第25話

夕飯を食べるには、人によって少々深い時間とも言える午後8時。玲が友だちの母が運転する車に揺られた後、友だちと母の3人で玄関の前にいた。


インターホンを押すと、ドアの向こうから真希と亜希が出てきた。


「わざわざ自宅までありがとうございます」

「いえいえ!とても楽しそうにしていましたよ」

「ご迷惑掛けなかったでしょうか…?」

「全然!そんなこともなく…」


といったようなやり取りを玄関前で続けていると、「旦那が帰ってくるので、わたしも失礼しますね」と言って去っていく。


「ありがとうございました」


玲が楽しいと思える空間が家族の中以外にもあることは、玲にとっても大事なこと。このご家族とは、今後も良好な関係を保っていたい。真希が、そんなことを思っていると、


「またね!」

「うん!バイバイ!」


と、玲と友だちが元気よく挨拶を交わしていた。


---


「玲、ちょっと話しておきたいことがあるけど…良い?」


手を洗ってソファでくつろぐ玲の横に真希は座って、そう言う。


「うん、どうしたの?」


事情を知らないであろう玲が、じっと真希を見る。


「お母さんね、明後日からしばらく家に帰らないの」

「えっ?どこか行っちゃうの?」

「これから先も、玲や亜希の元気な姿を見続けるために病院で体の中を調べるの」


そう言うと、玲はやや嫌そうな顔で病院という言葉に反応する。


「病院って体が悪い人が行くところだよね?お母さん、どこか悪いの?」


思った以上の鋭い返答に真希も驚いたものの、先ほどの言葉を使いながら


「悪いところが無いかを調べるの。これからも家族で楽しく暮らすためにね」


と答えると、「楽しく暮らす」という言葉に安心したのか「わかった!」と、それ以上引き下がること無く納得したようであった。


---


類が帰国する日は土曜日であったため、学校が休みである亜希と玲も連れ家族で類を空港まで迎えに行くこととなった。類の到着を待つまで、空港内のカフェでくつろぐ3人。


やがて類の乗る飛行機の到着時刻となり、3人は到着口へ足を運んだ。


定刻通りの到着。10分程で類が到着口から歩いてきた。


「あっ、お父さん!」


玲が走って類のもとへ走っていく。


「玲!元気にしていたか?」

「うん!僕は元気だったよ!お父さんは?」

「大丈夫、お父さんも玲と同じように元気に暮らしていたよ」


久々の父との会話は、玲にとって待ち遠しかった時間であったのだろう。


「類、おかえり」


真希も類の帰国を歓迎する。


「真希、ただいま。亜希も来てくれてありがとな」

「お父さん…少し痩せた?」

「そうか?確かに忙しかったのは事実だけど…その影響かな」


類が帰国したのは、半年…いや8ヶ月振りぐらいか。人の体型や見た目が変わるには十分な時間。


仲睦まじい家族の姿は、傍から見れば何ら変わったところはない。


ただ心の中には、それぞれの不安を抱えている。

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