第16話 クエスト2 〜盗賊退治〜

さーて、ピンチに陥っているボロネスカをお助けしてやろう。


お助け料いちおくまんえん、ローンも可だ。


俺は、10feetほどの高さをジャンプして、倒壊した門の瓦礫の上に立つ。


まあもう、当然、めちゃくちゃ目立つよね。


敵の盗賊団は元より、味方の衛兵と冒険者達も俺のことを見ている。


そんな俺は、端から端まで戦場を睥睨し、魔力を練り始める。


凄まじい魔力だ。渦巻く魔力の嵐は、銀色の燐光となって俺を強く照らす。


禍時の暗い空に、輝く銀の光……。


途中で、ボウガンのボルトが俺の頭部に叩き込まれる。戦場の最も高く、最も目立つ位置で、魔力を練って銀色に光っている奴がいるんだもの、そりゃ狙われるわな。


だが、それは『アダマースの護りの鎧』の効果で弾かれる。


限りなく透明に近いダイアモンドのような板が、俺の身体の表面から湧き出るように出てきて、それがボルトを弾いたのだ。


そして、役目を終えたダイアモンド板は、極小のダイアモンドの砂となり、サラサラと零れ落ちる。


『アダマースの護りの鎧』には、あらゆるダメージを半分にして、更には30点ダメージ以下の攻撃を無効化する力があるんだが……。


リアルではこの効果がどんな感じで現れるのか?と疑問だったが、こんな感じになるのか。


そして俺は、利き手の左腕を振りかぶり、唱えた。


「Πείτε στη θεά της μίκας "Μαρμαρίγιας". Δανείστε μου ένα αιχμηρό νύχι.《マルマリギアスの鉤爪》」


すると、俺の左手は拡大され、更には、黒雲母でできたような巨大な腕と鉤爪が生えた。


鉤爪は長さが150メートルにも及び、色は、現在の禍時の空よりもなお暗い闇色で、石材のはずの雲母は生物的な「なまめかしさ」を持っている。


皮膚のように見える雲母は、まるで呼吸する臓腑のように脈動しており、陽を浴びる冷血動物のような冷たい熱を感じられた。


そんな鉱石の腕から、ギチギチと筋肉の引き絞られる音が一秒間響く。


次の瞬間、鉤爪は、引き絞られた弓矢が放たれるように、縮められた発条が解放されるように、びゅう、と風を切り裂いて宙を駆けた。


すると、世界そのものが悲鳴を上げるかのような甲高い破壊音が聞こえ、それと同時に、戦場である門前の広場にいた盗賊団のうち六十程が、「輪切り」になった。


誰もが、自分が死んだことに気付いていない顔をしながら、死んだ。


それほどの斬れ味なのだ。


黒雲母の鉤爪を消した俺は、瓦礫の山からゴム毬のように飛び降りた。


ゴム毬であるからして、高所から落ちれば、ぎゅっと縮こまって、そして素早く力を解放して、跳ねた。


ゴム毬と違うのは、俺が手足のある人間であり、跳ねる方向を選べると言うことだ。


よって、前に思い切り跳ねた俺は、ゴム毬からピンボールとなって盗賊団員を蹴散らした。


火を吹く『灼熱の刃』を振りかざし、振り下ろす。


薙いで、払って、打つ。


人外の膂力で行われるそれは、一撃で、掠っただけでも人体は両断どころか、衝撃でバラバラになる。


血飛沫と共に、人のパーツがカートゥーンの如く飛び散る。カートゥーンと形容したのは、それくらい現実離れしている破壊の劇場だったからだ。


「お、オオオオオオオ!!!!」


なんかボスっぽいのが人狼になって襲いかかってきた。


先ほどまで、自らの勝利を疑っていないかのような薄ら笑いを浮かべていたのに、今は目に見えて怯えている。


こんなもん瞬殺……、いや!軽く接戦を演じてみるか!


盗賊のボスっぽいのは、ライカンスロープ……、狼男だったみたいだ。


筋骨隆々の狼人間の姿になって、二本の大斧を振り回して襲いかかってくる!


大斧は、長さ3feetに、15pound達する鉄の塊だった。


一本だけでも、これを戦場で振り回せるのなら、豪傑と呼ばれるほどの大物。


それを二本も持つこのライカンスロープは、まさに強大な戦士だろう。


一騎当千までとは言わないが、この街のレベル2〜3ファイターに過ぎない大半の衛兵なら、一人で十人は叩き斬れることは想像に難くない。


ファイターレベル6〜7くらいはあるんじゃないかな?その上に、ライカンスロープとしてのフィジカルが乗るから、強さは更にレベル1分は上乗せされるだろう。


おっと、そんなことを考えていると、さあ来たぞ!右からの唐竹割り!


俺はそれを、ショートソードの『灼熱の刃』で弾く!


細いロングソードで肉厚な大斧の一撃を華麗に弾き、外套をはためかせる!いやー、カッコいいね!


ああ、アーティファクトはマジックアイテムとは違って、こんな程度じゃ壊れないからな。基本的には不壊だ。


鉄と鉄がぶつかり合う高音。


火花を散らしながら斬り合う。


もちろん、俺は片手で剣を持ち、余裕そうな顔をしている。


しかし、ライカンスロープは、狼の顔であるが故に分かりにくいが、肩で息をしつつ、必死になって斧を振り回しているのが周りの奴らにも分かるはずだ。


実際、俺は傷一つ負ってないが、ライカンスロープは細かな切り傷でいっぱい。


「ウオオオオッ!!!」


「はあっ!」


ライカンスロープの渾身の一撃をひらりと躱し、すれ違いざまに素早く斬りつける。


額を軽く斬ってやったもんだから、派手に鮮血が舞う。


二、三分くらいそうやって魅せプレイやって、最後に。


「ぐ、クソ!ウオオオオッ、死にやがれーーーっ!!!!」


「終わりだ」


「がはぁっ!!!」


首を刎ねて、月をバックに残心をして、カッコつけて終わり。


「団長がやられた!」「もう駄目だ!」「うわあああ!」「逃げろー!」


その瞬間、盗賊団は総崩れになる。


「今だ!やれーっ!!!」


ギルドマスターのおっさんの大声により、逃げる盗賊団の殆どが後ろから矢で貫かれつつ、潰走。


盗賊団は壊滅した。


クエストクリアだ。

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