第43話
夏とは言えない暦との差異を感じる蒸し暑さが時折顔をのぞかせる。それでも、暦通りに季節が切り替わっていくのは視覚的にも分かるほどで、それは色を付ける紅葉といった自然が生み出す変化が語っていた。
ある日のこと、百合が仕事の区切りがついたということで帰国することとなっていた。ただ、亜希も玲も予定が入っていたため空港へ出迎えることが出来ず、百合が直接自宅へ来ることとなっていた。
インターホンが鳴る。カメラの向こうには百合がいた。
「はーい」と玲が出迎えると、カメラには映りきらなかった手荷物が一人で持ち切れないぐらいにあった。
「久しぶり。お土産を買ってきたんだけど、こんなにたくさんになっちゃってね」
「わぁ…凄いたくさん」
「おかえりなさい…って、おばあちゃん、凄い量ね!とりあえず上がって…!」
手荷物の他に大きなキャリーケースもあり、一体どれほどの物を抱えて空港からここまで来たのかと。
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「数か国回っていてね…、イタリアにスペイン…それからフランス。あ、ドバイにも」
ヨーロッパを中心にぐるぐると回り、時には中東まで足を伸ばしていた百合。奇しくも明日が真希の誕生日ということもあって、タイミングよく帰国することが出来た。
「本当はね…真希に着せてあげたかった服があってね。着せてあげることは出来ないけど、買ってきたの」
それは洗練されたデザインのコートであった。
「もし、今後大きくなったら亜希さんが着ると良いかもね。真希の子どもだから、サイズも合うかも?」
「わたしが…?」
大人びたトレンチコートを着て街を歩く自分の姿が、今一つ想像が出来ない亜希。
「わたしに似合うのかな…。イメージが出来ないかも」
「大丈夫よ、わたしが保証するわ。亜希さんなら、きっと着こなせる」
そんな話をしていると、横から玲が
「あの袋に入っているものって何?」
と疑問を投げかけた。
仏壇に手を合わせた後に、その袋の中にあった物を取り出した。
日本には売っていない衣服や菓子、アクセサリー等々とジャンル問わず様々なものが次々に出てきた。
「ほしいものがあったら、遠慮なく取っていってね」
「わぁ…ありがとう!」
百合が玲の笑顔を見たのが、ものすごく久々な気がして、自分が勝ってきたお土産によって孫の笑顔が少しでも引き出すことが出来たのがうれしかった。
「そういえば、明日お父さんが帰ってくるの。「上手い具合に仕事の区切りが付いた」って。お母さんの誕生日に合わせて帰ってくるの」
「類さんも…。家族そろっての誕生日なんて、真希も嬉しいはずだわ」
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