第11話 辺境の街

ボロネスカ。


このティレル王国の南方地方においては、並程度の規模の街。


内陸にあり、主な産業は酒造。


国中の貴族が求めてやまない高級ワインの名産地だそうだ。


そして、それなりに大きい街であるから……。


「ここが、冒険者ギルドか」


冒険者ギルドもある。




冒険者ギルドの始まりは、街のアングラな酒場であった。


人脈を持つ酒場の店主が街の人々から依頼を受け、それを酒場で飲んだくれている傭兵やよそ者、食い詰め者にやらせたのが、冒険者の原型だ。


それから、何十年もかけて、依頼の受け方や階級制度などのルールを明文化していき、現在は国家公認の武装勢力として認められるにまで至ったそうだ。


本来なら、国の制御下にない武装勢力が国内に存在しているなんて、どの国にも看過できない事だろう。


だが、この世界のように、そこら辺に普通にモンスターやら蛮族やらがいて、人民の生活を脅かす恐れがあるならば、国内に制御下にない武装勢力がいるという異常事態を飲み込んででも置きたい勢力という事らしい。


俺は、そんな冒険者ギルドの戸を叩いた。


戸を叩いたとは比喩であり、実際は、役所や郵便局に入るように無言で戸を開く。


何故なら、冒険者ギルドはまさに役所のようなものであり、そして、挨拶をするほど「お行儀の良い」組織ではないからだ。


まず、酒場と併設されている。


この時点でまともな建物じゃないことが窺えるが、更に、その酒場では荒くれ者たちの怒声が響く。


あからさまに堅気のいるような空間ではない。


「おう、にいちゃん!どうしたんだ?」


斧を担いだスキンヘッドの荒くれ冒険者が俺の腰を平手で叩いた。常人がやられたら腰を痛めるくらいに強く叩いたのだ。


友好的な態度だ。


それは、俺が女子供ではなく、かと言って近寄りがたい殺気を放った狂戦士にも見えず、背の高い偉丈夫だったからだろう。


「冒険者になりにきた」


俺は端的に答えた。


「ほう、にいちゃんみたいなのが冒険者か?」


斧男は、ジロジロと、俺のことを頭の先からつま先まで見て、こう言った。


「まあ、良いんじゃねえか?顔が良いから他の仕事もできるだろうが、ガタイもいいし剣の心得もある体つきだ」


斧男の分析は正しかった。俺は天然理心流の使い手だ。


そして、シバの身体は、戦いに最適化されている。


見る人が見れば、歩き方、重心の置き方一つとっても、戦士のそれだと分かるだろう。


「分かるのか?」


俺が訊ねる。


「ははは、見りゃ分かるさ。俺もそれなりに長くやってるからな」


確かにこいつは、昼間から酒場でクダを巻いている中年冒険者だ。


だがそれは、裏を返せば、中年になるまで冒険者を続けられるほどの頑強な肉体と精神を持つことと、それまで生き残ってきたベテランのしるしであるだろう。


それに、口調は揶揄うような感じで印象は悪いのだが、悪意は一片も感じない。


恐らくは、英雄願望持ちの馬鹿なガキが、中古のショートソードを一本携えて「冒険者になりたい!」などと宣った時に、そのガキを脅しつけて家に返してやる、そんな役割の中年なのだろう。この冒険者ギルドの善性が垣間見えるな。


だが、俺は、無頼漢気取りの馬鹿なガキではない。


一端の戦士であると認められたのだ。


そうして俺は、冒険者ギルドに登録をすることとなった。




説明を聞いた。


冒険者ギルドでは、冒険者の格が『等級』と呼ばれる数字で表される。


十級から始まり、一級を頂点とするそれは、『信用度』『戦力』『技能』の三つの観点の平均点から算出される。


普通、『信用度』『戦力』『技能』は、2、1、1から始まる。これは、平均が1で余分に1つあるから、十級の一つ星と評される。


2、2、1なら十級の二つ星だ。


しかし、2、2、2でも、昇格試験に受からない限りは十級の三つ星だそうだ。


十級の三つ星の状態で、2、3、2のように上げれば、昇格試験はパスされて九級の一つ星とされる。星が四つ以上になると強制的に昇級ということだな。


まあ、あくまでもこれは評価基準の目安という話で、普通に冒険者として身分を名乗る時には、「◯級の◯◯と言う者だ」と名乗るのが普通だ。星の数まで喋る奴は自意識過剰。


つまり何が言いたいか?


身元不明の流れ者の俺は、『信用度』が1からのスタートだと言うことだ。


本来、身元が分かっている、故郷が知られている村落出身の冒険者の初期信用度は2で、貴族階級出身などの身元がしっかりしている冒険者は3の評価を下される。


ところが、身元不明の人間は1からのスタートだ。


それだと何か問題があるのか?と言うと、まず、十級冒険者は見習い扱いで、割のいい仕事が一つも回ってこない。


回ってくるのは、地下下水道の大ネズミの駆除やら、街中での荷運びに、救貧院での炊き出しみたいな仕事ばかりだ。


しかも、信頼度は、何度も依頼を達成するとか、依頼成功率とか、街などの共同体に利益をもたらすとか、そう言った地道な努力を要求される。


だから、『戦力』と『技能』の評価を上げることとした。


戦力については、モンスター討伐系の依頼を達成し続けると、戦闘能力ありと判断される。


技能については、魔法や斥候の技術があると判断されれば上がる。


だが、ギルドでの試験を受けることでもこれら二つは上げられる。


とりあえず、九級の駆け出し冒険者にならないと、ろくな仕事が来やしない。


さて、試験の申し込みをしよう。

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