第44話
これまで通り自宅でも会話はあったが、以前と比べて明らかに笑顔が減っていたことを亜希は感じていたわけで、それだけに百合の帰国という日常の変化は玲にとって元気になる良いきっかけになると思った。
現に玲はヨーロッパから中東から、様々な国のお土産に目を輝かせながら笑顔で眺めている。
「おばあちゃん。玲くんが前のように笑顔を見せたの、凄く久々な気がする。戻ってきてくれてありがとう」
「たった一人のお母さんを亡くした心の傷は大きいもの。でも、良かったわ」
玲の姿を少し離れたところから眺める二人。
「ただ、もし亜希さんも苦しい時が合ったら連絡してね。これでも、あなたのお母さんを育てた、たった一人の親だから、何か出来ることはあるかもしれない」
「ありがとう。でも、わたしは大丈夫。今は玲くんの姉として、そしてお母さんの代わりとしても強く生きないと。ちょっとの事じゃ、耐えられないと」
世の中には、姉という立場と母親という立場を兼任するような状況にある人も存在するわけで、年齢に関係なく負担が大きいことは言うまでもない。
「亜希さんも真希に似てるわ。何もかも一人で背負うところ。やっぱり親子ね」
「最後まで母親として生き抜いた…そんなお母さんに似ている部分があるというのは、わたしには誇りよ」
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夜は、少し離れた場所にあるレストランへ。そこは高層ビルの上階にあるため、夜景がよく見える場所でもあるイタリアンレストラン。
「もしかしたら、ここは亜希さんなら覚えているかもね。玲くんは小さかったから覚えていないかも」
「たしか…5歳ぐらいの時?」
「そう。ここの季節の野菜を使ったパスタが気に入っていたのを覚えているわ」
「どんなパスタかうろ覚えだけど、凄く美味しかったのは覚えているよ」
「ふふっ、どこまでも親子ね。好みまで一緒」
コース料理であるため色々な料理が運ばれてくるが、さすがに一流レストランということもあって、どれもこだわりがあり高いクオリティを誇る。
「いつか、二人もこういう店に自分だけで行くことになるから」
それは、百合の願望にも近い思いがある。どんな場所にも似合う品を纏える人になってほしい、いや…なってくれると。
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