第6話
玲はショートスリーパーであるため、一日に30分程度の睡眠でも十分に回復する特異体質の持ち主である。そんな玲が、自室の椅子で居眠りをしていることは珍しい。
とはいえ、時間にして5分程度。そんな時間の中で、玲は夢を見ていたようだ。
覚えている夢の中の世界は、まだ自分が幼い頃にタイムスリップした空間。
日々新しい瞬間が目の前に映し出される。頭の中では記憶と忘却のリピートが幾度となく行われていく。何が重要で何が些細なのか。
---
玲は、自室のドアを開けて1階のキッチンに向かった。
「あら、おはよう」
「おはよう」
「朝ごはんは、もう少し待っていてね」
「まだ大丈夫だよ。水を飲みに降りてきたんだ」
キッチンにいたのは、祖母の百合。玲からすると、母方の祖母にあたる。
「今日も写真、撮ってたの?」
「うん、いつも通りの朝だよ」
「良い写真は撮れた?」
「とりあえずは、ね」
「それは良かったわ」
祖母とはいえ年齢は還暦前ということもあるが、それにしても年齢を考えると若々しい姿。
百合はかつてファッションデザイナーとして、その名前を国内外に広く知らしめていた。表舞台にも立つことはしばしばあり、確かに女優といったような芸能人という立場ではないにしろ多くの人々の目に留まる立場ということもあり、自身を若く見せるために必要なことはストイックに継続し続けてきたからこその姿なのだろう。
だからといって、そんな生活を玲にも押し付けるといったことは決してなく、基本的には玲の意思を尊重しながら、時としては自身の経験値を生かしてアドバイスや修正をしながら玲を支えてきた。
写真の話や何気ない話をしているうちに、時間は6時になろうとしていた。
「そろそろ朝ごはんの準備をしなきゃね」
「ありがとう。シャワー浴びたら、一回部屋に戻って僕も支度を始めるね」
---
シャワーを浴びた玲は、自室のカーテンを開けて窓を開けた。
朝日は昇り、その光が窓を貫き部屋の四方八方へ広がっていく。
日の光が見えてきたものの、このあたりの時間帯が最も気温が下がるため明け方にベランダで感じた肌寒さと同じかそれ以上の冷たさを感じていた。
コピー機には、すでに印刷が終わった今朝方の写真2枚。1枚はアルバムの中へ、もう一枚をファイルに入れる。
その他の支度も終えて1階のキッチンに向かうと、和食の良い匂いが包み込んでいた。
思わずその匂いに釣られそうになるところをぐっと抑え、その前にと仏間に行って仏壇に手を合わせてきた。
百合は庭で自家栽培している野菜が多くあり、朝食に出てくる料理の野菜は全て庭で採れた物である。
「それね、今朝採れたものなのよ」
「新鮮でみずみずしいね!」
何気ない朝食の時間。その空間は、確かに幸せな祖母と孫の二人が映る光景に見える。
緩やかで落ち着いていて…。
柔らかな笑顔と共に流れる時間があった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます