似たもの同士

シナリオについての愚痴はあらかた言い終えたので、俺たちはとりあえず席に座って作業を開始する。


軽くパソコンをいじって、すぐに途方もない作業量にお手上げする。

だめだこりゃ。その思いがそのまま口にも出た。


「ゲームつくりって難しい……」


「そっすね……」


そもそも俺も富士もゲーム作りなど未経験なのだ。俺は去年からこの部活にいるが、去年はゲームの歴史とかを発表しただけでゲームつくりなどしていない。


今年もそういうのでよかったのに富士が「ゲーム作ってみたい」と言い出して。


あろうことかゲームの技術面を俺に全任せにしてイラストとシナリオという楽しい部分だけ勝手にやりだしたのだ。


 シナリオを書く片手間で作られたこのプロット。その時点ですでに俺はどう頑張ってもRPGパートと恋愛パートで二種類のシステムを作らないといけなかった。


そしてなんとかかんとか作った時、渡されたのがこの(複)雑なシナリオ。泣きたい。


コイツは本当にこんなアンポンタンなシナリオのシステムを俺一人で作り上げられると思っているのだろうか。というか野菜炒めってどう実装したらいいの。料理システム新設?


俺は大きくため息をついてゲームのシステムというものを何もわかっていない富士に首を振る。世のゲーム会社もこうやって違う部署を毛嫌いしていくんだろうな。


「富士、今度からはちゃんと開発しやすい展開にしてくれよ。はあ、俺が頑張っているからいいものを……負担を考えてくれよな」


「むむむむむむ!」


そう思っていると、富士の普段から千切れかけている堪忍袋の緒がシャキキキキィィィィン!! と音を立てて切れた。うわ、鉄削ってもあんな不快な音出ねえぞ。


「なにをー! センパイが『山なんてめんどいから背景を下から上まで緑一色にしたほうが早い』って言ってたんじゃないっすか! だから歯を食いしばって、天穿つ山とか入れたし、タイカはただの騎士なのに部屋が謁見の間の隣にあることにしたんすよ! うちだって天穿つ山とか厨二クサいの書きたくなかったっす!」


「お、おお……」


驚くべきことに、あのよく考えればおかしい設定はこちらのことを考えてのことだったらしい。ああ、俺の技術力を考えてのものだったんだな。


なら手伝ってくれと言いたいが……まあ、まずは謝ろう。


「それはすまん」


「ったく、本当はあの山で誰かが奇跡のミドリタネを遺したはずだったんすからね」


「あぶねえ、やばい設定回避できた!」


俺はイスにへたり込んで安堵する。さらに面倒な設定を入れる予定だったらしい。


もういい加減にしてくれ、あの緑一色の山で緑のタネ探すとか無理だろ。砂漠で俺ん家の半太郎(柴犬・五才オス・かわいい)の毛探すくらい厄介だぞ。


富士はまだありますよ、と口を尖らせたまま不満を垂れ流してくる。


「センパイが『これがRPGパートのキャラの素体』とか言ってマ〇ンクラ〇トみたいなやつ見せてきたから、抜けるような白一色の肌~とか一見目立ちすぎな全身赤のドレスでも~とか書く羽目になったんすよ?」


「む……」


「あれでどーやって萌えろって言うんすか、いつからうちはブロックキャラの萌えRPG考えてたんすか!?」


「うっせえな! 俺にプログラミングとグラフィック全任せにしたのが悪いんだろうが!」


俺はフェンリルもかくやという勢いで吠えた。何度でも言うが俺はもともとゲーム作りに関してはズブの素人なのだ。


富士がゲーム作るって言うから四月から必死に勉強して、やっと簡単なゲームならなんとか、ってレベルに達したんだ。そう思った頃に大風呂敷を広げられた俺の身になれ。


「もう絶対豚肉の野菜炒めのグラフィック作らないからな!」


通常、ゲーム作りでは絶対に言わないような捨て台詞を吐いて睨む俺を、富士は変顔をして煽ってくる。


「はいセンパイ無能~。うちはシナリオだけじゃなくイラストも担当です~」


舌を出して煽るその姿はとんでもなくムカつくが、たしかに立ち絵を書くのは蓮水。しかも言う通り、コイツの絵はうまい。自分で担当したところはそれなりにちゃんとしているのだ。ストーリーもちゃんとやればいけそうだし。


まあそこはいい。いつかの俺が魔王や他の敵のグラフィックを作ってくれるはずだから。それまではテキストの一文に過ぎない情報だが。


だが、一つだけ気になる点がある。


「それを言うとさ……お前あのタイカって主人公、俺だろ」


「……は、はあ? 何の事っすか? 性格なんてぜんぜんちがうっすよ?」


富士は目を逸らして否定したが、どう見てもいつもより口調が弱弱しいし挙動不審だ。


……それに。


「タイカって反対から読めば海太だし、立ち絵の目つきのわるい顔がまんま俺だ」


喋ってて泣きそうになってくるが、そういうことなのだ。俺を知っている人がタイカをたら大体の人は俺だと判別するだろう。なんの罰ゲームだよ。


俺はイスを引いて立ち上がり、富士の前に仁王立ちになって見下ろす。


「クソゲーに勝手に自分出されたやつに言うこと、三文字で言ってみろ」


「……RIP?」


「ごめんだボケナス」


「あてっ」


軽いチョップを頭に食らわす……どちらかというと平手を頭に添えて押す感じだが、まあ罰にはなるだろう。


富士は頭に手を当ててから口を尖らした。


「それならセンパイ、登場人物だけ最初に決めた時にそれ言えばよかったじゃないっすか。変えさせたのはヒロインの名前だけだったっすよね?」


……それを言われると痛い。


たしかに主要人物を決めることになった時に俺はタイカのラフ絵も見ていた。なのにそこには何も言わずヒロインをフヨウという名前にしてくれと頼んだだけ。


「……」


どうしてもその理由は言いたくない。


なんとかこれ以上つつかれないように取ってつけた理由をうそぶく。


「もうどうしようもなかったからとりあえず名前だけでも俺が手向けて葬ってやりたい? 的なやつだよ」


「あの時点で、っすか? むう、なんなんすかもう。フヨウってヨーロッパっぽくないから浮くんすからね」


「ま、まあいいじゃねえか。ごめんって」


タイカも大概ヨーロッパ圏の名前ではないのだが……藪蛇なので黙っておく。


すると俺の様子がヘンなことに気付いたのか気付いていないのか、富士はニヤリと笑って肘で横腹をつついてきた。


「もしかして、好きな子の名前っすか? うちのことは下の名前ですら呼んだことないのにー、このこのー」


「……うっせ。ほら、今日も部活始めるぞ。ダラダラしててもしょうがねえだろ」


「はいはい。ま、陰キャには名前呼びムズイっすかー」


富士はそうカラッと笑ってから話は終わり、という風に席に着いた。俺も席に着いて頬杖をつく。


そして、少しだけため息をついた。


(……どうせ素直に名前も呼べないやつですよ、俺は)

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