第6話 テストプレイ
早まったかもしれない。
そう彼女を部屋にあげた自分は冷や汗を垂らしながら思った。
「ふーん、結構散らかってるね。
ちょっと待っててよ、片付けるから」
などと言って急に自分の部屋を整理し始めたのだ。
散らかってるね? これはベスポジと言うヤツなんだがと心の中で否定しつつも先輩の好意でやってくれている事なので口に出せない。
とにかく、本を置けないから本棚を買いに行こうだのやけに外出に誘ってくるがそんなに暇ではないので本題を話し始める。
そうすると彼女も興味があるのか真剣に聞いてくれた。
とはいへ、今とりあえず作ったこの兵士のヘルメットを白で塗ってサングラスみたいなサンバイザーを付けた接続機器にはめちゃくちゃ口を出されてしまった。
曰く、クソダサいと。
これは試作品なので後々改良しますと話をしながら彼女に被るよう指示を出す。
そうすると彼女は電池でも切れたかのようにその場に倒れ込みそうになった為、慌てて彼女を支えて横に寝かせた。
此処等辺も色々改善の余地がありそうだ。
寝かせてセットするか椅子に座ってセットするか指導する必要もあるかもしれない。
とにかく、初の器(以降はとりあえず良い呼び方が見つかったので義体と呼ぼう)に無事接続出来たようなので自分も早速作ったもう1セットで接続を開始する。
▼▼▼
入った瞬間、そこに見えたのは電子世界と例えればいいのか、何もない黒色の世界に大きな緑色のラインで作られたルービックキューブのような檻の中に私はいた。
「ここ、トレーニングルーム、なのかな。」
あまりにも情緒のない景色に思わずがっかりと呟いてしまう。
それにあとからログインしてきたであろう彼が「まだチュートリアル、トレーニングモードといったところですからね」と返答してきた。
ふぅんそうなんだと返答すると彼は動作確認や健康確認、何よりシステムに異常が出ないかを確認したかったらしく簡単なログインでもそれなりに成果はあったと話していた。
健康被害って怖いことを言っていたけど結果、異常はないならとりあえずよかったと思いながら説明しろと説教しておいた。
有無を言わせず機器を被ってログインしたのは私だったけど…。
とにかく、その後は彼からいきなりゲーム本番は危ないからここで少し慣れてから始める、ということでトレーニングモードを説明を受けながら開始する。
最初は身体の動かし方から。
今回用意したアバターは適当に用意したキャラらしいのだけどいかにもエルフって女性キャラで彼がいうには万能系の技能を持ったキャラクターらしい。
そこでやらされたのはアスレチックのような場所を時間までにクリアするといったよくあるチュートリアル。
でもこれがスゴク楽しい!
まるで自分が動かしている筈なのにダイレクトに感じる感覚、何より超人にでもなったかのような身体能力に私は興奮した。
そして何より戦闘訓練。
事前に彼から色んな説明を受けたが何でもこの世界ではAIによって不都合な事はカットされるらしい。
簡単に言えばリアルに作りすぎたせいで18禁のエログロゲーになってしまったらしく、それを配信しプレイ出来るようにプレイヤー及び配信に出せる様に視覚情報等を変更出来るようにしているらしい。
例えばそのまま私が操作したキャラクターで殺したモンスターは斬りつけると血を噴き出したり、内臓がポロリと出たりするらしいし、負けたりするとそのまま食われたり、繁殖に利用されたりするとか。
それを体感しない様に制限するのがこの機能での設定らしい。
これを使えば血の吹き出しをマイルドにとか無くす事も内臓がポロリする事も無くせるし、不都合な時はまるでゲームのように意識をカットして動けるようになったら覚醒して動けるようにするとか。
ちなみに睡眠はこのシステムで強制カットらしい。
まぁ寝てる所をひたすら見ても仕方ないしね。
それとこのシステムは配信に適用されていて映像でBANされないよう自動で修正されるとか。
彼が一番心配なのはこのシステムらしくそれを試したいのだとか。
だから私が来たのは渡りに舟だったらしい。
都合がいいな~、なんて思いつつ私は身体を動かして彼が出したゴブリンを討伐する。
なるほど、確かにグロい。
首を刎ね飛ばしたのだけどそれに付随して大量の血飛沫に肉の断面が見えてしまった。
慣れない人から見ればかなりキツイだろう。
私は耐性あるから問題ないけど。
と思っていたんだけど血の臭いと感触、これに正直詣ってしまう。
あまりにもリアル過ぎた。
流石にちょっと私でもこの感触はきつい。
そこを彼に相談すると驚いた表情で色々と修正すると話した。
VRって言っても何でもリアルじゃ駄目なんだな〜、そんな話をしながら私は彼の指示に従って魔法の訓練に移行した。
最高だった。
まるで魔法使いになった気分だ。
火に水と色々な魔法を操る感覚に酔いしれながら訓練をして、最後に武器スキルを使っての練習で終わりになった。
本来ゴブリンでやる予定だったけども先程の件で少し調整するらしい。
確かにあれはちょっとグロかった。
血サビの臭いはかなりキツかったし。
とりあえず彼の説明が終わると彼の指定した場所に木人の標的が現れた。
それを指定された武器スキルで攻撃する。
まるで身体が覚えているかのようにスキルコマンドを選ぶ様なものとは違う脳で直接出力して選ぶような他のゲームでは味わえないリアルな一体感、私は何度もその感覚に酔いしれながら彼の言葉とともにトレーニングを終了した。
終わった後の充実度と脱力感を感じながら、私は凄いゲームをプレイしたのだと興奮していた。
これ一回ではまだまだやり足りない。
そう思った私はこれからのリリースまでのテストプレイを引き受けた。
勿論他にも打算はあったけどそれは言えない。
彼は本当に凄い、このゲーム然り、助けてくれた時もそうだった。
あぁ今私はこの2人でいる時間に幸福を感じながら彼と次のテストプレイの感想を話した。
願わくばこの時間が続けばいいなとそう思いながら。
▼▼▼
今回のテストプレイはかなり参考になった。
やはり自分以外の意見はなによりも大事だ。
自分では気付かない欠点を埋める為にも絶対に必要になる。
何せ、ゴブリンの描写についてかなり参考になった。
一応、精霊で描写、と言うか視覚を誤魔化してマイルドに表現出来るが自分は全く必要ないとも思っていた。
子供も配信を視聴するだろうと思ってつけた
程度だったのだが、現代人にはかなり抵抗があると知らずにいた。
自分からしてみればこのゴア表現は当たり前の光景だったからだ。
どうも知らず知らずの内に自分の常識も大分変化していたらしい。
…しかし、これである程度の動作は大丈夫だと分かった。
後はワールド作りだがどう創造するかだ。
とりあえずお試しで自分の中で人類が滅びかけの世界でも覗いてそこに試しに送ってみるか。
自分はこう見えて体内に幾つもの世界を内包しているのでたまにこうやって暇な時には覗いて愉しむのだが今回はそれに実益も取ろう。
そういえば思い出したがゲーム内の時間も操作して一日で12日くらいの時間を体感させてみるのもどうだろうか?
まぁとにかくそこは先輩と相談しながらだな。
そうして次の予定を考えながら彼女の放心しながら座ったままの彼女を見た。
とりあえず、彼女が再起動するまでゆっくり考えるかと資料集めで色々と働いてくれていたリバイスに声を掛け、新しい企画を実装するか相談しながら。
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