第14話 共同体への貢献

アデリーンといちゃつきながら街へ帰還。


薬草を提出して、100オシラ得る。


オシラというのはこの世界の貨幣単位で、1オシラで100円くらいだ。まあ、今晩の宿代くらいには余裕でなるな。


物価は安めなので、600オシラもあれば一月生活できるみたいだ。


だけど、武器の為の鉄材加工とかは、専門の職人にやらせなきゃならないので、冒険者は経費とかかかって800オシラくらいはかかるんじゃないかね。


まあ今回の薬草採取は、俺が欲しい薬草をたくさん集められたから、ギルドからの報酬以外に俺が得したってのもあるから、報酬額に文句は言わないぞ!


そういや、暦も大体同じだな?


一ヶ月は三十日で、一年は三百六十日と数日。数日、と言うのは、番外日と呼ばれる日が年に5、6日あって、それで閏年や、端数などを調節しているようだ。


暦が同じってことは、似た宇宙だということが分かる。公転周期とか、星の大きさとか、太陽系に近くないと三百六十五日で一年と算出できないはず。


まあ、火星に近い星でめちゃくちゃ寒いとか、水星みたいにめちゃくちゃ暑いとか、そういう異世界じゃないのは助かるよ。


植生が地球に近いのも非常に助かる。


モンスターも、倒したら宝石になる!みたいなファンタジー的存在ではなく、そういう異民族や生物であることがほとんどだし、ゴーストのような非実在存在も、『深淵のアルギュロス』で語られる『幽玄的存在』の例に当てはまっている。


総じて既知感があり、戦闘で困ることは少ないだろう。


あと、後で確認したんだが、薬草採取はかなり高度な技術らしい。俺は榛葉の記憶を元に適切にやったが、少なくとも、草を適当に毟っておけばOK!みたいな楽な仕事ではないのは確かなようだ。


お陰で、俺の冒険者ギルドでの評価文には、「薬師としての能力もあり」と追加されるようになった。


資格をいっぱい持っているのは面白そうなので、様々な依頼を受けていきたいと思う。


ほら、男なら憧れるでしょ?フルビット免許。




そうして、一ヶ月ほど依頼を受けていたのだが……、一向に信用度が上がらない!


何故かとギルドの受付に問いかけると……。


「そりゃあ、モンスター退治みたいな武力が必要なことより、盗賊退治や掃除に荷運びみたいな、この街に必要とされていることをやってくれなきゃ、信用度は上げられないよ」


とのこと。


共同体への奉仕、これに限る。


そう言われれば、この一か月、俺はモンスター退治と薬草採取が中心だった。


変わりところで、製氷の魔法で作った氷を飲食店に提供するとか、そんな程度のもの。


共同体と関わることはあまりなかったと思える。


仕方ない、下水道の大ネズミ退治でもやって来るか……。


ここで、受付の中年を叩き潰して無理矢理ランクを上げさせるのは簡単だが、それは面白くないしな。


俺は、世界で一番自由な冒険者だが、それは裏を返せば、世界で一番不自由ということ。


難しい話じゃないさ。ただ単に、暴力で他人を従わせられるけど、それで全てを解決してしまえば驚くほどに俺の『冒険』はつまらなくなってしまう、という話だ。


だからなるべく、この世界のルールに従い、ギミックを楽しみ、アチーブメントを達成したいということだな。


あー……、簡単に言えばこういうことだ。


『チートコードで何でもできるようになったオープンワールドゲームは、やることが早々になくなって飽きる』ってこと。


そうして俺は、地下の下水道の大ネズミ退治を始めた。


「大鼠(ビッグ・ラット)だったか?三匹退治で依頼一つ達成扱いで、50オシラ。なら、百匹くらい狩るか」


ビッグ・ラットは、中型犬くらいの大きさのドブネズミだ。


強い繁殖力で数を増やし、間引きが遅れると、地下下水道から這い出してきてそこら中を食い荒らす害獣。


おまけに、不衛生で病気も持っているらしい。


もしも素肌を噛まれたら、水でよく洗って薬を塗らなきゃならないそうだ。


そうじゃなきゃ、数日間もの間高熱を出す羽目になるんだとか。


金のない見習い冒険者がこの依頼を受けて、油断して噛まれて、薬代をケチって高熱を出してぶっ倒れるまでが新入りのテンプレだとか聞いたな。


もちろん、俺は、素で装甲点がある半神なので、噛まれても傷つかないし、仮に傷ついても病気にはならないが、噛まれて気分の良いものではない。


気をつけよう。


ふむ……、俺のようなハンサムな冒険者が、地下下水道を駆けずり回ってネズミ狩りなんて、不格好で嫌だな。


俺は知恵ある人間なので、獣は罠で仕留めるぞ!


まず、先日の薬草採取の際についでに採取していた鈴蘭から毒素を取り出して作った劇毒の粉、『ディリ=ティリオの粉』というマジックアイテムを、団子に混ぜて……、と。


これを、下水道の適当なポイントに置いて一晩待つ。


すると、一晩で三十匹も狩れた!


「ちょろいもんだぜ」


俺はそう言いながら、討伐の証としてビッグ・ラットの尻尾を切って持っていく。


死体は、下水に放り込んだ。そう処理しろと教わったし。


いやあ、にしても、一晩で500オシラか。


かなり割の良い仕事だな!


そうして、しばらくの間、地下下水道でビッグ・ラット狩りに精を出していたのだが……。


ある日のことである。


「……!」「……?」「……!」


「ん?」


声が聞こえた。


下水道から、人の声だ。


おかしいな、下水道の入り口は三つあるが、全部回ったぞ?その時、人とは会わなかったし、俺以外に下水道に入った人間の痕跡はなかった。


それに、百人に満たない冒険者ギルドだし、同じ依頼を受けている奴がいれば分かるはず……。


そう考えつつ、俺は地下道に潜む何者かの姿を目にする。


お、いたな。


「《看破》」


とりあえず《看破》だ。


すると……、見えた!


盗賊団員の男三人だ。


なるほど、盗賊団員。


えー、何々?


街の内側に潜入して、夜中に門を開こうとしてる、と。


ふーん……。


これ、捕まえたら信用度上がりそうだな!


「そこまでだ!」


「な、なんだお前っ?!」


俺は、三人の盗賊をぶん殴ってから、盗賊の付けている服やベルトを使って拘束した。


これを、冒険者ギルドに放り込む……。

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