第12話 ギルドの試験
はい、試験は早速始まりました、と。
武器を構える試験官。
なんと、試験官は、冒険者ギルドに入った時に、最初に声をかけてきた斧のおっさんだった。
やはりと言うべきか、話を聞けば、俺の予想通りに大ベテランの六級冒険者だったみたいだ。
六級といえば、このような辺境の小さな街では、街の人々皆が知っている、小さな英雄のようなもの。
俺に向かって木製の斧と盾を構えるその姿も様になっており、自然体ながらもどっしりとした重さと獣のようなしなやかさを兼ね備える武人のそれだった。
「よぉーし!どっからでもかかってこい!」
とのことなので、俺も木剣を構えた。
先程は、このベテラン冒険者の中年を褒めたが、俺からすればまあ、前世の俺でもどうにか勝てる程度の腕前だと看破しているのも確かなこと。
俺は、慣れた手つきで天然理心流の基本の構えである平晴眼……、半身、すなわち、身体を横にして、剣を寝かせて構える形になる。
天然理心流は基本的に、自分がある程度斬られても、最終的に敵を殺せればそれで良い、という考え方をしている。
よく、物語などで田舎剣術と罵られるのは、幕末の剣術隆盛期に流行していた剣術のような、「教育性」「崇高な理念」やら、当時重視されていたそういったものを無視して、唯々敵を殺すためだけの武技だったからだ。
しかして、殺人の為の殺人剣であるが故、強い。
俺は、差し違えてでも殺すという意識を込めて剣を握り締め、軽く気当たりすると……。
「ぅ……、あ……」
おっさんは、目を見開いて尻餅をついた。
「ま、まいった。にいちゃん、ものすげえ達人だな?勝てる感じが全くしないし……」
そう言いながら、おっさんはしきりに自分の首筋を撫でる。
まるで、首が繋がっているかどうかを確認するかのように。
「それどころか、殺されたかと思ったぜ……」
脂汗を垂らしたおっさんに、そのままギルド裏の広場まで連れてこられた。
ここで魔法を使えとのこと。
「あんたに魔法をかければ良いのか?」
「冗談言うなよ!この木人にだ」
そう言って、倉庫から木人を取り出すおっさん。
「壊しちまっても大丈夫か?」
「おう、良いぜ。どうせ安物だ」
へえ、なら……。
「Συνθλίψτε και εκραγείτε!!!」
俺は、《衝撃》の魔法で木人を粉砕した。
この《衝撃》の魔法は、込めるMPにもよるが、最低でも法定速度の自動車が突撃してくるくらいの衝撃を指定箇所に与えるので、木製の標的くらいならバラバラにできる。
最大なら、キロ単位のプラスチック爆弾以上の爆轟を指向性を持たせて放てるトンデモ魔法だ。
木屑がばらばらと宙に舞い、おっさんがカス塗れになる。
唖然とするおっさんに、戦力、技能ともに試験で出せる最高評価の3をもらい、九級一つ星冒険者としてスタートを切ることになった。
さて、試験はこんなもの。
大分目立ったが、試験官の中年冒険者を半殺しにして力を誇示するような真似はしたくなかった。
正義の心なんて一片たりともないが、親父狩りというか、悪いことをしていないおっさんを痛めつけても特に楽しくないからだ。
また、「俺は強いからもっと等級を上げろ!」とギルド側に直談判することもなかった。
確かに、街の掃除や荷運びなんてのはしたくない。
だが、冒険者等級はコツコツ上げたほうがきっと楽しいと思ったからだ。
薬草採取、モンスター退治、商人の護衛。そういうのをちょこちょこやって、いずれ大冒険者になるのだ。
辺境のレベル1ファイターという言葉に心が躍らないTRPGプレイヤーはいない。
レベルは上げている途中が一番楽しいのだ。
その点、最初から最強の俺は成長する楽しみがないのでつまらないかねぇ。
そんなことを思いつつ、冒険者ギルドの建物の中に戻ると……。
「な、なあ、あんた!さっきの魔法、凄かったな!」
と、知らない冒険者の青年に褒められた。
どうやら、十人くらいの冒険者に見られていたらしい。
「そうか?ありがとな」
俺は適当に返す。
だが、冷めた態度の俺を他所に、冒険者達は口々に俺を誉めそやした。
「あの魔法ってなに?!見たことないよ!教えてください!」
若い魔導師風の女。
「なあ、パーティ組まないか?ちょうど後衛が欲しくてさ」
剣士風の男。
色々な奴に話しかけられた。
「あー、この魔法は特殊な訓練を受けていない奴が使うと、発狂死してしまうんだ。それで、パーティは今のところ考えてない。とりあえず、いくつか軽く依頼を受けるつもりだが、その後で、臨時パーティなら良いぞ」
「そっかー、残念」
「おお、そのときはよろしくな!」
と、こんな風に対応した。
敵になっても怖くないが、わざわざ敵を作るような態度を取らなくても良いだろう。
何か、喧嘩を売られた訳でもあるまいし。
よし、じゃあ早速、軽く依頼を受けてみるか。
俺は、九級向けの依頼を一つ、掲示板から剥ぎ取った。
クエスト名は、薬草採取だ。
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