第7話
当たり前な時間というのは、もはや自分の体に浸透しすぎて無意識の世界で永遠と錯覚する。
ただ、どれ程に穏やかで安らぎに満ちていようとも、一人一人の命というのは削れていく。全く命を削らない瞬間というのを、人は知らない。
いかに天才が医学の常識を覆そうとも、いかに英雄が世の中を変えようとも、残念ながら不変の真理というものが存在する。
人の心というのは儚さに弱い。胸を苦しめるのに、また味わおうとする。
食卓テーブルに並ぶ見事な栄養バランスを誇る百合が作る朝食といえど、その瞬間を止めることは出来ない。
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玄米ご飯に味噌汁、煮物が二品。あとはサラダ。
玲自身、食事について何か特別にオーダーするわけではないものの、洋食よりも和食が好みということもあって、かつて百合に「和食の方が好きかな」と口にしたことがあった。
百合自身も健康面を踏まえて和食派なので、和食というジャンルはお互いの食の共通点だ。
柔らかな時間が流れる朝食を食べ終えた二人。百合は後片付けを、玲は顔を洗面台に向かった。
窓から差し込む朝日の光を居間にある観葉植物が目一杯浴びている。オルゴールの音色が雰囲気と見事な調和を繰り出す。
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけてね」
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通常、公立中学校までは校区内という決まりがあるが、玲の住む家から中学校までは距離があるためバス通学を行っている。
二つ目のバス停から徐々に学生を中心に乗り込んでくる。おそらく高校生だろう。この通りを進むと高校が幾つかあるため、そこへ通う学生が寿司詰めまではいかずとも、ある程度の密度になってバスに揺られている。
狭いバスの中では教科書を開くかスマホで何かするか位しか出来ない。カメラからデータ転送した今朝の写真を眺め出した。
イヤフォンから聞こえるのはエレクトロピアノを中心とするスローテンポ寄りな音楽で、写真の雰囲気を立体的に味わえる。
玲自身は写真を撮るだけでなく、他の人が撮った写真にも興味がありSNSでも様々なプロが投稿する写真に目を通すこともしばしば。
「綺麗な星空だな…僕も、こんな風に撮れたらな」
25分ぐらい車内で揺られていると、玲が通う中学校前にバスが停まった。
学校前といえど、正確には車線を挟んで中学校がある。そのため、一度横断歩道を渡る必要がある。
イヤフォンを外して赤信号をしばらく待っている。少しずつ学生の姿が中学校へ吸い込まれていく。
そんな光景をぼんやりと眺めていると、一人の女性が玲に向けて声を掛けた。
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