第7話 とりあえずアイテムとか用意してみた

 

 とりあえずのテストプレイを行った次の日、リアライブへと通勤した俺は社長の羨望と催促の眼差し(どうしても自分の作ったゲームもどきがやりたいらしい)を受けながら、意見を交わしつつ、雑談していた社内の女性陣に会社から出すキャラグッズについてなにかないかと相談を受けていた。

 それならいいものがある。

 そう喜び勇んで軽い気持ちでそれを自分は彼女らに差し出した。

 だが、そこで安易に出した物が原因で必死な表情で互いを牽制する社内の女性陣に囲まることになった。



 「それを寄越しなさい、寄越せ」


 「…先輩やマネージャーはまだお肌もピチピチですから良いじゃないですか、ね、さあその手を話して私に頂戴、ね?」


 「…これは空君がわ・た・しのグッズにどうかってわ・た・しにくれたんです!

 所持権はわたしにあるんです!」


 「配信者って結構生活リズム崩れるせいかどうしてもお肌が悪くなるんです。

 それにこういうのは親しい先輩後輩の仲である私に優先権があると思うんですがぁ〜?」


 「マネージャーだって日々忙しく働いてんのよ!

 つまり優先権は私にある理由!」



 などなど、そう言って各々争っている。

 きっかけは彼女たちの言った通り、自分が出した独特の青い光沢色の液体が入った2Lペットボトルだ。

 実はこれ、何百倍にも希釈した若返りのポーションが入っている。

 何故こんなものを神といっても過言ではない自分が持っているのかと言えば単純に昔、まだ転生したての頃に拾った物を出しただけだ。

 昔からエリクサー症候群で使うに使えなかっただけである。

 偶々、この前の倉庫整理で追加で何かないか漁っている時に見つかったので配信者が駄目だったら、という頭でこれを使った通販や回復魔法を使ったマッサージでひと稼ぎ出来ないかな、と試しで原液を水と混ぜながら作ったものだ。

 原液をそのまま使わないのはマジで年齢が若返ってしまうからっていうのと、あくまでも化粧品として売り出すために肌年齢、表面の細胞を若返らせるのを目的としていたからである。 

 よくよく考えるとこれ、皮膚病とかにも効果あるから医薬品にも使えるかもしれない。

 なんて現実逃避しながらいつの間にか全員でそれぞれ小さい容れ物に分けて持ち帰る、と結論を出した女性陣に集られながらとりあえずこの件は落ち着きを見せた。

 まだ一言もやるとは言ってないし、あくまでこういった化粧品はどうかと意見出しをしただけなのに…。

 ちなみに社長は気づいたら姿を消していた。

 この会社での社長は案外、カーストが低いのかも知れない。


 と、少し経ったところで本題について口にした。


 単純に例の魔法を使った顔出し配信と制作中のゲームもどきについてである。


 Vtuberからして見れば中身が見えるのはかなりヤバイ事なのだがそれを解決する上でリアルでVtuberのガワを着せたまま演じさせるこのアクセに扮したこの変身、いや擬態?

 …とにかくそういった事ができるこのアイテムならリアルで様々な企業との案件をこなし、さらに枠を作れるのではと期待されて製作を依頼された物をさっそく試して貰いたくて持って来たのだが何も考えずにだしてしまった物のおかげで余計な騒動が起きてしまい、出すのが遅れてしまった。

 下に恐ろしきは女性の飽く無き美を求む欲望なのかも知れない。


 「で、これが例のです。どうぞ。」


 とりあえず、話が進まなくなるので提出する。

 何人かが我慢できず試していたがかなりいい感触だったようで直ぐに用意して欲しいと絶賛された。

 それに了承し、耐久性やデザイン、複数個運用による身バレや意図せぬ解除による事故防止等と様々な話をしながらその日は終了した。

 したんだが、どうにも先輩や社長がペラペラと開発中のアレについて話してしまったらしく、自分たちもやりたいと催促されてしまった。

 何とかVと同じガワでプレイすることや簡単にある程度の時間を貰うことを了承してもらい、帰路についたのだがこうなるとやはり必要になってくるな。

 ただ確認の為のプレイ作業をするだけでは文句が出てくるのは間違いない。

 となるとストーリー、つまりはシナリオが必要になるわけだが如何せん時間が足りない。

 どうしたものか。



 と考えていると足元が何かに引っ張られた。

 何かと見てみると小さい子猫が数匹、ズボンにしがみつきながら鳴いていた。

 どうやら捨て猫らしい。

 近場に異臭のする段ボールがあり、中にはタオルとカラスか何かにやられていたらしいこの子猫の兄弟が中で亡くなっていた。

 可哀想に、何で飼えもしないのに一時の欲望を優先して育てるのか。

 魔法をかけて洗ってやり、軽くチュールを創り出して与えてやる。

 同じ柄の子猫達は必死でチュールを貪りながらこちらを見上げていた。

 …同じか。

 ―――同じっ!!


 その時、脳裏に電流が走った。

 そうだ、一人だから駄目なのだと。

 これが二人なら更に、三人ならより多く。


 何故気づかなかったのか、これぞカルチャーショックという奴なのだろうか。

 何を隠そう、なんと自分は魔法で分身、又は自分の複製体を創ることができるのだ。

 最近全く使っていなかったからすっかりさっぱり忘れていた。


 「フフフ、待っていろよ。

 自身の閃きが恐ろしいぜ」


 どこぞの中二病かと言わんばかりに思い出した自分と閃きの元となった子猫達を褒めながら、褒美と言わんばかりに死んだ兄弟達を蘇生して回収し、我が家へと向かった。

 これで加速度的に開発が進むと喜びながら。

 

 



 





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