第9話
玲が下駄箱に外靴を入れて中靴を取り出していると、後ろから声を掛けてくる男女の声。
「玲!おはよ!」
クラスメイトから他のクラスの生徒から挨拶をされる玲。
「ああ、おはよう」
「どうした?元気無いけど…」
「いや、ちょっと考え事をね」
「そういうことね!なんかあったら相談してよ!って、俺が解決できるか分からないけど…」
ニッとはにかみながらクラスメイトの一人は足早に階段の方へ走っていった。
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階段の踊場には光が差し込む。玲の影が映る。
暖かな空間は心地よく、いつもなら何気なく通り過ぎる踊場という狭い世界から足を踏み出せない。
しかし、ここに居座っては道を塞ぐわけであり教室にも行かなければならないため、コンフォートゾーンから一歩…また一歩と離れて2階の教室に向かって歩く。
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自席に座って鞄から教科書などを取り出しながら「まさか雫と出会うとは」と、突然の出来事に驚いている玲。
蘇ってくるのは、亜希と一緒に遊んだ数々の思い出よりも通夜で涙を流し続けていた雫の姿。
「あれから8年か…」
自席の背もたれに身を預けながら囁くと、右の方から「何が8年なの?」と。
「もしかして、お姉さんが亡くなってからの時間?」
「あっ!う、うん…。偶然、校門前で姉さんの親友だった人に会ったんだ。その人は家にも来ていたし、小さい頃も一緒に遊んでくれて。それで、ふと思ったんだ…そうか、あれから8年も時が流れたのかってね」
玲の隣の席に座る森野エレンは、小学校時代から付き合いがある友人。日本人の父とアメリカ人の母という、いわゆるハーフである。玲にとって、最も付き合いの長い友人といっても良い。
瑠璃色の瞳、艶やで美しい色合いの髪。ハーフということもあって見た目はアメリカンな雰囲気が強く、校内でも常に注目の的になる。
「その人と出会って思い出していたのね…」
「一応、放課後にも会う予定なんだ」
自身の素性を明かさない玲ではあるが、長い親交のあるエレンは亜希の死を知っている数少ない一人だ。
それは小学1年生、亜希の一周忌の翌日まで時を戻した話である。
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