第55話

夕刻。エレンを自宅まで送る玲。


「じゃあ、また明日ね!」

「うん、今日はありがとう。特別な一日になったよ」

「ううん、わたしこそ」


小さくなっていく玲の背中を見つめるエレン。やがて、その背中は夕闇に溶けて消えていく。幾度となく見たはずの背中。でも、それは友人として見ていた光景。今は、恋人として見ている光景。


同じような光景なのに、抱く思いも感情も何もかもが違う。


「そっか…昨日までとは違うんだね」


小さくエレンが呟いた。


---


バスの揺れに身を任せながら、今日起きた出来事の一つ一つを咀嚼する玲。


エレンが玲の背中を見つめたときに感じた昨日までとの変化を、玲も同じように感じていた。


「これからエレンは僕の恋人になる。訪れる毎日に幸せを感じさせられるように尽くさないといけない」


そういえば…と玲は考える。


「姉さんと一緒にいたときの自分は、いつも幸福の中に生きていた。自分が目指すべき姿は、やはり変わらない」


エレンという恋人が出来たことで、自分は更に成長を重ねていかなければならない。


エレンは未来への「楽しみ」を、玲は未来への「責任」を感じていた。

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