第52話

いつものように、玲は軽く睡眠をしたのちルーティンのように夜明けの空の撮影に取り掛かる。見下ろす街は今日も深い眠りについている。


街の向こう側に広がるのは薄暗い雨雲らしく、よく目を凝らせば雨が降っているようにも見えるが、恐らくは気のせいであろう。ゲリラ豪雨のような雨量でもない限り、明け方の中で遠い街を隠す雨のカーテンを見ることは難しい。


それでも、写真に収められないかと玲は試したものの、曖昧な写真しか撮れず芸術を感じるような瞬間は形に残せなかった。


「今日は、これで良いか。どことなく明るく見える」


雫を交えて思い出話に浸かった昨日を振り返っていると、何気ない明け方を家族がほんの少し明るく照らしているように思えた。


それは、玲の心に生きる家族の存在が玲の人生を彩る役割を果たしているのだと、収めた写真とレンズ越しではなく直に見る空から思っている。

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