第50話
雫を送る車内は、夕食時から続く亜希の話が同級生であった雫を中心に展開されていた。玲にしろ百合にしろ家族としての一面しか知らなかったものの、学校といった家族が介さない空間の中においても大きく変わったところはなかったらしい。
「いつもお姉さんみたいで、だからこそクラスメイトや他の学級の子も厚い信頼を寄せていました」
「姉さんって、どこにいても同じだったんですね。その姿は、弟として見ていた光景と重なります」
思い出話は尽きないものの、車は雫の住むマンションに到着。
「また、いらしてね。その時は迎えに行くから」
「お心遣い、ありがとうございます。わたしの中にあった時計が確かに動いた気がします」
突然の別れから長い年月が過ぎ、今を生きる雫と今を生きていたはずの亜希にあった見えない絆が強固なものになった一日であった。
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雫を自宅に降ろして帰路に着く二人。
「今日は月がよく見える」
月が雲間から見え隠れしていた夜空が、気が付けば月の一人舞台へと展開している。
「雫さん、嬉しそうだった。姉さんに会いたかったんだね」
「ずっと会いたかったけど会えなかった親友との再会だからね。目に見えないけど、心の中で通じあえたことが、彼女にとっての心残りを拭う方法だったんでしょう」
坂を上る車から見えるのは、浮かび上がる遠い街明かり。それは、人の生活が確かに刻まれていることを表している。
「普通に時間が過ぎて、普通に生きていく。当たり前だけが淡々と通り過ぎていくことが、昔は羨ましく思っていたな…」
「それは仕方無いわ。それでも玲くんは、純粋な前を向き続ける心を失わなかった。星井家の長男として相応しく歩いてきたと思う」
「でも、こうして今があるのはおばあちゃんや友だち…周りに恵まれたから。悲しみとしか向き合えない時間が流れ続けていたら、壊れていたはずだよ…」
人の一生には常に波がある。「上り坂、下り坂、まさか」などというが、だから面白く恐ろしい。
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