー、九級で見習い、八級で一般って扱いみたいだな。
このボロネスカの街の冒険者ギルドには、何故かいる三級のアデリーンを除けば、五級冒険者までしかいないらしい。
辺境の街では五級でも英雄と言えるようだ。
実際のところ、三級以上の冒険者は、ほぼ国家の専属冒険者のような扱いになるらしい。
四級で一つの街の英雄、三級からは地方レベルの英雄。
二級は国レベルの英雄で、一級は複数の国々に名だたる大英雄だそうだ。
更にその上に特級冒険者と言うのがあるらしいが、それはもう、全世界の人々がその名を知り、神殿の聖典にすらその名が記載されるような神話レベルの大英雄にのみ与えられる称号なんだとか。
良いねえ、最高だ。
とりあえずは、その特級冒険者とやらを目指そうか。
で、だ……。
とりあえず、八級までに階級を上げられた俺。
もっと上がっても良いんじゃないか?と思ったが、あんまり飛び級とかはしないらしい。最初の試験のみでしか飛び級とかはないそうだ。
俺の場合、信用度が、地下で盗賊を捕らえて情報をもたらした時点で+1、盗賊団を壊滅させたことで+1ということらしい。
そもそも、こんな辺境の街ではそんなに等級を上げる権限がないそうだ。
まあ確かに、五級までしかいない田舎街で、五級以上の判定は出せんわな。
その内、王都とかの都会に行こうか。そこなら、昇格を期待できそうだ。
まあ、五級になるまではここで良いかね。
とりあえず、定宿に戻る。
もう夜も遅いしな。
日の出まであと四時間もないだろう。
この身体だと、別に寝なくても平気なのだが、寝ないと気分は良くない。
二、三時間寝れば全快だし、しばらく寝よう。
「ん?」
開いてない。
……あー。
なるほど。
この世界、そういや、中世ファンタジーだったな。
夜通し受付がいる現代日本のホテルとは違う、よな。
アホか俺は。
そりゃそうだよ、宿屋の主人も寝てるだろうよ。
叩き起こすのもどうかと思うし……、しゃあねえな、宿を「生やす」か。
さて、ここにあるのは二級アーティファクトの『家樹の杖』と言うもの。
これはね、地面に突き刺すと……。
「ヨシ!」
見る見るうちに成長して、ツリーハウスになるんだよ。
ツリーハウスと言っても、木の上にあるこじんまりとしたものではなく、2LDKほどの立派な一軒家だ。
地脈から水を吸い上げて上水道にし、下水の類は土に還るエコっぷり。
但し、地面が土じゃないと使えない欠点がある。つまり、砂や石では駄目だってことだな。
まあその時はその時で別に使えるアーティファクトがあるんだが、これが凄いのは上下水道完備ってところだ。
現代人として、そこは譲れない。
俺は、キッチンで軽く夜食を作ることとした。
そう言えば、バタバタ動いて晩飯を食えなかったからな。
もちろん、半神たる俺は食事をしないくらいでは死なないが、やはりこれも気分だ。
二級アーティファクトの赤銅鍋……、俵藤太が龍神からもらった食べ物が無限湧きするアレだ。これから、鳥ささみを取り出し、醤油ベースで溶き卵と三つ葉と一緒にスープを作る。
その間に米を炊いておにぎりを作る。
余った米はおにぎりのまま《宝物庫》にしまって、明日の朝食べよう。
そしておにぎりは味噌おにぎりだ!
みりんで伸ばした麦味噌をおにぎりに塗って、表面を炙ったものだ。これがたまらなく旨いんだ。
俺の母親の実家は、仙台の田舎の方でな。ほんの小さい頃、ひいばあちゃんに作ってもらった味噌おにぎりが美味かった記憶だけが残ってる。
人の顔や、出来事なんかは全然覚えてないのに、味噌おにぎりの味だけをずっと覚えてるんだ。違う人間の身体になってもな。
人間って不思議だな。いや半神だが。
さて、ちゃっちゃと食って寝るかー。
「じー」
ふと、窓を見ると、エルフのアデリーンが俺を見ていた。
「……何?」
「いえその……、街中で極大の魔力反応があったから、何事かと思って」
なるほど。
アーティファクトは、発動させると魔力反応があるもんな。
「……あと、私の定宿も、この時間だと閉まってるから、一晩泊めてくれないかしら?」
なーる。
「構わんよ。飯は食うか?」
「ありがとう!いただくわ!」
美人エルフには優しくしろ。これ、ギャルの鉄則。
「もぐもぐ……、おいひい!」
んー、この子、若干アホなのかね?
男の部屋に転がり込むとか。
俺が半神であることも理解してるんだし、レイプとかされたらどうすんのかとか考えないのか?
と、俺はそんなことを聞いてみた。
「え?あなたは、私に酷いことするの?」
「しないけどよ……、警戒心がなくないか?」
「うーん、そうかしら?そもそも、私じゃ逆立ちしたってあなたに敵わないわ。恐らく、逃げることもできないはずよ。最初からどうしようもない存在であると確定しているんだから、ジタバタしても無駄じゃない?」
ほー、そういう考え方をするのか。
肝が太いな、好きな考え方だ。
好きな奴には優しくしてやりたくなる。
我々TRPGプレイヤーは、女NPCの前でかっこいいところを見せるためになら命をかけるからな。
こんな美人エルフにお願いされたらNOとは言えんのだ。
「この発酵した豆のペースト、東方国家群のものよね?あなた、東方から来たの?」
「いや、俺は異界から来た。だが、異界の東方にいたのは確かだ」
「へえー、やっぱり、異界でも食文化とかは同じ感じなのかしら?」
「そうかもな」
実際、フィーユ村で習ったこの世界についての話にあった東方国家群と、地球の日本は似た文化のように感じた。
と言うか、聞いた限りだと完全に戦国乱世の日本そのものだったな!
まあ、戦国ってことは、醤油はあるかどうか微妙だが味噌はあるだろう。米もあるはずだ。
だから、アデリーンは知っていたのかもな。
やっぱりほら、エルフでしょ?
長生きしてるんだし色々知ってるんだろうね。
「ごちそうさま!美味しかったわ!」
「ん、じゃあ、あとは歯を磨いてシャワーでも浴びてこい。あっちが寝室だ。俺はリビング……、大部屋のソファで寝るから、何かあれば言ってくれ」
「ええ、ありがとう」
「……夜這いしていいか?」
「もうっ!駄目よ!」
「いつならいい?」
「せめて、する前にデートくらいはしてほしいわ」
「おお、良いね!デートか!いつか行こうぜ」
「ふふ、楽しみにしてるわ。じゃあ、おやすみ」
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