第13話
世界的なファッションデザイナーとして名高かった百合を目の前に驚きを隠すのに必死な雫。ファッションにおいて色々と参考にしていた部分もあったらしく、ある意味で教科書という位置付けにいた人物と対峙する時間は些か形容しがたいものがあった。
「立ち話もだから、中へいらして」
せっかく家まで足を運んでくれたのに玄関で話を進めるのも…と、百合は雫をリビングへ案内した。
「お邪魔します…」
すると横から玲が優しく声を掛ける。
「楽にしてくださって大丈夫なんですよ。昔、僕の家に来ていたようにしてもらって」
玲はそう言うが、とはいえその言葉通りにも…という具合に、雫はどこか不自然である。
「楽にって言っても…まさかお婆様が津川さんだとは思ってなかったし、正直戸惑ってるよ…」
「祖母がデザイナーだったのは過去の話ですよ。今は別の仕事をしながら生活していますし」
「いやぁ…」
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広いリビングにあるお洒落なテーブルと椅子。街で見かける家具量販店には無さそうな見た目のそれらに、雫は「素敵…」と小さく呟きながら見つめている。
色鮮やかな壁画。大きな窓から差し込む夕方前の透明度ある黄色い光。どことなく甘く優しい香り。そしてオルゴールの音色。
五感でリビングの空間に流れる他とは違う空気に、改めてとんでもない所に来てしまったと雫は思っている。
「とりあえず、座って。今、紅茶とお菓子を持ってくるから、ゆっくりなさって…」
百合がそう言うとキッチンの方へと歩いていった。後を追うように玲が歩いていく。
「おばあちゃん、僕も手伝うよ!雫さん、ゆっくりなさっててください」
広いリビングに一人残る雫。視線を次から次へと移していく。
_____そういえば亜希、たしか昔に「わたしのおばあちゃんって凄いんだよ」って言ってたけど、凄いってもんじゃないよ…世界的ファッションデザイナーの津川百合だったなんて
すると、高級そうな棚の上に一つの写真立てが立て掛けてあった。
雫は立ち上がって写真立てのそばへ歩くと、そこにはまだ幼い頃の家族写真があった。
「その写真…」
玲が雫の背中から声を掛けると、雫は驚いて
「あっ、ごめんね!勝手に見ちゃって…」
と焦りと驚きの表情で玲を見つめる。
「いえいえ、構いませんよ」と玲は答え、家族が写るその写真の説明を始めた。
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