第8話 最初のクエスト準備
「ええっ!でも、それは……」
ノースは、俺の言葉を聞いて驚きの声を上げた。
だが、ここは譲れない。
これ以上ここに足止めされるのは困るからな。
「ゴブリンだろ?あんなの、簡単に倒せたじゃねえか。まさか、拠点には千体もいるんだって訳でもねぇだろ?」
俺は軽い調子でそう言った。
仮に千匹いても、ものの数ではないが。
一体一体は弱い人型エネミーの軍団とか、範囲攻撃魔法のカモなんですよ。
「は、はい。十数匹もいれば多い方だと思います。でも……」
ノースが、何かを言いたそうにしているが、俺はそれを察した。
「ああいや、別に舐めてる訳じゃない。正当な戦力評価を下したまでだ。敵のホームグラウンドだろうが、罠があろうが、奇襲されようが、複数いようが……、どんな最悪の条件(ファンブル)が重なったとしても、負ける要素はないって言ってるんだよ」
俺がそう言うと、ノースは俺をまっすぐ見つめてこう言い返した。
「そこまで言うなら……。分かりました、でも、私にも手伝わせてください!」
えー……。
「邪魔なんだけど」
「じゃ、邪魔?!何があろうと大丈夫なんですよね?!」
「でも足手まといを連れてくのもな。お前の実家の宿屋には世話になったし、その娘を傷物にしちゃ駄目だろ」
「わ、私!見習い神官(プリースト)ですけど、『回復(キュア・ウーンズ)』と『治癒(ヒーリング)』と、『快癒(レストレーション)』までなら使えます!役に立ちますよ!」
えー?
「失った内臓を再生させたりできる?死者蘇生は?」
「む、無理です……。そんなの、王都の最高司祭(シュプリーム・プリースト)様でもなければ……!」
使えねぇなあ。
そのレベルのヒーラーだと、いない方がマシなレベルだ。
「俺はできるぞ」
「……え?あの、魔術師さん、なんですよね?」
「魔法使いだ。魔法は、魔術とは違う」
「よく分かりませんが、回復する魔術なんて聞いたことがありません!」
そんなん言われましても。
「それに、斥候(ローグ)も連れずにダンジョンの攻略だなんて、無謀です!」
ダンジョンな。
この世界は、敵対種族がたくさんいるエリアは総じてダンジョンと呼称される。
更に言えば、モンスターは一体一体がかなり強く、ゴブリンでも三体くらいに囲まれれば一般人ならほぼ確実に死ぬレベルだそうだ。
クラシックなファンタジーTRPGをやったら分かるのだが、レベル1の冒険者はゴブリン数体でリソースがカツカツになるんだよな。
レベル1の冒険者は、五、六人でパーティを組んで戦うと、ゴブリンなんて十体も倒せば、回復役と魔法攻撃役の魔法使用回数はなくなり、矢弾も切れる。
この世界も大体それくらいのゲームバランスだと思ってもらって結構だ。
そこに俺は、一人でゴブリンを百体くらいは一瞬で斬り伏せて、それでなおリソースをほぼほぼ残していられるくらいに強い。
つまり、GMが卓をひっくり返してブチ切れるようなチートキャラだ。
言ってしまえば、人型の古龍(エンシェント・ドラゴン)のようなもの。
少なくともプレイヤーになってはいけないチートキャラである。
現代社会のように、銃砲を並べてドンパチする形式だと分からないが、少なくともこの中世並みの文明の世界では、俺の戦闘能力は軍隊一つ分に相当するはずだ。
しかも、それは「少なく見積もって」だ。
軍隊などの一か所に集まる人間は、さっきも言ったが、邪神召喚や儀式魔法のような範囲攻撃魔法のカモに過ぎない。
俺を殺すには俺より強い単体のエネミーをぶつけるしかないというクソ仕様だ。
物量は無駄だぞ、転移魔法使えるからいつでも逃げられるし。
さて、そんな俺に、村の見習い神官が危険がどうこうと言うのは、正しく釈迦に説法ってものだが……。
だが、このノースの言葉は、純粋に俺を心配してのこと。それに対して、酷い態度を取ろうとは思わない。
美少女に心配されて役得だと言うのもあるがね。
「斥候(ローグ)なら、俺はそれっぽいことができるぞ。ほら、思い出してみろ。最初に出会った時、俺はお前に音もなく近付いて来ただろ?」
上を向いて過去を思い出すノース。
すると、知力判定に成功したのか、思い出せたようだ。
「確かにそうでしたね。でも、やっぱり危ないですよ!……そうだ!狩人(ハンター)のボリスさんと衛兵さんに手伝ってもらいましょう!複数人ならどうにかなるかも……」
この期に及んで足手まといの増員?
……まあ、いいか。
ノースは守ってやるが、そのボリスとか言う奴と衛兵は知らん。
「何でもいい、行くぞ」
「ま、待ってください!準備!準備しましょう?!」
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