第13話 君の前に美しいエルフが現れた
このボロネスカの西側には、『トゥイの森』という中規模の森が存在している。
浅いところでは、様々な薬草などが得られるのだが、深いところではマーダーベアやダイアウルフなどの危険度等級七相当のモンスターが出る。
危険度等級ってのは、冒険者等級と同じで、十〜一級とモンスターの格の違いを示してるんだ。
ホーンラビットなら十、ゴブリンなら九〜八、マーダーベアなら七。
試しに聞いてみたところ、エンシェント・ドラゴンのような伝説的モンスターは一級より上の特級という部類らしい。
ドラゴン狩りか……、いつかやってみたいものだな。
さてさて、薬草採取だ。
三日以内に1poundの薬草を採取……、とのことだが。
「ヨモギじゃん」
ヨモギだった。
マーグウォートという薬草らしいのだが、匂いや形は完全にヨモギ。
これの葉っぱを潰したものを傷口に塗ると、止血効果があるらしい。
……ヨモギじゃん!
とは言え、この世界には魔力の力があるので、生薬でもそこそこの効果が期待できるようだった。
俺は試しに掌を剣で切り、そこにすり潰したマーグウォートを塗り込んでみた。
すると、流血は三十秒ほどで治まり、薄い瘡蓋ができた。
明らかに治りが早い……、これは、確実に治癒効果があるな。
植生が地球に近いなら、シバが地球で作っていたポーションも作れるかもしれない。
試してみるために、余分に薬草を採取しておこう。
「《生命促進》っと」
俺は、回復魔法で傷口を完全に塞いでから、マーグウォートを集め始めた。
とは言え、草のような軽くて嵩張るものを1poundも採取するんだから、割と面倒だな。
一箇所だけじゃなく、何箇所か巡らないと駄目そうだ。
まあ、《看破》の魔法で位置関係は分かるんだけどね。
『グルルルル……』
おや、ウルフの群れ。
中型犬と大型犬の境目くらいの大きさの、灰色の狼だな。
ウロウロと動き、俺を包囲してきた。
と言っても三匹か。
今日の仕事は薬草採取なので、適当に威嚇して追い返すこととする。
俺が殺気を軽く飛ばすと、ウルフは、毛を逆立てて飛び上がり、そのまま尻尾を巻いて逃げていく。
『クゥーン……』
「ざぁーこざぁーこ!」
とりあえず、負け犬を煽っておく。
そうして、昼。
その辺で仕留めたウサギの肉と、市場で買った野菜で、アーティファクトを利用して、クリームシチューを作った。
ルウを使わずに、牛乳、小麦粉、白ワインとコンソメで作るシンプルな一品だ。
何故ウサギを解体できるのか?についてだが、探索者なのでとしか言いようがない。
ウサギの骨で出汁をとっただし汁で、シチューを煮込んで、と。
具は、街の市場で買った、ニンジン、タマネギ、ジャガイモにアスパラガスだ。
野菜たっぷりでヘルシー!
俺は、「二つ」の皿にシチューを盛って、パンの缶詰からパンを取り出して、森に向かって語りかけた。
「ほら、お前も食うか?」
と。
すると……。
「……驚いたわ。森に隠れたエルフを見つけるだなんて」
と言いながら、木の上からエルフの美女が降りてきた。
黄金と蜂蜜を溶かして混ぜたかのような金髪に、空と海を重ねたような美しい碧眼。
芸術彫刻が如く整った顔に、ピョコッと長耳。
細身で華奢な、草食系の雰囲気。
美しい古典的エルフの美女だった。
短めの細い刺突剣……、エストックを腰に佩き、革製の短いズボンとロングブーツ、手甲を装備している。
胸には、磨き抜かれた銀の胸当てをしている。どうやら、武器と鎧はマジックアイテムのようだ。
その他にも、マジックアイテムのサークレットや指輪を所持している。
総じて、一流の冒険者らしい風格を持つ、女エルフだった。
女エルフは、木からピョンと降りて、俺の手からシチューとパンを受け取り、俺が座る倒木の隣に腰掛けた。
「ん〜!おいしい!」
どうやら、お気に召したようだ。
そして食後……。
「美味しかったわ、ごちそうさま」
皿を返却されたので、それに《浄化》の魔法をかけて宝物庫にしまう。
さてと。
「それで、何で俺をつけ回してたんだ?惚れたか?」
俺はそう訊ねた。
そう……、森に入った頃から、この女エルフの視線がずっとあったのだ。
「自己紹介がまだだったわね。私は、エルフのアデリーンよ」
「そうか、良い名前だ」
「うふふ、ありがとう。それで、何であなたを見ていたかって言うと……、魔力が大きいからよ」
ふむ。
この世界の人間のMPを数値で表せば、平均で10くらいだろうか?魔力に優れたエルフでも50は超えない。
そんな中、俺は500くらいはあるだろう。
エルフの十倍と言うのは凄まじい値だ。
エルフというのは、人間の総数と比べると何十分の一くらいの少数民族だしな。
「あなた、もしかして、人間に化けた古代龍(エンシェント・ドラゴン)だったりする?」
ふむ。
「もし、邪悪な存在なら……」
「ここで仕留めるってか?」
「そうよ。この田舎の街じゃ、私くらいしかどうにかできないもの」
なるほど、正義感もあり、と。
俺は、とりあえず、言いふらすなよと前置きしてから、アルギュロスの封印痕を見せつけてみた。
「……それは!なるほど、あなたは半神なのね」
ああ、分かるんだ。
このエルフは凄いな。
多分、見た目より何倍も歳をとってる。
かなり知識もあるようだ。
「それも、異次元の神のものかしら。極めて位が高い神を宿してる……」
俺の銀色の左腕に触れながら、魔力を探っているアデリーン。
「……駄目ね、降参よ。こんな、エンシェント・ドラゴンと殺し合えるような存在とは戦えないわ」
そう言って彼女は、両手を上げてひらひらと手を振った。
「でも、もしも、悪いことをするつもりなら、ここで一撃でも攻撃してから私は死ぬわ」
と、決意を込めた瞳を向けられる俺。
「まあ落ち着けよ、喧嘩を売られた訳でもないし、悪いことなんざしないさ」
俺は、軽い調子でそう返す。
実際、襲いかかってくるならばやり返すが、何もされていないのにいきなり暴れたりはしないつもりだった。
「あなたほどの半神が、何をしにこの街に来たの?」
「迷い込んだんだ。折角だから、暇つぶしに冒険者というのをやっている。今後は、冒険者として英雄でも目指してみようかと思っている」
「光の神よ、真実を照らしたまえ……、『真偽判定(センス・ライ)』!」
ほう、魔術か。
真偽判定の術のようだ。
「……嘘はないみたいね。ごめんなさい、いきなり魔術をかけて」
「いや、良いさ」
「ありがとう、偉大な半神よ。私は、あなたが無闇に秩序を乱さない限り、あなたを尊敬すると誓うわ」
「何でも良いが、君みたいな美人とは仲良くしたいね」
俺は、アデリーンを抱き寄せた。
うーむ、細っこくて柔らかいな。
おまけに、花みたいな良い香り。
「ちょ、ちょっと、何するの?」
「可愛いから手篭めにしようかねえ」
「だ、駄目!私達、まだ会ったばかりじゃない!」
顔を赤らめるアデリーン。
おー、かわええのう。
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